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その1 奥で見守る者

 帝国歴2023年。

 ヴァルカン帝国に住む人々は数百年ぶりの勇者再来に歓喜していた。


「うおおお! 勇者様あああ!」

「帝国の繁栄は約束された!」

「救われる救われる……人々は救われるのだ」


 中央通りで取り仕切られたお披露目式。

 会場となる立派な宮殿に集まった群衆の数はもやは数百どころではない。


「沈まれえええ! これより勇者様よりお言葉をいただく! さあ勇者様――人々に向けお心をお伝えください」


 空の雲さえ吹き飛ばしそうな大声が場に静寂をもたらす。

 次の発言――勇者の言葉への注目度が高まったことが伺える。


 大窓の奥からやってきた細身で黒髪の少女――現代勇者は拡声器を手に持つ。


「あ……えっと……頑張り、ましゅ!」

「「うおおおおおおおお!!!!」」


 沸く大衆。

 もはや勇者が何を言っても関係ないのだろう。

 嚙んだことを知るものはこの場にいなかった――否。


「……なんだこの茶番は」


 宮殿から距離を置いた場所。

 見晴らしのいい宿場町の屋根に居座り、遠視の魔術を使いながら宮殿を監視する人物が二人。


 俺は呆れ、無意識的に言葉が零れる。


「本当なんのん。出来レースなんのん」


 俺に付いてきたメイリィも俺の意見に同意らしい。


「なあ幼女」

「幼女じゃなくてメイリィなんのん」

「これ魔王になんて報告すればいいんだ?」

「思ったことをそのまま伝えればいいなんのん」

「無能でした。これでいいのか?」

「メイリィもソウマの立場なら同じことを言うなんのん」


 嫌だなあ、と心で呟く。

 石橋を叩いて壊すタイプの慎重魔王だから、きっと再調査を命じてくるに違いない。


「いっそこの場で襲撃して〝分からせるか?〟」


 右手に宿る金色の輝き。

 紫電が大気に広がり、不穏な空気に包まれる。


「やめておくなんのん。ソウマが〝分からされて〟泣きながら帰る姿が目に見えるなんのん」

「そんな言い方しなくてよくない!? せっかく人がカッコよくキメているのに!」


 あまりにも冷静なツッコミ。

 メイリィの辛辣な言葉に既に涙目な件について。


「脅威なし――これを魔王様に報告するといいなんのん。メイリィのお墨付き」

「わぁったよ。しっかし魔王も心配性だよな……ちょっと才能に恵まれている程度の子供の調査に勅命まで使って調べさせるなんてな」

「警戒は大事なんのん」


 警戒しすぎるのもどうかと思うけどな、と頭の後ろに両手を回しながら呟いた。

 完全に無警戒。

 帰宅する直前――次の瞬間。


「重要な式典には必ず顔を出す。やはり来ましたね魔王軍」


 俺とメイリィが見物していた建物に隣接する向かい側の建物から放たれる声音。

 その方向を見ると、帝国軍には似合わない軽装と短い剣を腰から下げた金髪の女が腕を組み仁王立ちしていた。


「やっと会えましたね――ソウマ・セイエル。横にいるのはメイリィ・ブルーノートですね」


 キッと勝ち気な吊り目で睨まれる。


「そんな怖い顔したらせっかくの美人も台無しだよ――帝国騎士団長セシリア・ファルアートちゃん?」

「ちゃ、ちゃん付けしないでください! 私とアナタ達は敵同士です!」

「ていうか今『やっと会えたな』って言った? ナニナニそんなに俺に会いたかったの〜?」

「そんなことありません! アナタがいつも逃げ回るせいで捕らえる機会がなかったから、そう言っただけです!」


 地団駄を踏むセシリア。

 逃げ回ると言うが、邂逅の回数はそこそこあるはずだ。


 つーか先週も会ったばかりだし、たぶん魔王よりは顔を合わせてると思う。


「ソウマは女の敵なんのん。この前はジェシカを口説いておきながら、騎士団の女にまで手を広げているとは……はっ! ひょっとしてメイリィも手籠めにされるなんのん!?」

「いや。お子様は対象外だから」

「ぶっ殺なんのん」

「こわ! 口悪いよメイリィちゃん」

「帰ったらジェシカとファテに言いふらすなんのん。騎士団の女に鼻の下を伸ばしていたって」


 なんて恐ろしいことを……


 死刑宣告に震えていると、セシリアは目を細めてクスリと笑っていた。


「へぇ。ここから逃げ切るつもりですか?」

「ん? 逃げるよ。完全アウェーで喧嘩売るほどバカじゃないし」

「逃がしませんよ。どんな手を使っても」

「いいや逃げるね。お前がそこから恥ずかしそうにスカートを捲ってパンツを見せてこない限り俺は絶対に逃げる」

「み、見せません! いつもそうやって変なことばかり……でも今日は本当に後悔しますよ?」


 セシリアは何もない空間に指を伸ばし、文字を描き始める。

 ――術式起動の合図。

 普段ならこの時点で術式展開の阻害をするか、全力で逃げるのだが、今日は少しだけ遊びに付き合ってやるとしよう。


 ふっ。

 まぁメイリィがいる時点で負けることもないし。

 こいつマジで俺より強いし。


「必ずアナタを後悔させます」

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