敬具
辺境の森の浅いところではあるがちょっとした細工がしてあり、人の出入りが極端に少なくなっている少し開けた所。そこには一年を通して枯れることを知らない花畑があり中心に位置する場所には簡素な作りで名前が刻まれていない墓がある。
夕暮れ時ちょっと前。ビットと別れてすぐ私たちはその墓の前に来ていた。
本当はこの墓の中にはかつて私と旅をしたあの人はいない。それはわかってはいるが、どうしても形あるものにしたくて私のわがままで作った墓。
毎年あの人が還った日はここに来ている。
前日に書いておいた手紙を懐から出し、墓の前で燃やす。
「…母さん今年は手紙出すんだ?」
「……ええ。イオンちゃんがこれから学園に行くんだって報告するの。」
「えぇー?本当は恋文だったりしないの~?」
「しないなぁ~。ウフフ。」
辺境の街では昔から故人へと宛てた手紙をその者の墓の前で燃やすと相手のもとに届くのだというおまじないがある。
「………さて!もういこうか。」
「えっ、もう行くの?手紙出しただけじゃん。」
「ビットくんのお手伝いするんでしょ。早く行ってあげなきゃ。」
「え゛………いや、母さんはもう少しいなよ。一人でも戻れるからさ。」
そう言ってイオンは私が返事をする前に街に向かっていってしまった。
「……気を使われちゃいました。それとも逃げられましたかね?」
1人残され静かになってしまった。
墓は私がかけた劣化を遅らせる魔法により当時から形は保っているが、それでも百数年の時が経っているので一目で古い物だと分かってしまう。
「……やっぱり今年の今日も駄目だったみたいです。」
誰もいない墓に語りかける。
「娘に心配をかけてしまうし、他の方々にだって…………それもこれもあなたが怖い夢を見せるからですよ?私うなされてたみたいなんですから……」
今年は特に怖かった夢かもしれない。
おそらくだが私は、イオンとも離れてしまうのを心のどこかでは寂しく思ってるのかもしれない。……いや、普通に寂しいかな。短い時ではあるけど、一緒に過ごしてきた大切な娘だもの…
―――――でも大丈夫です。
「見守っていてください。私…いや、私達を。しつこいかもしれませんが何度だって言ってやりますよ?見守っていてください。私達のこれからを。」
もう日がほとんど隠れ始めている。
ちょっと急がないと先に行ったイオンに追いつけないかもしれない。
……よし。全部とまではいかないけど、皆に一杯ぐらいは奢ろうかな。今日のお礼になるといいのだけれど。
「……………また来ます。私からの一方的な約束、しっかり守ってくださいね!」
こうして、私にとって特別な今日が終わっていく。
拝啓
遠くのあなたへ
私は今も変わらず元気にしています。
あの子と暮らし始めてからもう約13年経ちました。13年を「もう」なんて思えるなんて…あの子が来るまでは考えられなかったかもしれませんね。
あの子は今年から王都の学園に入学します。さみしい気持ちもありますが、彼女の世界が広がってくれるようあなたも祈ってくださいね。
今回もあの子の事ばっかりに書いてしまいました。子煩悩?とは怖いものですね。
私がもうあなたの隣にいることが叶わないのは正直まだ心残りです。でも、いつかまたはもうない。あなたにもらった今をこれからも生きていきます。
私たちを信じていてください。
私の想いは今もあなたに
ヘデラ=ベリーキャンドより変わらない永遠の愛を 敬具