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【電子書籍化】騎士様と厩番  作者: 市川 ありみ
第1章 上級仕官で王子様で騎士様な、ど偉い御方
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恋は突然にやって来る

「王宮軍部の上級仕官が馬の買い付けに?」


 アリシアが朝食に用意した麦がゆをテーブルに並べていると、父親が今日、軍部の人がこの牧場に来るのだと言ってきた。



 アリシアの父は馬の生産牧場を営んでいて、娘のアリシアもまたここで牧場の仕事を手伝っている。

 牧場の朝は早く既にひと仕事を終えて、やっと朝食にありつける。お腹の中が空っぽで「早く飯を入れろ!」と胃袋がうるさいので、父親の話を聞きながら、さっき買ってきたミルクを麦がゆにかけてパクつく。


「で、その上級士官って言うのが、中佐で第6王子のフェルディナンド殿下だ。殿下自身が乗る馬を御所望との事らしい」


「なんでまたそんな高貴な御方が庭先取引なんてしに来るのよ」


 生産者から直接馬を買うことを庭先取引と言うのだが、これはあまり一般的では無い。馬が欲しい時は商人から買うか、セリで落とすのが普通だ。


 王族がわざわざこんな、王都の外れにある牧場にまで来るなんてねぇ。ご苦労なことで。


「そりゃあ、うちの牧場の評判が王宮にまで届いているからって事だろうよ。そういう訳だからアリシア、殿下の案内を頼むぞ」


「え゛、何で私が? 普通こういう時って牧場主のお父さんか、跡取りの兄さんがするんじゃないの?」


「牧場の視察に来るって言うんなら俺が案内するけど、馬を探しに来るってんだからお前が案内する方が適任だろう?」


「まあそうだけど……」


 父は馬の世話も勿論するけど、経営をメインにしている。兄は最近、父の弟からこの牧場の跡取りにと養子に貰ってきたので新参者だし、他の従業員よりも赤子の時から牧場で育てられてきたアリシアの方が、断然ここの馬に詳しい。


「いいか、相手は上級仕官で王族で騎士の称号を持つ御方なんだからな。くれぐれも無礼なマネをするなよ」


「ふぇーい」


「返事は「はい」だ! まったくウチの娘ときたら……」


「ハイハイ。その上級仕官で王子様で騎士様な、ど偉い御方が来たら呼んでよ」


 まだぶつくさ言っている父を横目に、アリシアは食べ終えた食器を片付けて(うまや)の方へと向かう。



 あー、めんどくさ。お偉方の相手をする事ほど肩肘が張って面倒な事は無い。さっさと選んでもらってさっさと帰って頂こう。


 馬房掃除の為のフォークを手に取ると、アリシアはひとつため息を付いて仕事に取り掛かった。



***



「おーい、アリシア!」


 放牧していた馬を掃除を終えた馬房へと戻していると、父親の呼ぶ声が聞こえてきた。


 王子様のお出ましかな。


 一応洋服をパンパンと(はた)いてから、呼ばれた方へと向かう。




 牧場入口付近に父親とガタイのいい男性、そしてその男性が乗ってきたと思われる馬が立っている。


 そちらを見た瞬間、ぶわぁーーっと鳥肌が立った。



 胸がドクドクと激しく脈打つと同時に呼吸が激しくなる。多分、今自分を鏡で見たら紅潮した顔に目をランランと輝かせて、興奮しているのが丸わかりだと思う。

 こう言うのを「高鳴る胸の鼓動」だとか「ときめく」だとか言うんじゃないだろうか。



 落ち着けアリシア。相手はお偉いさん。絶対に粗相があってはならないお相手。


 ふうーーっと大きく深呼吸をしてから平静を装い、2人と1頭の方へと近付いていく。



「私の娘のアリシアです。ここの馬の事なら誰よりも詳しいので、この子に何なりとお申し付け下さい」


「お待ちしておりました。本日は私が案内させていただきます」


 あいさつをしてペコりと頭を下げたと見せかけて、この客人が連れてきた馬の股ぐらをちらりと覗き見すると、ほっと安堵の吐息を漏らす。


 良かった。立派なグレープフルーツが()()()()()()()()()()いる。


馬の性別は3つある。牡馬(ぼば)牝馬(ひんば)、そして騸馬(せんば)。言わゆる()()()と言うやつ。


 そしてこの馬は正真正銘、牡馬(おとこのこ)だ。


 もうニヤニヤが止まらない。


 崩れた顔、もとい満面の笑みを浮かべて頭を上げると、王子が爽やかな笑顔を返してきた。


「急な訪問にも関わらず礼を言う。何せここの牧場は良馬が多いと方々から聞いていたんだよ。是非一度、来てみたいと思ってね」


 「ありがとうございます」と父が満更でもなさそうな顔で笑っている。



 実際この牧場の評判はすこぶる良い。商人はこぞって仕入れに来るし、セリに出せば高値で売れる馬ばかり。



 それもそのはず。

 


 ほとんどの牧場が適当に放牧して、適当なペアで出来た子を産ませ、沢山馬が産まれればいいと言うのに対して、この牧場――アリシアの繁殖管理は徹底していた。


 どの馬とどの馬を掛け合わせればいいのかアリシアが決め、計画的に種付けをして、()()()など起こらないように放牧をする際には細心の注意を払っている。


 そしてアリシアは、どの馬とを掛け合わせると良馬が産まれるのか、いつも見事に当ててみせた。


 まぁアリシアに言わせてみれば、どんな馬でも可愛くて良い子なのだけれど、馬は愛玩動物(ペット)ではなく使役動物。なので、どうしても利用価値が高いか低いかを決められてしまう。

 こればっかりは仕方がないので、せめて高い価値を付けてもらえる馬を出したいと常々思っている。


 父も従業員達も、そんなアリシアのことをイカれた繁殖家(マッド・ブリーダー)と呼んでいた。

全くそそられないタイトルにも関わらず(思い浮かばなくて仮で付けておいたんですが、結局浮かばずそのまんまw)、読んで頂きありがとうございました(*´▽`人)

ご意見・ご感想などありましたら、何でもいいのでお待ちしておりますー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!!
2023/06/06 21:27 退会済み
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