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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第5章 お姫様と厩番
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弟子とか師匠とか

「お前、俺の厩番だよなぁ?」


「私もそのつもりで軍部にやって来たんですけど。って、重い! 重いですよ!!」


 夕方、厩舎の事務室の机で日誌を付けているとフェルディナンドが後ろからのしかかってきた。

 筋肉の塊みたいな大男、上半身だけでもかなりの重さがあるんだから潰れるっつーの!


「その割に全然俺の馬見てなくないか? おまけに今度はハンナを弟子にとって面倒を見るって」


 王の馬フィンダスの世話に始まり、装蹄、姫の乗馬指導、軍部にいる問題馬と言われてしまっている馬達の調教や厩番達のお悩み相談……と、あちこち奔走していてフェルディナンドの馬の世話は他2人の専属厩番に任せてしまっている。

 ちなみにフェルディナンドの専属厩番の2人も最近は、随分と親しく話しかけてきてくれるようになった。クルメルの世話さえすれば快く他の仕事は引き受けてくれる。

 

「ほぼ、私が望んだことじゃないんですけど。特に弟子とか。弟子とか。弟子とか」


 勝手に弟子入りさせられたかと思ったら今度は弟子を取れって、もう何なのーー!と叫びたい。


「まぁ兄上が今回のことを了承したのも分からなくは無い。ハンナは世間知らずと言うか……責任感が無いわけじゃないんだ。ただ、分かっていないだけなんだよ。荒療治が必要だと判断したんだろうな」



 それをただの厩番に過ぎない私に押し付けるんかい!


「有能すぎるというのも考えものだな」


「オ褒メイタダキ、アリガトウゴザイマス」


 フェルディナンドに頭を撫でくり回されていると、ガチャリとドアの開く音がした。


「フェルおじ様、イチャついているところ悪いですけれどお邪魔しますわね。たった今からアリシアの弟子としてお世話になる事になりましたハンナ・エステルハージです。どうぞよろしくお願い致します」


 フワリと膝を折り可憐な動きでカーテシーをしてみせる。そんな厩番いないでしょ。あと、師匠呼び捨て。


「はぁ……分かりました。こうなったら、徹底的にやります……いえ、やるわよ! ハンナって呼ぶし、敬語は使わないし、私の指示には絶対に従うこと! 分かった?!」


「Yes, sir!」


「よろしい」


「一応護衛は付けるが、危険な事さえなければ基本的にハンナの事はアリシアに任せた」


「承知しました」


 アリシアは日誌をパタンと閉じると、宿舎へとハンナを連れていく。


 何はともあれ、腹が減っては何とやら。まずは腹ごしらえをしに食堂で夕食を受け取り、アルフレッドとリリが仲良く食事中の所へお邪魔する。


「アリシア、その子はだぁれ?」


「ハンナ・エステルハージ。王太子殿下のご息女改め、私の弟子」


 のんびりとした口調で聞いてきたリリが急にビシッと背筋を正した。


「はっ、ハンナ姫でございましたか。失礼を致しましたっ!」


「「私の弟子」って何? どういう事??」


 アルフレッドも、ちぎって食べようとしていたケニエルをポトリとトレーに落としたまま固まっている。


 かくかくしかじか……。


 サラッと2人に説明をし終えると、ハンナが改めてニコリとお姫様スマイルで挨拶をする。


「わたくしの事はどうぞアリシアの弟子として接して下さいませ」


「アリシアって馬以外にも実は結構モテるわよね」


「本人は気付いてないけどね」


「なんか言った!?」


 アルフレッドとリリが顔を寄せあってコショコショと話しているところに水を差してやる。公衆の面前でイチャつきやがって!


「それにしても……なんでわたくしやこちらのお2人よりもアリシアの食事は豪華なの?」


「王様からのご褒美。文句言ってないでさっさと食べるわよ」


 スープがぬるいだの、パンがポソポソだのとブー垂れているハンナを「感謝して黙って食べなさい!」と一喝して黙らせ食事を終えた。



 食堂からそのまま、リリと3人で湯浴みをしに大浴場へと向かう。髪の毛のひとつも自分で洗えないハンナにお湯を頭からぶっかけたら泣かれてしまった。顔に水がかかったからって泣くなんて信じられない。


 リリに仲介に入ってもらいやっとの思いでお風呂を済ませベッドへと潜り込むと、これまたハンナがブー垂れはじめた。


「わたくしが簡易ベッドなの?」


「当たり前でしょ。私は師匠。あんたは弟子。それに寝心地だって大して変わらないわよ」


 アリシアの眠る2段ベッドの横に簡易ベッドを用意してもらった。

 簡易ベッドって言ったってアリシアの寝るベッドと大差ない。どちらにせよ硬い板を感じる仕様なんだから。


「こんなゴワゴワしたお布団かけるの?」


「あぁん? これでも贅沢な方なんだからね! 貧しい農村なんかに行ったら、すきま風の吹く家の中で藁の上に薄い布掛けただけなんだからね! そんなこと言ってたら贅沢お化け出るわよ!!」


「アリシア落ち着いて、ガラ悪いよ……。ハンナ様、宜しければ私のベッドで寝ますか?」


 2段ベッドの上から様子を伺っていたリリが、ポンポンと自分の布団を叩いて交換するか聞いてきた。


「いーいーの! ほら、騒いでると他のみんなに迷惑かかるんだから。明日から早いんだしもう寝るわよ」


「騒いでるのはアリシアの方じゃない」


 ハンナは不機嫌そうな顔をぷいっと背けると、布団を被って眠ってしまった。


 突然、お姫様と一緒の部屋で眠ることになってしまった他のメイド達も、唖然としつつも布団に入り始めた。



 はぁ……先が思いやられる。



 こめかみをグリグリして頭を解していると、アリシアもいつの間にか眠りに落ちていた。

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