拝啓
いつもと変わらない街の中で、前を行くあの人の姿を必死に追いかけていた。
最初は隣に並んで歩いていたはずなのに、いつもと変わらない歩幅のはずなのに。私が走り出しても一向に追い付けなくて、あの人との距離は広がっていく。
「待って!行かないで!」
声は届いてないのか、いくら大きな声を出しても私の方を振り向くことなくあの人は進んでいく。息を絶え絶えにしながらも必死に呼んでいるのに。
「はぁ………んっ…い、行かないで……!待ってよ……!」
―――もう1人にしないで……―――
「――――母さん!」
突然聞こえた大声に驚いて上半身を起した。
「なっなに!?」
「うお、急に起きるじゃん。……すごく唸ってたけど大丈夫?」
「ぅん?……あぁー…だいじょうぶ……」
うなされるほど…この日になると決まってあの人の夢を見る。今年は特に怖くて悲しい夢。
「本当?すごい寝汗だし……母さん怖い夢でも見たの?」
「…こわ…かったし……かな…しかった……」
「…やっぱりあのお墓の人の夢?」
「……そう。……起こしに来てくれてありがと。すぐ行くね」
「…いいよ~。私が朝ごはん作るから、今日ぐらいは母さんはゆっくりしてて!」
そう言って、あの子は私の部屋から出ていった。
1人になった自室のでさっきまで見ていた夢を思い返す。…………あんなことは実際にはなかった。あの人のことは頭ではとっくに整理がついているのだが、心では未だに未練がましいとは…我ながら情けなく思ってしまう。
「……………切り替えなきゃ。」
あの子の言葉に甘えて、朝は任せよう。寝巻きから着替えて部屋から出る。
こうして、私にとって特別な今日が始まる。