1
―――――違和感。
私が暮らしている国の辺境、その辺境の街から近い場所にある広大な森。その森の奥…未開拓領域方面から今まで感じたことのない様な今までとは違う異質な感じ。
今日は森の奥から厄介な魔物が出てきてないか軽く見回るだけのつもりだったのだが、この違和感は特異な魔物や現象などではないはず……………けれど、確認しておかないといけない気がしてならない。
完全に感覚だよりで未開拓領域を進んでいく。本来森は雑に進むべきではないが、今回はこれが正しいのだとなぜか確信を得ている。
―――――俺はこの先に『歪み』の元凶があるとなぜか確信している!なら行かなきゃならないでしょ!―――――
昔まだ旅をはじめて間もない頃、あの人が行き当たりばったりで行動したのを咎めた時に言い返された言葉を思い出した。実際に『歪み』はあったのでそれ以降、事あるごとにあの人の無茶ぶりに付き合っていた。
今回私が行き当たりばったりで行動しているのは少なからず、あの人の影響なのかもしれないと過去を懐かしく思いながら進んでいく。
「!……………なるほど、違和感の正体は君ね。」
少し開けた場所に幼子が倒れていた。それもただの人族ではなく半人半竜の子。周りにはこの子以外に変なものはなく、突然そこに現れたような雰囲気である。
(?……………この子もしかして……)
なぜこのような場所に人が、それも幼子が一人でいるのか謎ではあるが、今は衰弱してるこの子をそのままにしておくわけにはいかない。
「……ちょっとごめんね。」
ひとまず、安全に休めるために街の冒険者ギルドの近くにある診療所へ連れていこうと抱える。見た目通りに軽いその体に障らないように気を付けながら森を抜けて行く。
未開拓領域から出る途中に魔力を通すと対になっている鈴が鳴る魔導具を使い、冒険者ギルドに森に異変があったと連絡はした。これで街の冒険者ギルドと外壁の門番の事務所にあるはずの鈴が鳴っているはずだ。
街の外壁に着くと運良く人通りは少なかったので、すんなりと門の前までこれた。幼子については門番には急患だと伝え診療所へ連絡してもらい、事の経緯は後で必ず報告すると約束して街に入れてもらった。
診療所へ幼子を預けた後、この事を報告しに冒険者ギルドのギルドマスターの元に来ていた。
「――――なるほど…事情はわかった。いや、正直信じがたいが…こちらでも近くの村からいなくなった子供と怪しい者らがいなかったか確認しておこう。」
「ありがとう。それじゃ他にも報告を「いや、それもこちらでやっておこう。」えっ、そんな…」
「天使殿は件の幼子の側にいてあげるといい。自分では気づいてないかもしれんが、心配でたまらないって顔をしているぞ。」
考え付いた事が事だけに不安はあるけれど…
「そ、そんなにかな…?」
「ああ。今までにないくらいにな。気になることでもあんだろう?」
流石にいろんな人を見てきたマスターだからこそ気がついたのか、自分よりもいくつも歳が下の人に指摘されると来るものがあるなぁ……
「いやね?あの子の…あの違和感………凄く懐かしく感じた気がするの…」
「懐かしい?実はその子の親に会ったことがあるとかかもな。」
「うーん……たぶんそれは無いと思うな…」
竜の知り合い自体はいるが彼らはこの地よりずっと遠くで過ごしているはずだし、そもそも人とあまり交流を持とうとしていなかったはずだから人との間に子を作るとも思えない。
「……そうかい。まぁ、今はその子の側にいてやんな。天使殿のそんな顔なんて見てらんないしな。」
「そんなにひどい?……わかったよ、ありがとうね。」
治療院では既に幼子は簡単な診断を終えてベットで寝ていた。医師が言うには、危険な状態は脱したから起きた後数日安静にしていれば大丈夫だろうとの事だった。
「儂も竜とのハーフの患者は初めてじゃからな。正直未知数な所もあるが…まぁあなた様が居れば平気じゃろうて。」
「…ありがとう。」
命を救えたことに安堵しつつ、この子の今後の事を考える。いまだにぬぐえない違和感を突き止めておきたいし―――――
「それとなんじゃが……」
「―――――はい?」
医師は暗い顔を話をして続ける。
「その子の体…衰弱もそうなんじゃが、特にふとももと二の腕の辺りに明らかに人につけられた傷があった………あまりよい扱いを受けてこなかったようじゃな……心当たりはありますかな?」
「!」
あの拾ったときの弱り具合で決して想像してなかったわけではなかったが………
「……ごめんね。」
自分でも確認するために一言謝ってから幼子の体を確かめる。
「………………正直、そうであってほしくなかったんだけど……」
先程は命優先で急いでいたから気にする余裕は無かったが、改めて幼子に触れ確信した。いや、してしまった。
―――――この子がこの世界の子ではない事に。