あなたのお陰で、私は俗に言う「ちょろい」になったのかもしれません…
「こんな朝早くから呼び出してすまないな、天使殿。」
領主邸へ着きそのままメイリークに応接室へと通され、すぐにこの屋敷の主であるこの辺境の領主…マリウス=フォクスリーが部屋に入ってくる。
「いえ、それで用とはなんでしょうか?」
いつもなら他愛の無い雑談でもするのだが、今はそんな気分にはならなかった。無駄に急かすのは失礼になってしまうだろうが、今日はなるべくひとりで行動したくない。早く戻ってイオン達の様子を見たい。
この衝動は、朝見た夢に少し影響されてるのかもしれないなぁ……。
「いやなに、これからさらに忙しくなってしまうからね。今の内に英霊祭での事と、その後の話をと思ってな。」
「その後……?」
「ああ、英霊祭が終わったら学園が始まるだろう?息子の護衛として共に王都へ行ってもらいたいんだ。」
「あぁ、なるほど。」
マリウスの言う学園とは貴族・平民に開かれた王国立の学舎であり、多くの分野の学びを扱っているため優秀な者も多く在籍している。領主の息子…グレイはその高等部へ通うことになっている。
ちなみに、イオンもグレイと同じく王都の学園へ通う。
ただ、護衛は受けてもいいのだけれど…
「わざわざ私で直接頼むのではなくて、私兵かギルドの冒険者に依頼を出せば充分なのでは?」
「もちろん私兵は着けるが……戦力的にも人柄的にも天使殿は信用できるからな。よく知らない者達に依頼するよりかは、余計な心配をしなくてすむ。それに、イオン嬢もグレイと共に学園に行くのだから知り合いがいた方がいくらか気楽に旅ができるだろう?」
私はあの人の記憶で言うところの『ちょろい』のかもしれない……
「そういうことなら………わかりました、受けましょう。イオンちゃんと王都の観光するのも良いかもですしね。」
「受けてくれるか、助かる。後日、細かい話を積めるとしよう。では次に英霊祭でのことについてだ。」
「薬草なら少しですが提供しますよ。今日街に来るときに行き合った知り合いの冒険者さん達に薬草畑の場所も教えてきましたし、それで補えれば幸いです。」
「すでに聞いていたか、助かる。…それとは別に、ギルドにも協力を頼んでいるが、念には念をいれたい。今年も多くの者達がこの街へ来る。残念なことに、その中には良からぬ者もいるだろう……気にかけてほしい。」
「もちろん、そこは1人の参加者として協力しますよ。ビットくんの出店のお手伝いがてらにはなりますけど。」
「…ありがとう、今日の要件は以上だ。大切な日なのに朝からすまなかったな。」
「いえ、『特別な今日もいつも通りに過ごす。』そう決めていましたから。………正直、まだ少し不安定ではありますけどね。」
話を終え、領主邸を後にする。
いつもならここでお転婆な領主の娘さんが現れるのだが、今日は出てこなかった。まぁ、そんな日もあるだろう。
(イオンちゃんとビットくんの訓練はまだ間に合うかなぁ……)
そんなことを考えつつ、冒険者ギルドへ向かって気持ち少し早く歩きだした。