2.
1度自分の恋心に気づいてしまうと、リリに会うのが楽しみな反面、挙動不審な態度になってしまう。
フェルディナンド中佐って何であんなに自然とレディファースト出来たり、あまーいセリフを吐けるんだろうなぁ。いや、俺なんかとは生まれが違うんだから当然か。
今度秘訣を聞いてみようかな。
……ダメだーー。俺今、何故か嫌われてるんだった……。
食堂でたまに一緒になったり、洗濯物を届けに来た時に会う程度でなかなか距離を詰められず悶々としていると、アリシアから街へリリと3人で出掛けようと誘われた。
なんでも、王宮に来てから1度も外へ出て街中を散策したことがないから2人に案内して欲しい。との事。
3人の予定を何とか合わせて王宮の外へと繰り出した。
「王宮に来る時に通っただけだけど、やっぱり賑わいが違うねー!」
「私も初めて来た時にはビックリしちゃったよ。何処から行く? こっちの通りにはアクセサリー屋さんがあって、あっちにある雑貨屋さんは手頃な値段でカワイイ物がいっぱい売ってるんだよ!」
「いいねー、行こ行こ」
女子トークになかなかついていけず、とりあえず2人がはしゃぎながら散策する後を付いて行く。
なんか俺、これだと用心棒みたいだな。
まぁ2人が楽しそうだから良いか。
何店舗かお店を回っていたら、辺りが暗くなって気温もぐんと下がってきた。
くしゅんッ! とリリがくしゃみをすると、アリシアがこちらをジィーーーっと見てくる。
え? なになに? 何でそんなに睨んでくるの?
……あっ! そう言うことか!!
アリシアの視線の意図を汲み取ると、急いで上着を脱いだ。
「リリさん良かったらどうぞ」
「えっ……あ、ありがとうございます」
リリが頬をピンク色に染め上げて上目遣いにはにかんだ。
めっちゃくちゃかわいいーーーーっ!!
心の中で悶絶していると、アリシアがコホンっとわざとらしい咳をした。
「あー、なんか私、急にクルメルに会いたくなってきちゃったなー。クルメルが私を呼ぶ声が厩舎から聞こえてくるような気がするわ。っと言うわけで、私先に帰るね! 2人はせっかくの休みなんだから、もう少し街を楽しんでいきなよ!」
「は……? アリィ何言って……」
「えぇ?! アリシアちょっと……」
「じゃ! アル兄、リリの事頼むね! じゃあねーー!」
アリシアは手をブンブンと振ると脱兎のごとく
、物凄い速さで去って見えなくなった。
ポツンとリリと2人取り残されてしまったけれど、これはチャンス!!! 頑張れ俺!
「あの、リリさんはまだ帰らなくても大丈夫ですか? もし良かったらお腹も空いて来ましたし、このまま食事でもどうですか」
「は、はいっ。ぜひ」
あまりかしこまり過ぎないオシャレな外観のレストランに入った。木の温もりを感じるような内装と家具で、チェック柄のテーブルクロスに、天井からは観葉植物がぶら下がっている。
「たまにはこうやって外で食事をとるのもいいものですね」
「はい。食堂とは雰囲気も全然違いますしね」
「軍部は男ばっかりだからね。そう言えばアリィはお父さんに、軍部は男だらけだから旦那さんを見つけてこいって送り出されたらしいよ」
「ふふっ、アリシアは馬にしか興味なさそうですよね」
「さっきのクルメルに会いたいからって、どんな理由だよって感じだよね。でもアリィだと有り得そうな所が怖いよ」
「あの、アルフレッドさんってもしかして、アリシアの事を好きだったりしますか?」
「えっ?! まさか、そんなんじゃないよ。好きだけどそう言うんじゃなくて、可愛い世話の焼ける妹って感じ」
アリシアとの仲は他の人にもよく勘違いされる。
実際、アリシアの親父さんや師匠、兄弟子達からもお互い両想いなんじゃないかとか色々勘ぐられた事もあるけど、全然そんなんじゃない。多分アリシアの方もそう思っている。
アルフレッドの答えに、リリは「そうなんですか」とどこか安堵したような顔をした。
それって俺がアリシアのこと好きじゃなくて良かったって事なんだろうか。これってもしかしてもしかすると、脈アリって受け止めていいのかな?!
「……アリィと仲良くしてくれてありがとう。あいつ、ちょーっと変わってる所あるからさ。軍部で浮いてても本人は全然気にしてないみたいだけど、でも、リリさんみたいに良くしてくれる子が居るのは心強いと思うんだ」
「いえ、私はそんな……。むしろ私、いつもアリシアにはパワーを貰ってるんです。よしっ、今日も仕事頑張ろう! って。でも……」
「でも?」
さっきまでキラキラとしていたリリの瞳が、フッと暗く陰った。
「すっごく尊敬してるのに、頑張っているアリシアを見ていると時々無性に羨ましくなって……それから、自分が惨めな気分になるんです。アリシアはアリシアじゃなきゃできない仕事をプライドを持ってやっているのに、私はただの洗濯係で。私じゃない誰かでもいい事を毎日しているんだなって……」
「洗濯係って言う仕事を誇れないってことなのかな? 俺はそう言う仕事だって大事だと思うし、みんなが皆、アリィのようにならなくったっていいと思う。人それぞれ生き方や出来ることって違うんだからさ。たとえ大河の一滴だとしても、その一滴がみんな居なくなっちゃったら乾いた川になるでしょ?」
それに一日でも洗濯してもらわなかったら、軍部なんて汗と獣臭くて大変なことになっちゃうよ。と付け足すと、リリがクスクスと笑いだした。
「ありがとうございます。何だか元気が出てきました」
「どういたしまして」
あぁ、この笑顔を一生見ていたい。
この時間が、永遠に続けばいいのに。
どうでもいいかもしれない設定話〜(*゜▽゜ノノ゛☆パチパチ(ちょっと長いです)
何故アリシアが、アルフレッドが王宮付き装蹄師になったのかを知らなかったのか。
アルフレッドの師匠が王宮の装蹄師長と知り合いで、ある日、師匠に連れられて装蹄師長と会います。その場で装蹄師長に腕を見込まれ気に入られてしまったアルフレッドは「明日から俺ん所来い!」と言われて王宮で働く事に。
当時、アリシアがアルフレッドの事を好きだと思っていたアリシア父は、娘がアルフレッドについて行ってしまうのを恐れて(アリシア父は娘Loveです)どこかへ修行しに行ってしまったと言い、牧場に出入りする装蹄師達にも居場所を隠すようにお願いしていました。
その時は手放したくなかった父ですが、結婚適齢期を過ぎても一向に男の気配がないアリシアにさすがに焦りを覚えた父は、王宮へ行かせることを承諾した、という事でした〜(´∀`)




