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恋の結末

軍部へと戻ってくる頃には日が傾いて、辺りが薄暗くなってきていた。


 バームスとクルメルを厩舎へ連れて戻ろうとしているところに、男女と思われる人影が2つ、厩舎裏の方へと向かって行くのが見えた。



 あれってアル兄とリリ……?



 急いで1番近くにある馬繋場にバームスを繋ぐと、先程2人が消えていった厩舎裏へそろりと向かう。


「おい、アリシア。どうしたんだ急に」


「しーーっ!」


 物影からバレないようにそーっと顔を出して伺うと、遠くて聞き取れないけれど2人は何か話しているようだ。


「あれは……アルフレッドか?」


 コクコク頷いてそのまま覗き見を続ける。


 アルフレッドとリリはやがてお互いに両手を取り合いそして……


 暗くてよく見えないけど、あつーい抱擁を交わしているようだった。



 ぉぉおおおおっ!!!



 これはカップルが成立したんじゃないの?!

 

 ほとんど役には立たなかったかもしれないけれど、アリシアなりに2人が上手くいくように頑張った甲斐があった。


 まるで大きな仕事を成功させた後のような達成感だ。



 感動に打ち震えていると、後ろからフェルディナンドが「行こう」と耳打ちしてきた。


 確かにこれ以上、2人を見続けているのは無粋というもの。頷いて返事をすると、先程バームスとクルメルを置いてきた馬繋場へと戻った。


「バームス、クルメル、ほったらかしてごめんね」


 2頭をよしよしと撫でていると、何やら神妙な面持ちでフェルディナンドが傍にやってきた。


「アリシア……お前、大丈夫か?」


「?」


 嬉しくてちょっと浮かれ過ぎているのが変な風に見えるのだろうか?

 「大丈夫ですよ」と自分を落ち着かせるように応えると、突然、グンっと腕を引かれた。


「????!」


「無理するな。今なら誰も見ていない。泣いてもいいんだぞ」



 何を言っているんだこの男は?

 

 泣いてもいいって、嬉し泣きを我慢するなと言う事?

 歓喜のあまり抱き合って喜びを分かち合うことはあるけれど、なんかこれは違う気がする。


 強く、かつ優しく抱きしめられて頭が沸騰しそうになる。

 頭の後ろを抑えられ胸元に押し付けられているせいで、鼻の中いっぱいにフェルディナンドの香りが入ってきた。


 クラクラしながらも引き剥がそうと藻掻くが、この人は何だってこう、頑丈な体つきをしているのだろう。ビクともしない。


 脳みそがそろそろ融解しそうになってきたところで、ブヒンっとクルメルが鼻を鳴らす音が聞こえてきた。



 これだっっっ!!!



「くっ、クルメル! お手!!!」


 次の瞬間、ゴスッと言う音と共にフェルディナンドが呻き声を上げ、腕の拘束が緩んだ。


「あー、フェル様。大丈夫ですか?」


 太ももを押さえながらフェルディナンドがうずくまっている。

 どうやらちょうどいい具合に、クルメルの振り上げた前足がフェルディナンドの足に当たったようだ。


「大丈夫ですか、じゃない……お前、人の馬に変な芸を仕込むなっ!!」


「一芸持っていると何かの役にたつかなぁ、なんて思いまして。いえ、そうじゃなくて、フェル様こそいきなり何するんですか?! いきなり抱きついてくるなんて破廉恥なっ!」


「破廉恥って、俺は失恋して傷付いているお前を慰めようかと思ったんだろっ!」


「失恋?? なんで好きな人がいない私が失恋なんて出来るんですか?」


「は……? だってアルフレッドの事が好きなんだろ?」


「??? 私が、ですか? 前にも言いましたけど、アル兄の事を好きなのは先程いたメイドのリリで、私では……」



 …………んん? リリの事、フェル様に話したっけ??



 覚えていない。変な汗が出てきた。



「お前……っ! だから主語が足りなさすぎだっっっ!!! ……いや、でも少なくとも以前は好きだったんだろ? 昔の感情は吹っ切れたのか?」


 こちらの質問にも「?」を頭に浮かべて首を傾げていると、ものすごい剣幕でフェルディナンドが迫ってきた。


「言ってたよな。5歳年上で優しくて手先が器用で牧場に装蹄師の弟子として出入りしていた赤毛が特徴的な男、つまりはアルフレッドが好きだったって」


「あーー、えーと、それは……そのー」


 なんでこの人そんな事覚えてるの?興味無さそうに聞いてたじゃない。


 盛大に勘違いさせてしまった後ろめたさから、ゴニョゴニョと言い訳をする。


「だ、だって……それはですね……フェル様が馬鹿にしてくるから悔しくて、つい、嘘を付いたというか……アル兄の事は好きですけどお兄ちゃん的なアレで、恋愛感情を持った事なんてありません」


「なぁっ……なんだよ、それ」


 フェルディナンドはへなへなと脱力したかと思ったら、今度は急にシャキッとしてこちらを見てきた。


 さっきから怒ったり脱力したり、色々とお忙しい方だ。


「うぅっ、そんな顔で見つめられても……大体、私の恋愛事情なんてフェル様には関係な……んんっ???!!」



 フェルディナンドの唇が、アリシアの唇と重ねられて息が出来なくなった。


 あまりに唐突な出来事が重なって、完全に思考がフリーズした。



「今回はこれで許してやる」



 意味の分からない捨て台詞を吐いたと思ったら、フェルディナンドはそのまま宿舎の方へと戻って行ってしまった。





主語って大事(* ˙꒳˙)b

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