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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第1章 上級仕官で王子様で騎士様な、ど偉い御方
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娘の幸せ

「そういう訳で、お嬢さんを預からせては貰えないだろうか」


「はい、こんな娘でよければ是非お願いします」


 王子が一通りの事情を説明し終えると、父が間髪入れず即答した。


「はぁ? なんで即答なのよ! 娘がいなきゃここの牧場が困るんですー、みたいなのないの?」


「確かにお前がいなくなると困ることは多い。でも俺は牧場主である前にお前の親父だ。父親なら娘の幸せを1番に優先してやりたいと思うだろ?」


「なんで軍部の厩番になることが娘の幸せに繋がるのよ」


「お前は今年で19歳。同い年かそれよりも若い娘さんがポカポカ子供を産んでいるって言うのに、お前と来たら浮いた話のひとつもない」


 ポカポカって……。浮いた話がないのは余計なお世話だ、と父親を睨みつける。


「それとこれと、何の関係があるの」


「かぁ〜、コレだから未だにいい人の1人も出来ねぇんだよっ!軍部と言えば男!!男だらけだろ!変わった女の趣味を持つ男の1人くらいいるかもしれないだろ?」


 今変わったって言ったよね?父親のクセに酷くない?


「あわよくば、騎士様のお眼鏡にかなうかもしれん」


「ぶっっ!んなことある訳無いでしょ」


思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


 騎士の称号を貰えるのは多大な武勲を立てたから。つまりは国にとっての英雄(ヒーロー)だ。


 騎士の称号を貰えれば出世街道を行くことは間違いなく、給金も跳ね上がるし、他にも特権が付いてくる。

 そんな御国の英雄達がモテないはずもなく、貴族のご令嬢方を始め、富豪や上級官吏の娘といった女という女が狙いにいく。

 男からすると「逆玉の輿」に乗れる可能性が十分に有り得るのだ。


 家督を継ぐ事が出来ない貴族の次男以降や、一発逆転を目指すような農民の息子まで、騎士の称号を目指して軍部の門を叩く男は後を絶たない。


 男たちにとって金銭的にも社会的にも、そして外見的にも上等であろう女が選り取りみどりな状態の所へアリシアが入ったところで、選択肢のうちに入らないことは明白。

 むしろ女と言うカテゴリーに入るのかどうかすらも怪しい。



 アリシアが吹き出したお茶を布巾で拭いていると、父親がハッハッハと笑って背中を叩いてきた。


「何事も夢はでっかくだ!」


「話はまとまったみたいだな」


 目の前に座る王子が優雅にお茶を飲みながら微笑みかけてきた。



 ――ムッカつくーっ!




 こうしてアリシアは名前をとうとう思い出せなかった王子付きの厩番として、王宮軍部へと行くことになった。



***



「ははっ、参ったな」


 王宮軍部の宿舎にある自室へと戻ると、第6王子ことフェルディナンド・エステルハージは数刻前の出来事を思い出して笑った。



 牧場主の娘、アリシアは相当な変わり者だった。



 まさか自分以外には絶対に懐かないあのクルメルに触れられるとは。


 他人にクルメルの世話を頼むことは出来ないので、遠征に行く時は必ず連れて行かなければならず、自分にとってクルメルの存在が大きな負担になっている事は明らかだった。


 自分以外には懐かない。ただその一点だけを除けばクルメルは良馬どころか秀馬と言っていい。

 パワー、持久力、俊敏さ、どこをとっても秀逸で乗り手の意を的確に読み取り体の一部となって動いてくれる。


 そして何よりも、自分にしか懐かないクルメルが愛おしく、手放すなどと言う選択肢は存在しない。



 そんな中現れたのがアリシアだ。



 フェルディナンドが求める馬を一発で連れてきたり、父親の話によれば娘にブリーディングに関する全てを任せていると言っていた。


 女がズボンを履くなどはしたないと言う考え方をするこの国で、男装をしてまで効率を重視する仕事への姿勢、そしてあの様子からすると、乗り手としても調教の腕も相当なものだろうと踏んだ。



 どうにかして軍部の厩番に引き入れられないか。



ああ言う変わり者で出来るやつ程自分の意のままに動かすのは難しいという事は経験上分かっていたので、どんな手を使おうかと考えているところに、休憩室でのあの一件……。



 「種付けをして欲しい」などと頭のネジがぶっ飛んだ女だと思ったが、こちらとしては好都合。

 自分の虜になってくれれば楽に引き入れられるし使うことが出来る。


 たとえ子を孕んだとしても、平民の女が王子の子だと言ったところで誰も信じないだろう。もちろん養う事くらいはするつもりだったし、そうなればますます自分からは離れられなくなる。



 なのに……



 打算的な考えで手を掛けようとしたらあのザマだ。


 今にして思えば初めてこちらを見た瞬間に浮かべた喜色の色も、あれは恐らく、いや間違いなくクルメルに向けた表情だったとは笑えてくる。




 馬を1頭調達しに行ったつもりが、まさか2頭

の良馬を手に入れられるとは。



「さて、あのじゃじゃ馬をどうやって手懐けようか」



 フェルディナンドは先程取引してきた馬を後日取りに行かせる為に、使いの者を部屋へと呼んだ。

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