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薔薇厩舎

蜂蜜がかかった麦がゆとゆで卵1/2個、パプリカのマリネにチーズ。


 使用人たちの食事には麦がゆに蜂蜜はかかってないし、ゆで卵とチーズは付いていない。


 昨日よりも格段に豪華になった食事を前に舌鼓を打っていると、いつもはリリくらいしか座ることのないアリシアの席の周りに次々とメイド達が集まってきた。


「昨日お祭りの後に野生馬に乗っていたのってあなたでしょ?!」


「凄いよね! あんな暴れ回る馬を乗りこなすなんて、かっこいーい」


「私なんて惚れちゃいそうになっちゃった」


「おはよう! なんか皆アリシアと話したいみたいで付いてきちゃった」


 アリシアが次々に話しかけられて驚いていると、リリがエヘへ、と笑いながら隣に座った。


「私も昨日、お祭りの終わりの方だけ見に行かせて貰えたんだ。アリシアが馬に乗っているところ見たよ! 国王陛下に話しかけられてたけど何だったの?」


「褒美にって食事を士官兵と一緒にしてくれた」


「うわぁ、いいなあ」


 みんながアリシアの食べるご飯に視線を向ける。食べづらいなぁ。


「ねえ、アリシアさんってフェルディナンド中佐付きの厩番なんでしょ?」


「うん、そう」


「いいないいなー。爽やかな顔で、それでいてめちゃくちゃ強いよね」


「私お着替えしている所をたまたま見ちゃったことあるんだけど、すっごい筋肉なんだよっ。あの腕に抱かれてみたいなぁ」


「ねーっ」


 あいにく人間の方の筋肉には興味がない。

 ふーん、と相づちをうっておく。


「抱かれてみたいと言えば、中佐ってプレイボーイなんでしょ」


「そのウワサ知ってるー! 泣かされたご令嬢は数しれず……ってね」


「でも中佐になら泣かされてもいいなぁ、私」


「やだぁ、そう言う趣味あるの?」


「ちがうわよ、もー。そう言うあんただってこの間弄ばれたいって言ってたじゃない」


「中佐になら、いっときの夢でも良いからお相手して欲しいじゃない」


 メイド達が顔を寄せあって小声でありながらもきゃあきゃあ話し始めた。


 朝っぱらからすごい話するな。


 あの女慣れした感じからすると、相当遊んでそうだと言うのには納得する。


 自分も上手いこと転がされないように気を付けておこう。




朝食を食べ終えて仕事に向かうと、フェルディナンドに付いてこいとだけ言われた。あとを付いて行くと馬車に乗せられ、さらに軍部は出たけれど王宮内を走っているようだ。


一体何処へ行くのやら……。


十数分ほどすると馬車は豪華な造りの厩舎の前で止まった。


「ここってまさか……」


「薔薇厩舎だ」


 薔薇厩舎は王族の馬がいる厩舎。


 軍部の厩舎は1号、2号……と色気も素っ気もない番号が振られているだけだが、他の厩舎には花の名前が当てられている。



 薔薇厩舎の小窓から馬が顔を出して外の景色を見ているが、その小窓が小洒落ていて、まるで額縁から馬が顔を出しているかのように見える。


 フェルディナンドに連れられて更に中に入っていくと、馬房の柵は優雅な曲線を描き天井もアーチ状。馬具などを引っ掛けるフック等もいちいちお洒落で、思わず「お馬様」呼んでしまいたくなるような造りに舌を巻く。



 ほげーっとしながら見回していると、鹿毛の馬の前でフェルディナンドが立ち止まった。既に馬装をしてある。


「この馬の調教をつけて欲しいと国王陛下から頼まれた」


「私が、ですか?」


「そう。アリシア、お前をご指名だ。調教してもなかなか良くならなくて手放すかどうか迷っているそうなんだ」


「えーと、拒否権とかは……ないですよね」



 王の頼み=絶対命令



 フェルディナンドの顔は笑っているけど、有無を言わせない、と言う事を目が物語っている。

 矯正できなかったら私の頭は身体とおさらばするんだろうか。

首ちょんですか? とジェスチャーをしてみると今度は本当に笑いながら返事が返ってきた。


「王付きの厩番たちが矯正出来ないんだ。お前が出来なかったところで罰なんて下さないさ」


 フェルディナンドが馬のすぐ近くに先程から立っている中年男性に目配せする。

 男性は口をギザギザに結んで歯噛みしているようだった。


「それでは……もしも私が成功したら、王付きの厩番の方たちは罰せられるのでしょうか」


「それを気にしてわざと失敗するかもしれないと? 成功すれば自分が昇格するかもしれないのに? そもそも王から直々の頼み事に手抜きなど許されるとでも思っているのか」


「…………」


 

 昇進とかどうでもいい。王宮の厩番など、上に行けば行くほど「馬」ではなく「人」の管理をしなくてはならなくなる。

 人の顔と名前を合致させるのに一苦労のアリシアには向いていないし、馬の世話がしたいのであって人の面倒を見る事には興味がない。


 アリシアが手抜きしたかどうかなど、どうやって見極めるんだか知らないけど、所詮はペラッペラの平民。どうとでも処分は下されてしまうんだろう。



 何も言えず黙っていると、フェルディナンドはふぅ、と一つため息をついた。


「それならお前が失敗すれば、王付きの厩番もろとも処分されると言ったらどうする?」


「なっ……」


「それなら本気でやるか?」



 こんのぉ、卑怯者!




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