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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第6章 隣にいて欲しい人はここには居ない
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百合厩舎にて

 王宮の一角から、微かに楽器が奏でる音色と話し声が聞こえてくる。夜もすっかり更けてきた言うのに窓からは明々と照らされている光が漏れ出ているのが見えた。



 今頃はフェル様もあそこで誰かと楽しげに踊っているんだろうなぁ。



 …………まぁ、関係ないか。



 毎年行われる春の舞踏会には、フェルディナンドも参加するのだと言っていた。

 アリシアは視界から王宮を無理やり引き剥がすと、目的地へと足を速める。


 身分を示す札を見張りをしている兵に見せると、中へ通してくれた。


 アリシアがやって来たのは百合厩舎。

 来客用の厩舎で、王宮で用事が済むまで馬たちはここの厩舎で休んで待機している。


 アリシアは今日という日をずっと楽しみにしていた。と言うのも、王宮でこう言った催し物がある時には普段は見ない馬たちが各地から集まってくるから。

 これまでは軍部の厩舎と薔薇厩舎にしか立ち入れられなかったが、先日のハンナの件で王から褒美に全ての厩舎への立ち入りを許可して貰えた。


 全ての厩舎へ自由に立ち入れるのは総厩長と厩長だけなので、これはかなりの高待遇と言っていい。


 ルンルン気分で足取りも軽く厩舎の中へと入って行くと、馬たちが誰か来たと顔を覗かせて見てくる。


 御者達は王宮内にある待合室にいるので、厩舎の側にある小屋で厩番が数人、番をしているだけだ。


 だれだれ〜? とでも言いたげな顔が馬房の柵から顔を出してくるのが可愛らしくてつい、クスクスと笑ってしまった。


 馬たちに挨拶をしながら見て回っていると、アリシアの牧場から買われて行った馬に何頭か出会った。アリシアはこれまで自分の牧場で生まれて買われて行った馬たち全てを覚えている。家族を忘れるわけが無い。


「わぁー! アリシアだよ、覚えてる? 今はなんて名前なのかな? 相変わらず良い脚をしているねぇ」


「お前も母親似のツヤッツヤでいい毛並みだね。大切にされているみたいで良かったよー」


 馬の鼻面に頬をウリウリと当ててイチャつき、久しぶりの再会を楽しませてもらうと、さらに他の馬も見て回る。


「あー、この子いいっ! いいわー。誰の馬かなぁ。お願いしたらちょっと種付けに貸してくれないかなぁ」


「おおー! この子なんてコンパクトな体してるけど体力ありそうねぇ。この子とあっちの芦毛の子で掛け合わせたらいいんじゃない? いやー、絶対いい子が生まれるわァー」


 頭の中で妄想ブリーディングを楽しんでいると、カツカツと言う足音が聞こえてきた。

 足音のする方へ目を向けると、正装をしてめかし込んだフェルディナンドが近付いてきた。


「やっぱりここに居たか。一人で何をブツブツ言ってるんだ?」


「あれ? フェル様。こんな所へどうしたんですか。どなたかのお見送りですか?」


 パーティー自体は明け方近くまで行われるが、途中で帰るという人もいる。先に帰るご令嬢でもエスコートしてきたのかと思ったのだけど……


「いや、違う」


 との返答にハッと気が付いた。まさかコイツ……!!


「まさかとは思いますけど、空いている馬房を休憩室代わりに使おうって言うんじゃないですよね?! そういう事でしたら他所でやってくださいよ」


 パーティーの席で用意される休憩室がどう言う目的で使用されるかくらい、参加したことの無いアリシアだって知っている。庭園にだってこう言う時にうかうかと入り込むと、男女でお楽しみの最中だったりするんだから。


 連れてきたどこぞのご令嬢でも後ろから来るんじゃないかと、フェルディナンドの背後をキョロキョロと覗き見しようとすると肩を捕まれ振り向かされた。


「へぇ、お前にまさかそういう趣味があるとは」



 かっ、顔が近い……!


 後退りすると、狩りを楽しむかのようなフェルディナンドの顔がさらに近づいてくる。


「だ、誰が私の趣味だなんて言ったんですか?!」


「馬に見られながらって言うのも悪くないなんて思っていたりして?」


「もう怒りますよ!」


「自分はじっくり見ていたくせに?」


「それはそーゆー事じゃなくて……」


 じりじりと距離を詰められて、とうとう空いている馬房の中の壁に背中がぶつかった。



 ひいぃぃ……! 誰が助けてー!!



 頭の後ろに手を当てがわれて恐怖のあまりぎゅっと目を閉じたが、パチンっと音がするとその手はすぐに離れていった。


「?」


「髪紐の代わりだ。これを使え」


 自分の頭の後ろに手をやると何か硬いものに触れた。髪の毛から取って見てみると、花を模した髪留めだった。


「え……? いや、こんなお高そうなの頂けません! 汚したり無くしたりしたらどうするんですか?!」


 何がどうしたら、使い古したリボンがこんな髪留めに変身すると言うのだろう。


 髪留めに嵌められている赤くキラキラと輝く物が、ガラス玉でも、ましてやその辺に転がっているような石ころでもないのは、物を見る目のないアリシアにだって判別出来る。


「汚れたり無くしたりしたらいくらでもまた買ってやる。だから毎日必ず付けてこい」


「そんな……」


「分かったな?」


 仕方なく頷くと、フェルディナンドが前髪の上から額に優しくキスを落としてきた。


「それじゃあ俺はまた会場に戻る。お前もあまり夜更かしするなよ」


「はい……」


 フェルディナンドの足音がしなくなると、アリシアはその場にへなへなと座り込んだ。


「何だったの……?」


 覗いてくる馬に問い掛けても返事は無い。

 しばらくアリシアはぼんやりと、貰った髪留めを見つめた。

好きな人を前にするとついついイタズラしたくなっちゃうフェル。こんな事ばっかりやってるからダメなんだって、誰か言ってやって下さいw

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