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初恋相手?の登場

「今日は俺の馬の装蹄がある。お前もちょっと付き合え」


「ええ? 前にもお話しましたけど、装蹄は下手なのでお役に立てることなんてありませんよ」


「でも出来なくはないんだろ?」


「それはそうですけど……」


「やあ、アリィ」


 押し問答をしているところに、どこか聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。この呼び方をしてくる人って……


 振り返ると、赤毛をした人の良さそうな顔の男性が手を振っている。


「アル兄!?」


「久しぶりだね。中佐が女性の厩番を雇ったって聞いてまさかとは思ったけど、やっぱりアリィだった」


「なんだアルフレッド、知り合いだったのか」


「ええ。アリィ……アリシアがいた牧場に装蹄師の弟子として出入りしていたんです」


アルフレッドの返答にフェルディナンドの顔色がサッと変わった。眉間に皺を寄せてこちらを見てくるけど、一体なんだって言うんだ。


「アル兄、王宮の装蹄師になってたんだね! さっすがー!!」


「実はアリィの事を食堂や軍部内で何度か見かけてたんだけど、いつ気付くかなぁって黙ってたんだ。相変わらず人に対する感知度低いね」


「えー、そうだったの? 早く言ってくれたら良かったのに」


 久しぶりの再開に手を取ってブンブン振り回していると、後ろから更に年季の入っていそうな男性がやって来た。


「おいっ、アルフレッド!そんな所で女と遊んでないでさっさと装蹄の準備をしろ!!」


「はい、すみません。今すぐ支度をします」


 アルフレッドが装蹄所まで馬を連れて行く準備をし始めた。今はこの人の下で働いているって言う事か。前の師匠も厳しかったけど、こちらもなかなかに厳しそうな人だ。


「装蹄師長、今日は私の厩番にクルメルの装蹄をさせてみてもいいだろうか?」


「うわさの女厩番に、ですか?」


 ギロリと物凄い顔でこちらを睨んでくる。


「王宮の馬の装蹄は私たち装蹄師の仕事。厩番なんぞにやらせる訳にはいきません」


「でもクルメルの装蹄には一苦労でしょう? いつもボロボロになって帰っているではありませんか。アリシアならご存知の通り、クルメルも嫌がらずに触らせてくれます」


「たとえ蹴り飛ばされて死んでも本望! 私がまだまだ未熟だったと言う事でしょう」


「貴方の様な腕利きの装蹄師に死なれたら困るんですよ。私の馬が原因で死んだら、私が皆から白い目で見られてしまう。私を助けるためだと思ってここはひとつ、頼む」


 装蹄師長は苦虫を噛み潰したような顔をして小さく息を漏らした。


「……殿下にその様に頼まれてしまっては、一介の装蹄師に断る術など持っておりません。分かりました。おい、アルフレッド、この娘と知り合いなんだろ?装蹄はどのくらいの腕なんだ」


「師匠にはボロクソに言われて怒られていましたけど、俺はそこまで悪くは無いとは思いますよ。ちょっと大雑把なだけで」


「なーるほどなぁ。いかにもガサツそうな女だと思った」



 おー、その通りだよっ! ガサツな女だよっ!!なんか悪いのか、偏見ジジイめ!



 装蹄師長との間にバチバチと火花を散らす。



「あー、装蹄師長。とりあえずやらせてみては?」


「そうですな」


 アルフレッドと一緒にクルメルの装蹄の準備をする。


 装蹄の大まかな手順は、まず今付けている古い蹄鉄を外す除鉄、伸びた蹄を切る削蹄、新しい蹄鉄を馬の蹄の形に合わせて装着し、最後に焼付けをして終了となる。



アリシアの作業を装蹄師長が傍らから見て、口出し……ではなくアドバイスをする形で始まった。


「だあーっ、もう少し丁寧に削れ!クッションになる1番大事なとこだ。繊細さの()の字もない奴だ」


「おい、ここまだザラっとしてるだろ。もっと凸凹がないように滑らかに磨けガサツ女」


「打ちすぎだど阿呆! さっきのクルメルの蹄の形を覚えてないのか?!お前の頭は3歩歩いたら忘れる鶏並だな」


 隣からおくられる、一言多いありがたいアドバイスにイラっとしながらも作業を進めていく。



 ナイフとヤスリで削ったクルメルの蹄の形に合わせて、蹄鉄を打ったり削ったりして微調整していく。


 人の爪の形がそれぞれ違うように、蹄の形は馬それぞれ、そして足ごとに違う。あらかじめその馬の蹄に大まかに合わせて作っておいた蹄鉄を、さらにその場で形を整えてから装着していくのだ。


「違う! その角度で釘を打ったらダメだ! だぁーーーっ、もう退け!見てろ!!」



 形を整えた蹄鉄を打ち込んで行くところで、装蹄師長が痺れを切らしアリシアを退けようとしたその瞬間、メリメリメリっと嫌な音がした。



「「「「あ゛っ…………」」」」



 その場にいた4人の声が重なった。


その音を例えて言うならば、庭に生えているしっかりと根の張った雑草を引っこ抜いた時の音によく似ていた。


 恐る恐る装蹄師長の頭を見上げると、頭のてっぺんの毛が見事に無くなっている。


 遥か遠い東の地にいると言う、河童とか言う魔獣みたいだ……。

 


 フェルディナンドが


「それを食べるんじゃない! 吐き出せ!!」


と、装蹄師長の頭に生え残っている髪と同じ色の毛を、クルメルの口から掻き出していた。



「…………かった」


「はい?」


 ゆらりと黒い影をまとった装蹄師長が震える声で何かを呟いた。


「分かったアリシア……こうなったらお前を徹底的にしごいて一人前の装蹄師にしてやる!! 今日から毎日俺んとこに来いっ! 良いですね?! 殿下!!」


「え? あー、まぁ、必要最低限の仕事さえ終われば好きに使ってくれて構わない」


「えぇぇ?! そんなぁ! 装蹄はやらなくていいって言ったじゃないですか!? 契約違反ですよぉ!」


「不可抗力ってやつだ。それに契約書には装蹄については何も書いてない」


「アリィ、すごいじゃないか! 装蹄師長自ら弟子を取るなんて!!」



 アル兄、そこじゃない。


 この人の弟子になりたいだなんて寸分も思ってないから。


昔お世話になっていた乗馬クラブでの話。

装蹄があると削り取られて落っこちている蹄を、放し飼いにされているワンコ達がよく食べていたなぁと思い出しました。爪だからタンパク源?(´∀`)

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