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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第7章 馬を訪ねてどこまでも
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視察に同行。まずは実家へ(2)

「ああああああああぁぁぁ! めちゃくちゃスーパーウルトラかわゆいーーーーーっ」


「おい、何なんだ?」


「見て分かんないんですか? クルメルジュニア……えーと、牝馬(女の子)だからクルメル二世? んん? ミンカ二世かな。この母馬はクルメルに種付けしてもらったミンカですよ」


「アリシアちゃん大丈夫? 鼻血でてるよ」


 ヴァルテルにもらったハンカチで鼻血を拭いていると、父親が事務所から何だ何だと出てきた。


「おお、アリシア、早速見つけたか。先週産まれたんだが、どうせ今日来るからと思って連絡はしなかったんだ。いーぃ馬だろう?」


 問答無用で良いに決まってる。額から鼻にかけてに白い模様がある黒鹿毛の牝馬で、赤ちゃん独特のあどけない表情に悶絶してしまう。


「アリシアさんのお父様でらっしゃいますか? わたくし、王宮軍部中尉のヴァルテル・アルパートと申します。本日は娘さんに馬を見立てて頂きたく参りました」


 貴族だと平民を見下すような人も沢山居るし横柄な態度を取るようなのもいるけれど、流石はヴァルテル。本当に品のいいヒトは誰にでも丁寧な挨拶をするものなんだなぁ、と感心してしまう。


「これはどうもご丁寧に。こちらこそ娘がお世話になっております。こちらの方は……フェルディナンド殿下でしょうか?」


 父がフェルディナンドを不思議そうな顔で見上げる。と言うのも今回の視察は内密に行うようで、変装のためにフェルディナンドは金色の髪をヴァルテルのような黒色に染めている上に伊達メガネをかけ、軍服ではなくちょっと育ちの良さげな一般的な男性服を着ている。


 キシュベル人はもともと南東からやって来た民族なので、これから行くサダルの人とは顔つきが少々異なる。サダル人はこげ茶や黒と言った暗い髪の人が多く、顔もキシュベル人と比べるとどことなくモッサリとした印象。


 髪色を差し引いてもフェルディナンドみたいな爽やか系は嫌でも目立つので、メガネをかけてカモフラージュしているみたいなのだが……


 黒髪にメガネで、どこか別次元の色気を醸し出してしまっている。


 ちなみにアリシアは栗色でやや明るめな毛色をしているものの、さほど目立つ色でも目立つ顔でも無いのでこのまま行く事になった。


「そうです。本日もお世話になります」


 何となく変装している理由は聞かない方が良さそうだと判断した父が、相好を崩して挨拶をしはじめた。


「フェルディナンド殿下もお久しぶりで御座います。殿下の活躍ぶりはこの王都の外れにまで届いておりますぞ」


「いえ、王宮での娘さんの活躍ぶりに比べればまだまだですよ」



 しばらく男たちの話が続いているので、その間にクルメルの赤ちゃんを思いっきり撫でくりまわして堪能させてもらう。ミンカ二世は母親がアリシアに警戒していないせいなのか、怖がったりせず、なされるがままに触らせてくれる。


 かわいい、かわいい、かわいいーーーっ!


 かわいいの嵐が吹き荒れてどうにかなってしまいそうだ。


 これまで牧場で産まれてきた馬を売りに出したくないなんて思ったことはないけれど、この子は絶対に売りたくない。


「それじゃあアリシア、案内してこい」


 話がひと段落したようで、父親に声をかけられた。


「はーい。ヴァルテル中尉、こちらへどうぞ」


 ヴァルテルを案内する間際、ボソッと父が「既婚者かー」と言う声が聞こえてきた。

 まだ騎士との結婚を諦めて無かったんだ……。



 ヴァルテルにピッタリそうな子の目星は付いている。

 馬装をパパっと済ませて試し乗りをして貰うと、すぐに色の良い返事が返ってきた。


「すごいね。本当にしっくり来ると言うか、もう10年くらい前からこの子を知っているかのように感じるよ」


「ふふっ、この子はまだ6歳ですよ。勇敢だけどちょっと甘ったれな性格がヴァルテル中尉にピッタリかと思います」


 ヴァルテルは甘やかし上手な人なので、きっと相性がいい。早速イチャコラやっている。


 『ツコル(お砂糖)』と名付けられたこの馬はこのまま無事に視察の旅に連れていくことになり、心の中でホッと胸を撫で下ろした。

 ツコルを連れて行ってもらわなきゃ、クルメルにまた2人乗りしなきゃならないもんね。


 さらに王太子と王太子妃からも馬を頼まれているので、選んだ馬を王宮に届けてもらうよう父に頼んでおいた。


 フェルディナンド、アリシア、荷運び馬を挟んでさらにヴァルテルと続き、用事が済んだ牧場を後にする。



 他の領地へ行ったことも、ましてや他国へ行ったことの無いアリシアにとってはかなりの大冒険。地図を片手に今どこにいるのか時々確認しながら、2人の後をひたすら付いて行く。


 基本的に2人が聞き込みをしたり見て回っている間アリシアは、その日に泊まる宿屋の厩舎に馬を預けて手入れなどの面倒を見ている。

 旅とはいえ馬の世話以外にやることの無いアリシアはのんびりまったりしている時間が多く、王宮で働いていた時よりもずっと楽。

 宿も厩舎がついたそこそこ良いところで、もちろん別室にして貰っているので、自分は税金泥棒しているじゃないかと不安になってくる。



 旅に危険は付き物。と、ある程度は覚悟して出てきたけれど、極力ひと気が多く警備の手厚い安全な道を選んでくれているようで、今のところ魔獣の襲撃にも宿場町に入り損ねて野宿をした時の1度しかあっていない。

 それもアリシアが馬の嘶き声に驚き目が覚めて、何事かと目が覚めた時には魔獣はのされたあとだった。


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