待っていましたその言葉!
「と、言う事があってね。私がアル兄の事好きだって勘違いされてたみたい」
リリから恋愛相談を受けていた事、フェルディナンドに更に相談をしていた事、そして先日の出来事(もちろんキスされた事は言ってない)をアルフレッドに話して聞かせた。
王の馬の調教はまだ続くものの、一段落したという事で、とうとう装蹄師長に鉄の棒から蹄鉄を作る作業をやるように言われてしまった。今はアルフレッドの指導のもと、作業小屋で鉄を打って形を作っているところだ。
「アリィは言葉が足らなすぎるんだよ。頭の中であれこれ考えて、言った気になってるんでしょ」
「そうかも」
それにしたって、別にフェルディナンドが気にする事でもなんでもないじゃない。
慰めるために抱き締めるまではまだ良いとしよう。勘違いさせちゃったのも悪かったし。
でもその後のキキキキキスまでしたのって何なのよ!
しかも人のファーストキスを奪っておいて、何事も無かったかのように、いや、むしろいつもより機嫌が良さそうにしているのが腹立たしい。
そうだ。
そうやってこれまで何人もの女性に手を出してその気にさせた挙句、捨ててきたんだ。
んなんて奴、その手には乗るものかっ!
力いっぱい怨みを込めてハンマーで鉄をガンガンと打ち付ける。
「あれ……って事はもしかして、中佐が俺にここ最近ずっと冷たかったのってもしかして、中佐はアリィのこと……」
「え!? なに!? 今、最高に気分が悪いから話しかけないで!」
「あああ!!! アリィ、そんなに力任せに鉄を打ったら変な形に……」
「くぉらーーーーーっっ!」
「痛たたたたた!!!」
「そ、装蹄師長」
「アリシア! お前やる気あんのか?! こんな歪な形をした蹄の馬が何処にいる?! あ? 言ってみろ!」
装蹄師長に頭をげんこつでグリグリされて悶絶していると、横でとばっちりを受けているアルフレッドもスパーンっと頭を引っぱたかれた。
「アルフレッド! お前もいい加減、しっかり後輩の指導が出来るようにならんかっ!」
怒り心頭の装蹄師長に作業小屋の全面掃除を言い渡されて、2人でしょんぼりと雑巾がけをする。
「アル兄、ごめんね」
「いいよ、俺もこれくらいは慣れてるし。リリの為にももっとしっかりとしなくちゃね」
「ヒュー、お熱いですねぇ」
「ほらほら、また怒られちゃうよ」
日もとっぷりと暮れて、他の装蹄師達が帰った後も黙々と2人で掃除をしていると、扉が開く音が聞こえてきた。
「なんだ、部屋にも食堂にもいないと思ったらまだここに居たのか」
出たな。諸悪の根源め!
なんだ、じゃない! 誰のせいでこんな目にあっていると思ってるんだ!!
作業小屋の中へと入ってきたフェルディナンドを半ば睨みつけるようにして見る。
「フェルディナンド中佐、お疲れ様です。アリィに御用でしょうか? それなら俺は席を外しますね」
「いや、居てくれて構わない。 アリシア、1週間後の予定を空けておいてくれ。装蹄師長には俺から言っておく」
「1週間後? 何かあるんですか?」
「約束通り、クルメルで種付けをしてやる。この前のフィンダスの事と言い、お前の仕事ぶりには満足しているからな」
「ほっ、ホントですか?! ぃやったーーー! ありがとうございます! いやー、フェル様今日も男前! 輝いてますよっ!! 後光が差して見えますぅーっ」
フェルディナンドに抱きついてぴょんぴょんやっていると、アルフレッドがコホンっと咳払いする声が聞こえてきた。
「アリィ、落ち着いて。さっき履き集めたゴミ、またグチャグチャに散らかっちゃってるから」
「ご、ごめん。つい興奮しちゃって。あ、お父さんに早速手紙書かなきゃ! 来週誰が発情してるかなぁ。もう季節的にほとんど妊娠しちゃってそうなんだよなぁ。クルメルと相性が良さそうなのはセムラとか? あとミンカとの子供でも良さそうよねぇ」
でへへへへー、とヨダレを垂らして妄想に耽る。
「こいつ、昔からこうなのか?」
「ええ、繁殖シーズンはずっとこんな感じですよ」
「ヤバいな」
「ヤバいですよ」
2人ともなんて失礼な。
繁殖ほど楽しい仕事は無いのに。
ほうきを持ってクルクルと踊りながら、残りの掃除を上機嫌で終わらせた。




