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王宮食堂にて

フェルディナンドが王宮の食堂に入ると、既に長いテーブル席についていたのは王と王妃、王太子と王太子妃、それから王太后の5人だった。


「遅くなってしまい、申し訳ありません」


「いいえ、みんなも今来たところよ。さあフェルも座って。揃ったところだし食事をはじめましょう」


 王太后の号令で食事会が始まった。


「たまには王宮に住んでいるもの同士、こうして集まって食事をとるのも良いでしょう?」


「ええ、母上。家族水入らずで良いですね」


 現在王宮に住んでいる王族はこの5人と、王太子夫婦の子供3人の計8人。文官として働いている次男と三男は、王宮のすぐ側に家を構えている。


 嫁姑、兄弟、親子。気性の激しい性格の者は居ないこともあっていずれも仲は悪くない。終始和やかな雰囲気で食事を進めていると、父である王がこちらに話を振ってきた。


「そう言えばフェル、先日の軍部での人事異動で近衛隊への入隊を打診されて断ったと聞いた」


「まぁ、近衛騎士隊と言ったら軍部でも花形ではないの? フェルに身辺警護をして貰ったら気が楽だし頼りになるのに」


 王妃が残念そうに肩を落とした。


 王族や要人の身辺警護をする近衛隊は通称『近衛騎士隊』とも呼ばれる。それは近衛隊に入るのがほぼ間違いなく騎士の称号を賜っている者だからで、精鋭部隊として皆のあこがれの的となっている。



「平時の近衛隊ほどつまらないものは有りませんよ。戦時になった時には喜んで近衛隊に入りましょう」


「おやおや、物騒な事を言うね。父上が平和な国を望んでいることはフェルも知っているだろう

?」


 一瞬で空気がピリっとする。


 王が平和で文化的な暮らしを望んでいることは、この部屋にいる皆が知っている。その為に父は各要人の説得に骨を折り、寝食を惜しんで働いているのだ。



 国土を広げるために戦争をするべきだ。



 という声は少なくない。新たな領地が欲しい貴族達の中にはそういう考えを持つ者も多く、実際、過激派を抑えるためにフェルディナンドも何度も行軍した。



 不安そうな顔をする王妃と王太子妃に向かって、フェルディナンドはニコリと微笑んでみせる。


「ええ。ですから父上、ひいては兄上がつつがなく平穏な国を治められるよう私は最前線に立ち、近衛隊になど入ることのないように務めますよ」


「フェル! 貴方は相変わらず人が悪いわ。母はいつもそうやって貴方に寿命を縮められていますよ」


「くくっ、これは頼もしい弟を持った事だ。私も安心して務めを果たせそうだよ」



 今なら本心でそう言える。


 それで良いと言ってくれる人が居るから。



 場が再び和むと、今度は兄が話を振ってきた。


「フェルの専属の厩番に女性がいると聞いたよ。父上の馬も1頭みているんだろう?」


「はい。専属と言っても薔薇厩舎と行き来して空き時間には装蹄師長に付いて回っていますし、ほとんど私のところにはいませんけどね」


「私に対してもハッキリと物を申して、なかなか肝の据わった子だよ」


「あの時は私の厩番が大変失礼を致しました。馬の事となると少々熱心すぎるところがあるようで」


 王が思い出し笑いをしながら首を振る。


「いやいや。あの位の熱意と、そして実力がある者が居てくれると頼もしい。あの者の言う通り馬車をフィンダスに轢かせてみたら随分と格好がつく」


「そうだ、フェル。厩番と言えば、妻から頼みがあるそうなんだが聞いてやってくれるか?」


義姉(あね)上がですか?」


「ハンナの事なのだけど、その女厩番に乗馬を習いたいと言っているのよ」


「ハンナ姫が?」


 王太子妃が困ったように頷く。


 ハンナは王太子夫婦の第1子。現在11歳で家庭教師の下、学問や裁縫、行儀作法、音楽などを学んでいる。


 のだが、ハンナは全くやる気が無い。


 決して頭が悪いわけでも手先が不器用なわけでもなく、やればそれなりに出来るのだ。


 にも関わらずやる気を見せないのはどうやら他の事に興味があるからのようで、以前会った時には「私も叔父様みたいに騎槍をふるって戦ってみたい」などと真顔で言っていた。


 そんな問題児ハンナの教育の責任者は当然、王太子妃。


 叱ったり褒めたり、物で釣ってみたりと色々とやってみたが効果は現れず。相当に手を焼いているようだった。


 姑と大姑を前に、王太子妃は眉を八の字にしながらしどろもどろに首を縦に降る。


「馬祭りで見かけてから随分と彼女の事が気になっているようで。あの子がやる気をみせる事なんてなかなか無いから……お願い出来ないかしら?」


 乗馬も貴族や王族の女性なら当然必須科目となる訳だが、普通は厩番などには教わらない。

 王族なら貴族の女性から教えて貰うのが基本だ。


「アリシア……彼女は厩番ですよ? 貴人としての振る舞いや馬の扱いは教えられません」


「良いじゃないの、ハンナがせっかくやる気になったんだからねぇ。馬のひとつも乗れなきゃ騎馬国の名折れだよ。貴人としての振る舞いなんてものは、乗れるようになってからいくらでも教えてやればいいさ」


「お祖母様がそう仰るのなら分かりました」



 王太后の一言で決定事項になった。



 アリシアに話したらどんな顔をするだろうか。

 間違いなく、隠すことなく露骨に嫌そうな顔をするだろう。想像すると笑えてくる。


 フェルディナンドは緩んだ頬を隠すために、葡萄酒を飲んで誤魔化した。

なんか『騎士様と厩番』と言うより『王子様と厩』って感じになってきたなぁ(-∀-`; )

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