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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第7章 馬を訪ねてどこまでも
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視察に同行。まずは実家へ(1)

少しずつクライマックスに近づいてきました。もう少しお付き合い下さいませーΣ( >д< )ゞ

 密着感が半端ない。


 今アリシアは、クルメルの背にフェルディナンドと一緒に相乗りして、実家の牧場へと向かっている。


 何でこんな事になったのかと言えば、話は数週間前に遡る。



「フィンダスが何処からやって来たのかやっと分かったぞ。サダル王国にあるカルロ島と言う島からやって来たようだ」


 サダル王国と言うのはここキシュベル王国の南西にある海に面した国で、30年くらい前にキシュベルの属国となった。


 まさかフィンダスの出処を本当に調べあげて来てくれるとは思わず、と言うか、アリシアは完全に忘れていたので驚いた。


「カルロ島……という事は船でこちらまでやって来たということですか?」


「ああ。島で暮らしていたとある男が旅にでも出たいと馬を連れて大陸に渡り、キシュベルを放浪していた時に外出中の陛下に馬を譲って欲しいと頼まれたらしい」


「大金を目の前に積まれて、代わりに新しい馬でも買えばいいや、と言った所でしょうか」


「そういう事だろうな」


 国王陛下もまた突拍子もない人だ。その辺を歩いている馬がいくらカッコイイからって突然譲ってくれってお願いするなんて……いや、私も多分するな。同類だ。陛下に急に親近感が湧いてきた。


「どうする? 行ってみるか?」


「行ってみるかって、しばらく休暇を頂けるということですか?」


 休暇を貰えるのだとしたら、その間のクルメルの世話は以前のようにフェルディナンドがすると言う事なのだろうか。それとも遠征の予定でもあるとか?


「実はな、俺とヴァルテルで各地を視察しに行く予定があるんだ。主にサダル王国の方がどうなっているのかを見に行く予定だったから、一緒に付いてくればいいんじゃないかと思ってな」


「それって私がついて行ったら明らかに邪魔になりません?」


「いや、そうでも無いさ。馬の世話はして貰えるし、知らない男に話しかけられるよりも女性の方が警戒されにくいと言うのもあるしな。まあ付いてくるとなったらそれなりに使われることになるが、それでも構わなければ来て欲しい」


 「来て欲しい」なんて言い方はちょっとずるい。「来てもいい」って言ってくれたらいいのに、答えにくい。


「どうやらその島固有の馬みたいだぞ」


「行きます! ぜひお供させてくださいっ!!」


 一瞬で迷いはなくなった。


 是が非でもその馬たちを拝みに行かなければ!

 あわよくば、何頭か連れて帰って繁殖させなければ! と言う使命感に駆られる。


 そんなこんなでフェルディナンドとヴァルテルの視察の旅にお供させて貰うことになったのだけれど、さてここで、何故フェルディナンドと相乗りをしているのかについて。


 天候の悪い日の事を考えると馬車の方がいいけれど、馬車移動だとある程度整備されて道幅も広くないと通れない。あちこちに立ち寄って見るとなると、行動の自由が効くということで乗馬での移動となった。

 それに雨季になる秋までには王宮へ帰ってくる予定だし、アリシアも頑丈な体しているのでその辺はあまり心配ないのだろう。


 乗っていく馬はと言うと、アリシアのいない王宮にクルメルを置いて行く訳にはいかないので必然的にクルメルを使う事になり、ヴァルテルはと言うと、新しい馬をアリシアに見立てて欲しいという事で途中で牧場に寄ることになった。


 新しい馬を手に入れる予定のヴァルテルは、後でアリシアが乗る予定のバームスをフェルディナンドから借りて乗って移動している。という事で、フェルディナンドと相乗りするハメになってしまった。


 バームスの方に一緒に乗せてもらった方が、気が楽だったのになぁ……。


 クルメルは身体が大きく、2人乗りでもビクともしないくらいのパワーがあるので仕方が無いのだけれど。


 通り過ぎていく家々の窓辺や庭先に植えられたゼラニウムの花が嫌でも目に入ってくる。虫が嫌がる匂いがするので虫除けにもなるし花期も長いしで、よく植えられる植物なのだ。


 ゼラニウムと言えば髪留めを貰って以降、特に何も無いので、アリシアも特別何か事を起こしたりはしていない。


 さっさと誰かと政略結婚でもしちゃえばいいのに。


 何かに思い悩むのは自分らしくないし、調子が狂う。


 フェルディナンドの前に座っているので、必然的に腕に囲われるようになるのが何とも言えない。早く解放されたい……。

 なんならフェルディナンドに前に乗ってもらって自分が手綱を握りたい。……それじゃあ前見えないか。デカいんだよ、この人。


 アリシアが腕の中で悶々としている内に、やっと牧場に辿り着いた。



 死ぬほど長かった……。



 下馬のエスコートは丁寧にお断りしてヨロヨロとしながら馬から降りると、牧場の入口には『王室御用達』の看板が本当に掲げてあった。


 こう言うのって許可とかいるんじゃないだろうか?


 チラりとフェルディナンドの方を見ると何も言わないし、特に気にした様子もないので良いという事……なのかな?


 馬を置きに奥まで入っていくと、馬場にはひと組の母馬と子馬が寄り添ってこちらを見ていた。


「あああああれって……あれって……ままままさかっ……!!!!」


 道中の緊張による疲れが一気にぶっ飛んだ。

 あの母馬はミンカ。そしてミンカに去年種付けしたのは……。


 興奮をどうにか抑えて親子の方へ寄って行くと、ミンカがアリシアに子馬を見せるかのように近付いてきてくれた。

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