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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第7章 馬を訪ねてどこまでも
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アリシアの目的地、カルロ島にやって来ました

「高炉だ。あそこで鉄鉱石から銑鉄を生産している。上の方で荷車を引いている人が見えるだろ? 炉の上から鉄鉱石と木炭を層状に装入して、下から水車駆動のふいごで空気を送り木炭を燃やすと鉄ができる」


「へえぇー。なんかよく分からないですけど凄いですね」


「ここはサダルの王家が所有する鉱山なんだ。サダルでも指折りの鉄の生産場所で来てみたいと思っていた」


 道理でここへ来るまでの山道は道幅がそれなりにあって、荷馬車が通れるようになっていた訳だ。数え切れない位の荷馬車とすれ違った。


「鉄の産出国で有名な割には、サダルに入ってから鍛冶屋ってほとんど見ませんでしたね」


 農機具や大工道具なんかをつくる道具鍛冶はポツポツと見かけたが、武器鍛冶は見たか見ていないか程度だった。キシュベルだと少し大きめの街なら武器鍛冶屋はごく普通にある。


「鉄の製造はしてもサダル(こちら)で武器は作らせない。鉄はそのままキシュベルへ送って武器になる。分かるだろ?」


 武器を大量に作って謀反にでもあったら大変だもんねぇ。フェルディナンドの説明にふんふんと頷き返す。


「とは言え国を守る為には武器が必要。だから武器鍛冶屋が全く無いという訳では無いんだが、サダルでの武器製造は厳しく制限をかけている」


「そういえばお兄さんにはお会いにならないのですか?せっかくサダルまで来たのに」


 アリシアの質問にフェルディナンドは頭を横に振った。


「今回は身分を明かさず、ありのままのサダルがどうなっているかを見てくるようにと言われている。5番目の兄上からの報告もあるが、国内からと国外から見た場合ではまた見え方も変わるだろ」


 ちょっとどころかそう言う難しい話には滅法疎いので、そう言うものなのかととりあえず頷き返しておく。身内にも気軽に会いに行けないなんて大変なご身分だ。



 しばらく町中を見て回って、その日はそのまま町に泊まった。

 

 製鉄所を後にして更に数日かけて西へと進んでいくと、いよいよアリシアの目的地、カルロ島へ行く船に乗れる港町に出た。


「ほわあぁぁぁ!!! これが海!! うみーーーーっ!」


 キシュベルは内陸国なので海がない。ここへ来るまでにキシュベルで1番大きな湖と言うのを見たけれど全然違う。ちょっとベタっとした潮風と独特の香り、そして開放感。


 港では船から次々と見たことも無いような魚が運ばれていく。


「おい、あんまり端まで行くと落ちるぞ」


「す、すみません。つい興奮してしまいまして」


 泳げないくせに落っこちたら大変だった。フェルディナンドに首根っこを掴まれて引き戻された。


「馬はクルメル以外、とりあえずこの港町に預けていく。船で島まで大体3時間くらいだそうだ」


 船は数日に1便しか出ていないらしい。クルメルにはフェルディナンドかアリシアしか触れられないので、厩舎に預けるのは難しい。なのでクルメルにも頑張って船に乗ってもらう事にした。


 船に揺られること3時間ちょっと。


 普段馬に乗って揺られることが多いおかげなのか、船酔いというものはしなかった。


 島に降りると港を中心に街が広がり、見た感じ島の中心の方は果樹園や田園が細々とあるだけで緑一色の小高い山が連なっている。この島の人達が漁業中心の生活をしている事が伺えた。


「この島にはキシュベルの兵は居ないんですか」


「ああ。サダルには1000近い島があって人が住んでいるのはその内の数十島だが、全ての島に兵を常駐させるのは難しい」


 通りで先程から注目を集めるわけだ。島の人達にものすごいジロジロ見られている。男たちは侵入者でも見るような目で見ているが、女達は目がハートになっている。フェルディナンドもだけど、ヴァルテルも結構なイケメンだもんねぇ。


「とりあえず、島のどこに行けば馬がいるのか聞いてみましょう」


 ヴァルテルが近くにいた漁港で働くおばさん集団に話しかけて、聞き出してきてくれた。


「この島には2つしか馬を飼う牧場はないみたいですね。その内のひとつは牛メイン、もうひとつは馬専門のようです」


「それでは馬専門の方へ行っても?」


「決まりだな」


 クルメルは船酔いしてしまったらしく、少し具合が悪そうだ。乗らずに曳馬をして、馬牧場まで3人でのんびりと歩いて行くことにした。





「うっ、うっ、うまああああああああぁぁぁ!」


 船から降りて歩くこと2時間。道の向こうにある放牧場にはアリシアが夢にまで見た、正に夢のような光景が広がっている。


「あっ……あっちにもこっちにもフィンダス歩様をする馬がいっぱい…!!! はやっ、早く行きましょう!!!」


「少し落ち着け。俺がまず牧場主に話をするからその鼻血を何とかしろ。大体フィンダス歩様って何だよ」


 ヴァルテルから差し出されたハンカチを2枚も血で染めてしまった。今度新しいハンカチをプレゼントせねば。


 フェルディナンドはクルメルの手綱をアリシアに預けると、牧場から訝しげな顔をして出てきたおじさんに話しかけに行った。


「こちらの牧場主の方でいらっしゃいますか。わたくし、キシュベルで商いをしておりますアドリアンと申します。こちらの島にいる馬に興味がありましてお訪ねしたのですが、牧場を見せて頂いてもよろしくでしょうか」


「ほぉー、キシュベルから馬を見にわざわざこんな島までやって来たのかね。物好きな人もいるもんだ。この島は見ての通り漁業が中心でね、馬は生活に必要な最低限しかいないっていうのに。いいよ、入ってくれ」


 フェルディナンドはこの視察の間は身分がバレないように偽名を使っている。フェルディナンドはアドリアン、ヴァルテルはイムレ。あちこちを商売の為にまわっている商人と言う設定らしいが、全っ然商人ぽくない。


 アリシアはクルメルを馬繋場に繋ぐと、早速見学させてもらいに放牧場へと足を早める。

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