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昇格する為には地道にいくほかにもう一つある。それは上の人に注目される事

 清々しい朝。

 空に太陽が上っている最中のすんだ空気を吸いながらユーナは今日もお仕事頑張ろう。と意気込み日課である早朝の散歩を楽しんでいた。もっぱら彼女のコースは自宅から遠回りぎみにギルドへ行き、そこを折り返し地点としてぐるりと一週するものである。時間的には30分ほどで一回りできてしまう距離だが、軽めの散歩としては十分に楽しめる。


 いつもの流れである朝風呂はすませてあり、帰ったら朝ご飯を食べ、そして、余裕をもってギルドに向かう。

 今日もそんな当たり前の一日を楽しむために歩くユーナは「今日も良いことあるかなー♪」等と嬉しそうに人気がないすんだ空気の道を歩いていた。


 しかし、そんな日常は簡単に壊される。目の前に人がうつ伏せで倒れているのだ。それもギルドの前に。このホワイトキングダムの城下町でも物騒なことは起きたりするものだ。薄暗い路地裏の治安が悪いのは良い例だろう。


 ユーナはここも治安が悪くなってきてるんじゃないかと不安に刈られる。物取りか?殺人か?どちらにしても倒れている人の安否をまず確認しようと近づいた。


 ユーナはその人の姿と状態をみて唖然とし呆然と立ち尽くすしかなかった。


「なんで……」

 

 そう自然と口に出たのが不思議だった。彼女はその人物へと近づき、その手を背中においた。


「起きてください!」


 まぁ、寝息をたててるのは大地なんですが。


 ユーナは肩を揺さぶりいまだ夢の中の大地を現実世界へ強制召還させた。


「あー。えーっと……?」


 寝ぼけ眼のまま回りを見渡すとそこにはなんと!私服姿のユーナさんが目の前にいるじゃないですか。セーターのような簡単に着れる服に長いスカート。

 ここに目の保養を得たり。という具合で目を覚ますとユーナは呆れ顔で聞いてきた。


「あの、なんでこんな場所で寝ているんですか?」


 当然の質問だ。何せギルドを出たときには200ゴールドあり、宿で一泊してもあまるはずだったのだから。ご飯食べたら文無しになったけど……。


「えーと、ご飯食べたら……お金がなくなりまして」


 情けない話だが包み隠さずに話すのがきっといい男の条件。だと信じたいところだ。嘘言っても仕方ないし、むしろ同情引いていい依頼を渡してもらえないかな?


 腹の底で黒い何かがうごめいている大地をよそにユーナは少し考えるそぶりを見せたあと一つ提案をしてきた。


「わ、私の家が近いので……そのよければ来ませんか?ギルドはまだ開かないですし」


 町の何でも屋さんのギルドだろうとしっかり営業時間は定められているのだ。


 確かに夜が涼しかったせいで体は若干冷えているが、そんな理由で推定20代前半の女性の家にお邪魔するわけにはいかないだろう。


「それはやめておきます」


「でも……」


 その言葉の繋ぎかたにピンときた大地はやはり掌で制止ながら断る。


「お金のことで負い目を感じて言っているのであれば……」


 確かにそれも少しはある。だが、それよりも別の理由がある。それは……。


「いえ、えっと。ダイチさん……臭いです!!」


 言葉を選ぼうとする度に混乱に陥るというループの末、ユーナは160キロど真ん中ストレートの言葉を大地に投げつけた。


「え?」


 その言葉を受け入れにくかったのか立ち尽くしていた大地は気を取り戻した途端に自分の服の臭いを嗅いだ。

 なんか変な臭いがする……。


 それは当然なことで前日は走る戦う飛び散った血がかかる等のイベントを味わったのだ。それが夜風を通すことによって臭いを倍加させて今に至る。が、風呂なしで服はこれだけ。どうにもならない。


「ですから……私の家でお風呂を……あとお洗濯もしますから……」


 何でこの人はこんなにしてくれるんだ?と大地は頭の中でそう思うことはなく、むしろ、若い女性の家でその人が使用していると思われる風呂に招かれただとーーー!等と邪念と煩悩の塊に支配され、そして、大地はユーナに向かって本当に見事な土下座をするのだった。


「宜しくお願いします!!!」


 俺が最低だと?だが、30のおっさんが彼女でもない20代の女性の家に招かれ風呂を貸してもらえる事なんて宝くじが当たるより確率が低いぞ!それなら頼むだろう!!


 土下座されたユーナは戸惑いながらはにかんで「では来てください」と言ってくれた。それにホイホイついてく大地。


 ほどなくして大地とユーナは目的地についた。



 突然ですが彼女の家がどんなものか、お風呂の香りがどんなものだったかはプライバシーの問題により規制しました。

 こちらが見たいかたはメガミッターからこの私、女神フルネールを信仰してくださいませ。



 お風呂をもらい、出たあとは洗濯してもらった服が乾くまで一枚の布だけで過ごし、そして、朝食の簡単な手料理を頂いた大地は既にギルドへとついていた。もちろん、ユーナも既にカウンターの向こうだ。


 朝からいいことだらけで上機嫌になりながら依頼を眺める振りをする。だって読めないんだもん。だけど、稼がなければならない。稼いで家を買うのだ!


「と言うわけで、リリア?」


「ひゃいっ!」


 え?名前呼んだだけなのに何て声だしてんだ。ほら、皆が何事かと見ているよ。あーあ~。俺がなんかしたんじゃないかって冷たい目線が……。


 そんなリリアは取り繕うようにコホンとわざとらしく咳払いをした。


「すみません。名前の呼び捨てにあまりなれてないもので。そして何ですか?」


 ちょっと顔を赤くしてるのが可愛く見えるが気づかない振りをして本題にはいる。


「高ランクの依頼やれば俺のランクも上がってお金稼げないかな?」


「それはできないんですよ。パーティを組めば高いランクの依頼も受けれますがランクは上がりません。また、パーティを組まなければ高いランクの依頼は受けられません。更に言いますと高いランクの依頼を一人で無理やり達成させても、公式ではないのでランクも上がらなければ報酬も貰えません」


 グエー。楽して一気に上げてお金持ち大作戦が出来ないだと……。


「この世は世知辛いぜ」


「そうですか?新人ハンターが無茶しない良いシステムじゃないですか」


「しかし、稼げないんじゃ……」


 ふと隣にいるリリアへ大地は視線を向けると頭に邪念がよぎる。

 あれ?リリアって……俺よりランク高いよな?


「なぁなぁ。ひとつ頼みがあるんだけど」


「お願いですか?何だろ……もしかしてパーティに入りたいとかですか?」


 目をキラキラさせるリリアに大地は頷いた。


「その通り!」


 肯定した大地にリリアは機嫌を良くする。パーティに入れば一緒に依頼が出来る。そうなればGランクでの討伐依頼でも危険を減らせる。彼が死なない。彼がなれるまでは自分達の報酬は物凄く少なくるけれど、あまり困ってないためそれは問題ない。


「依頼事態は俺がこなすから高ランクの依頼を受けてくれないか?」


 この際、ランクが上がらなくても家が買えればなんでもいい。報酬の分け前も多少、少なくてもいいがGランクの報酬よりもいいはずだ。

 そうして大地は再びリリアへ視線を向けた。が、彼女は目に見えるほど怒っていた。


「ダメです!!!」


 それは彼女に出会ってから初めて聞く声量の拒絶の声だった。明らかに怒気をはらんでいる。

 つまり激おこって事よ。


「お、おいおい。そんなに怒らなくても」


「低いランクの人が高いランクの依頼にいったらすぐ死んじゃいます!危険がいっぱいあるんです!それなのに……貴方は私に……私に連れて行けって言うのですか!?」


 女神サポートによる身体能力も上がっているっていうかチート状態なわけだから問題はないはずだ。ただその事について何も言わず軽い気持ちで言ったことは10対0で自分に非があるのは間違いない。


「いや、その――」


 凄い剣幕で怒っている彼女に気圧されるながらも謝ろうとするが、感情が高ぶり過ぎたリリアは既に大地の声を聞きたくなかった。だからこそ、喚くように叫ぶように言う。


「命を粗末にするダイチさんなんかもう知りません!どこにでも行っちゃえばいいんですっ!!」


 リリアが勢いよく振り返るとそのまま神官……いや、聖女服の余った布をたなびかせながらギルドを飛び出していった。


 やっちまった。どうすっかな……。


 彼女が振り返る時に見えた瞳には涙が溜めてあったのを見えている。

 こういう時、視力も強化されていると……見えちゃうんだよな。


「あの、大地さん?今のは流石にちょっと……」


 依頼の掲示板付近にいる大地にユーナは近づいて悲しそうに言う。


「ええ。わかっています。ちょっと無神経でしたね」


 その懺悔の様な告白を聞いてはユーナも特にいう事が無く引き下がろうとした。しかし、その前に大地はユーナに向けて尋ねた。


「ユーナさん。アクセサリーっていくらくらいなんでしょう?」


「アクセサリーですか?」


 首をかしげるユーナに肯定する為に大地は頷いた。


「ええ。それと16歳の女の子にプレゼントするものはどういうものがいいのでしょう?」


 その言葉を聞いてユーナはパァっと表情を明るくする。


「そうですねぇ。リリアさんにプレゼントするならネックレスとかでどうでしょう?可愛らしいお花の奴とかでいいと思います」


 ふむふむ。花のネックレスか……。それで機嫌直してくれるだろうか。


「大丈夫!ちゃんと謝ったら許してくれると思います」


 ユーナさんが俺の思考を読んできた……だと……。


「あ!ただ、一つだけ問題があって結構お高めなんです……」


「高いってどれくらい?」


「うーん、Gランクの依頼を3回程でしょうか。Fランクだったら討伐依頼を1回で済ませられるのが丁度あるのですが……」


 『ウォーラビット』換算で9体分くらいか?あまり時間をかけるのはなぁ。

 どうしてもリリアの涙目の表情が脳裏にちらついてしまう。


「ユーナさん!その一つ上のランクの依頼を……」


「ダメですよ。リリアさんじゃないですが本当に死んでしまいます」


「そこを何とか!!」


 頭を下げ、両手を合わせて拝み倒す勢いでお願いをする大地。それをみて聞いてあげたい気持ちと死なせたくない気持ちとギルドの規約的なアレでトリプルばさみ状態になり困惑するユーナ。


 しかし、その目線は一つの依頼書へ注がれている。


 そこに少し渋めの声が横から割り込んできた。


「ふむ。ポイズンビーの駆除か。その依頼はハンターに登録したてのGランクだとほぼ確実に死ぬぞ」


 ユーナの目線にある依頼書をとりながら男はそう言った。


「ギルド長!?」


 ユーナさんが驚いているな。この人がギルド長……っていうかギルドで一番偉い人でいいんだよな?


「だが、死ぬ気があるならこんなのいくより、巣そのものの駆除に行ってみないか?ちょっとだけ上のランクになるけどな」


「報酬がもらえるならなんでもいい。ただ、それって巣の駆除だよな?どうやって証拠を?」


「ああ、ポイズンビーの巣には少しでかい蜂の女王がいるんだよ。名前はアシッドマーダービーだっけか。こいつが死ねば自然と巣も機能しなくなるからこいつの触角持ってくるといい。どうするやるか?やめとくか?」


 モンスター駆除すればいいだけか。ただ……名前からして蜂なんだよなぁ。しかも物騒な名前だし。蜂は怖いし嫌いなんだよ。でも……とりあえず謝らんとな。そして、俺が強いことをわからせるしかない!


「当然やるさ。報酬楽しみにしとくぜ。あ、モンスターとかの解体って売れるものあるのか?」


 大地が聞き忘れた事についたずねるものの、ギルド長は首を横に降る。


「残念だが無いんだよ。蜂も巣も活用法方がなくてな。だから、皆この依頼をやりたがらないんだ。あー、あと一応忠告な。ポイズンビーに刺されるのもいてぇけど、アシッドマーダービーに刺されたら内部から溶かされっから刺されないように気をつけろよ?」


「わかった。それじゃあ行ってくる」


 頷いてギルドを出ようとした大地の背中に向けてギルド長は「もし戻ってきたらCランクまで上げてやるよ」と、二階級特進を言い渡してきた。


 それ、殉職って意味じゃないだろうな?いや、二階級ですらないけども……。

 そう思いながら大地は外へと踏み出した。

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