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始めての稼いだお金。宿屋にて散る

 全力疾走で駆け抜けた大地はさほど時間が掛からずにギルドへ着いた。

 木製の扉を開けて中へ入ると一目散にユーナのいるカウンターに向かう。


「あら。ちゃんと逃げてきたんですね!偉いです!!」


 その勇気に称賛を与えるように、そして、生きて戻ってきたことに喜びながらユーナは笑顔で小さく拍手する。その言動から大地がモンスターから逃げて、依頼を諦めたと思っている様子だ。


「いや、討伐してきたんだけど」


 大地は布袋から『ウォーラビット』の片耳を三つ取り出して見せつけるながらどや顔をキメる。


「え?……確かにこれは……」


 ユーナが『大地が逃げてきた』と思う理由は三つある。


 一つ、モンスターの肉をもってないこと。モンスターと言えど動物のようなモンスターの肉は美味いのだ。自分で食ってもよし、売ってもよし。


 一つ、新人が依頼をこなして帰ってくる時間ではない。彼が出ていった時間を考慮すると戻ってくる時間帯は空が暗くなる頃だと考えていた。今の時間帯は空が赤くなり始めるところだ。


 一つ、大地を心配し、共同すると言って後を追った少女が一緒に居ないことだ。依頼状況にもよるが、依頼中に他のハンターと共同、或いは、依頼の途中譲渡を行う場合もある。依頼を譲渡した場合は邪魔にならないように帰されるのが鉄則であり、あの少女がそれに従わないとは考えられない。


 だからこそ、大地がモンスターから逃げ帰ったと思ったのだ。しかし、それは恥ずべきことじゃない。ランクが高ければ別だが、彼のランクは一番したのGなのだから、生きるのが最優先だ。

 なのに大地は確かに依頼の証拠である『ウォーラビット』の耳をもってきている。


「あの、モンスターは解体しなかったのですか?」


「解体?」


「はい」


「んー?うん?」


「え?あ!もしかして説明してませんでした……?」


 もしかして私やっちゃいました?見たいな赤面しながら顔を少しうつむかせて瞳をちらりと大地に向けるユーナ。


「解体ってバラバラにすることだよな?何か意味あるの?」



「あ、あー。えーと」


 ばつが悪そうにしながらユーナは申し訳なさそうに言う。


 「ウォーラビットのようなモンスターはお肉も食べられるので、切り分けて売るとお金の足しに…」



なるほど。だからこその解体か。


「因みにお肉っていくらくらいで売れるの?」


「一体につき……だいたい200ゴールドくらいです……」


 ふむふむ。3体いたから俺は600ゴールド逃したのか。


「因みに今回の報酬は?」


 ユーナは小袋を取り出して大地に渡しながら萎縮した声で言う。


「200ゴールドです……」


 報酬金額のバランスがおかしいんじゃないのか!?ちょっと運営どうなってんの!?


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


 平謝りするユーナ。とはいえ充分な説明を怠ったのは彼女であり新人ハンターの貴重ともいえる金額を失わせたのだ。

 思い詰めパニックになりながらユーナはとんでもないことを口走る


「わ、私にできる事な――」


「ストーーップ!!!」


 大地がユーナの口を掌で塞ぐのがギリギリ間に合ったお陰で最後まで言わせないことに成功した。

 まてまてまてまて。その用語は色んな意味で危ないんだよ!


 女性の顔は赤く、その瞳は涙で潤ませ、強引に口を塞いでいる今の状況も十分に犯罪めいている状態だが危ない発言はやめて頂きたい。やめて頂きたい!!


「失礼」


 大地は慌ててその手を戻しながら謝る。

 少しでも極悪めいている状況を払拭するために紳士的に振る舞わなければならない。何せギルド内のハンター達が自分とユーナさんをみてざわめいているのだ。このまま傭兵いるかわからないを呼ばれかねん。


「でも……」


 あーこの人すごく真面目だ。可愛くて優しくて真面目なのはいいけど……このままなあなあで終わらせたら闇落ちしそうだな。

 仕方ないから俺の言うことを聞いてもらって罪悪感を脱ぐってもらうか。ぐっへっへ。


「じゃ、じゃあ」


 そう言い出した大地にユーナは視線を向け続ける。


「これからもいい依頼を頼む。モンスターを倒せることも証明したことだしな」


 まぁ、なんだかんだで稼いだしな。夕飯食うとしても今日の宿代くらいは残るだろう。

 ――バァン!!


 これで平和的に話がおわると思った時に木製の扉が勢いよく開き音が建物内に鳴り響き、大地がそちらへ目をやるとそこにはよく見た人物が立っていた。

 そう。ちんちくりんである。


「あ!まだいましたね!」


 そう言って神官服の少女は無遠慮にギルド内をまっすぐと大地に向かって歩いてきた。

 そこで何かを言おうと口を開いたところで少女の動きが完全停止した。彼女の視線の先を見てみるとユーナを捉えているようだ。そこで、彼女が止まった理由が思考回路をフル回転させていることだと気づいた。

 これは……まずいかも。


「……少し宜しいでしょうか?」


 神官少女が視線を大地に戻すと同時に丁寧な口調で伺いを立ててくる。コワイ。

 目の前にいるユーナが顔を赤くして泣いていて、その目の前には迫っていると思える程近い自分。


「ま、まて、何か誤解してないか?」


「私に治療やら人の護衛やらを押し付けておいて、自分はユーナさんに迫りながら泣かしていますが……誤解ですか?」


 心なしか少女の目が光っている様な気がしてきた。そしてその少女からにじみ出る凄みも相まってコワイ。


「お、落ち着いてくれ。な?」


「あの後、私。大変だったんですよ?目が覚められた途端、泣かれたり、人を探す様にきょろきょろしだしたのを止めたりと」


 少女の口からは「ふふふふ……」とダークマターの様な笑みを浮かべ始めた。


「悪かった。悪かったから。あと、俺は本当に無罪だからな!」


 謝りつつも無罪だけは勝ち取らなければならない。どんな形であれ少女が有罪と判断した瞬間に傭兵でも呼ばれれば社会的に死ぬだろう。

 そんな俺の必死な弁明をしても「本当ですか?」等と冷たい目線を少女は送ってくる。


「あの。本当にダイチさんは何もしていないです」


 大地の言葉よりユーナの言葉の方が説得力があった様で少女はそれを聞くや否やパッと可愛らしい表情へと一瞬で戻った。


「そうですか!よかった!」


 若干納得いかないところはあるが、これ以上こじれるのは俺の本意ではない。少しだけ安堵に似た溜息を吐き出した大地はこのことを飲み込んだ。


「ところで、ダイチさんは報酬ちゃんといただきました?」


「ああ。しっかり貰ったよ。って俺がモンスター討伐できたの知っているのか?」


「知っているというより見た感じ。でしょうか。依頼を失敗した新人の方ってどうしても後ろめたく考えてしまいますからね」


 ほー。よく見ているんだな。実はこの少女ってすごいやつなのか?


「それはそうと。私は貴方に言われて治療魔法とか色々しましたけど……」


 神官少女が何かを訴えるような目でこちらを見てくる。それが何を意味するかを考え始めたところで更に少女が口を開いた。


「あー。私お腹減っちゃっいましたぁ」


 く!この大根役者め!!飯を奢れってか!!

 そのわざとらしすぎる言葉に神官少女が何を言いたいのかよくわかる。だけど、少女のおかげであの王女様たちが助かったのもたしかなのだ。自分が少しでも遊び心を出さなければもっと安全だった。めんどくさいのは嫌だが、助けられる人を助けないのはカッコ悪いのでもっと嫌なのだ。

 そしてそれはここで少女――いや、彼女に礼の一つもしないのは更にカッコ悪い大人だろう。


「わかった。わかった」


 軽いお手上げの様なポーズをしながら大地は少女には勝てんよと示す。


「だけど、飯を食える場所が分からないから案内は任せるぞ?」


「はい!それでは美味しいご飯が食べられる宿屋へ行きましょうか」


 そう言って少女がクルリと回転するが、一つだけ気になった事があった。


「あれ?アンタは来ないのか?」


 神官少女とパーティを組んでいたごつい男がギルドの椅子に座ったまま動いていないのである。


「や。自分は……」


 そう言い淀む男に対して大地はめんどくさそうに言う。


「あんたもこのちんちくりんのパーティだろう?嫌じゃなければ一緒に来たらどうだ?俺が世話をかけたんだからな」


 真面目そうなごつい男は「ふぅむ」等と考えこもうとした時に神官少女が大地の言葉に賛成だったらしく援護をし始める。


「せっかくですし行きませんか?ダイチさんもこう言ってますし」


「わかりました。それではご一緒させていただきましょう」


 そういってようやく重い腰を上げたごつい男。

 納得した神官少女。

 いうだけ言ったが財布の金が足りなかったらどうしようと思う大地。


 ココに飯パーティが結成された!


 ギルドを出たあとは神官少女と並んで大地は歩き出す。その二人の後ろをごつい男が二人を見守るようについてきている。

 外はすっかり夜の帳に包まれている。街灯らしき火がついている松明のような物が点々としているおかげで真っ暗で道が分からず歩けないという事はない。


「ところで、こんな時間まで外に出歩いてていいのか?」


 大地の視線から自分に向けて言われているとわかった神官少女は首を傾げた。


「え?なんでですか?」


 さも意味が分からないという感じで、それが演技ではなく本心から聞いてきているのが分かる。


「いやだって子供がこの時間で出歩くのはな……」


「子供じゃありませんよ!!」


 まさかの言葉に驚愕する大地。だからこそ女性に聞く質問ではないデリケートなことを不躾に聞いてしまった。


「何歳なんだ……?」


 これは子供の容姿に年齢が二十歳越えであるのならば、ストライクゾーンに入るのではないだろうか?というか犯罪じゃないならそれでいいのだが。

 息をゴクリと飲み、大地は神官……少女?の次の言葉を待つ。


「16歳です!」


「20にもなってないガキじゃないか!!」


 まさかの大地の言葉に神官『少女』は憤慨したと言わんばかりに怒る。


「子供じゃありません!そもそも15歳から大人なんですよ?」


 平安時代かよ!!


「もしかして……知らないんですか?」


 まさかそんなことはないよね?と言った目で少女は見てくる事に若干傷つく。

 するとごつい男の方がフォローするように丁寧な口調で言った。


「もしかしたら遥か遠い場所から来ているのかもしれません。文字も知らないようですし」


 文字くらい知ってらぁ!!まぁ日本語くらいなんだがな。


「それなら……仕方ありませんね」


 神官少女は「でも!」と強く言いながら人差し指をたてて近づけてきた。まるで覚えてくれと言わんばかりに。


「わ!た!し!は!大人ですし、ちんちくりんでもありませんからね!!リリアと言う名前があるんです!!」


「あー、わかったよ。俺はダイチ ユキムラだ。宜しくなリリア」


 自分も礼儀としてしっかり名乗ったのだが、彼女の顔が赤いのはまだ怒っているからだろうか?

 このままではまが持たないので大地はごつい男の方に視線を向けた。名乗ってくれることを期待して。

 そして期待度降りにごつい男は口を開いた。


「私はグラネス・トライアドと申します」


 グラネスは丁寧にお辞儀をひとつしたあと、何故か固まっているいまだに顔が赤い少女に耳打ちをした。何を言ったかわからないがその一言で正気?に戻ったのをみて少しほっとした。


 その少女はコホンと咳をする仕草をして体裁を整えると、一言「失礼しました」と言うが、まだ顔が赤いようすだ。


「ここが目的地の宿屋とご飯のお店です」


 それから少しだけ歩いたところで神官少女が足をとめたところで掌で店を指す。


 ちょっと豪華そうな宿屋だと装飾具合で思ったりもしたが、ひとまず気にしない事にして宿へはいった。

 目の前にはカウンターがあり受付嬢のような人がいる。なんと言うか定食屋のおばちゃん見たいで人の良さそうな印象がある。その受付嬢に軽く挨拶を済ませ晩ご飯を食べたい旨を伝えると食堂へと案内してくれた。その案内通りに三人は席につく。

 少女がメニューを開くと悩んでいるようだが、それは食べたいものと言うより金額について悩んでいるように見えた。


「余計な気を回さんでくれ。あと、俺は文字読めないから適当に宜しく」


 完全に投げっぱなしな言い方だが、正直、メニューの一つ一つを少女に聞きながら探すのは精神的にきついものがあるからだ。

 ……後々気づいたが、グラネスに聞けばよかったんだ。


 そして、神官服を纏った少女……ではなくリリアが注文したリリアセレクトの料理群がやって来た。どれも美味しそうなんだ。


こんがりきつね色に焼けた鳥のような肉。大半を緑色でしめているがところとごろに赤や黄色の色彩があるサラダ。山盛りのピラフのような米。皿の底まで見える水のようなスープからはしっかりと香りがたっている。そう異世界での旨そうな料理がならんだ。


 それはいいんだが、明らかに酒まである。


 え?リリア飲むの?いや、大人って言うのは聞いたけど、聞いたけど、犯罪めいてない?


 そんなリリアは嬉しそうに「それでは頂きましょうか。」と言っていてあまり咎められない雰囲気だ。しかも、グラネスを見ると……なにその表情!?え?「またか……」見たいな顔してんだけど。


 そのグラネスが意味深な表情をしていたわけはこのあとしっかりわかった。


 まず普通に美味しい料理に舌鼓を打ちます。大地とグラネスはたまに酒も飲むのです。なかなかの美味しさで少し甘めのワインと言うのが一番近いでしょう。だけど、口の中にしっかりとしたブドウの香りが広がるのです。大地は大ジョッキほどのコップで飲み干しつつアルコールを感じていました。


「あ、あー、大丈夫か?」


 心配そうにグラネスが大地に聞いてきます。その理由としてはこのお酒はかなり強いらしく普通の飲み方は大ジョッキコップから二回り小さいコップに移して飲むのが飲み方だったのです。よく見ると大ジョッキコップの縁に指し口があります。大地の世界では……デキャンタと言うものです。

 とはいえ大地は酒に強い為に問題はありませんでした。


「はしたないですけど、そうやって飲むと美味しいですよね!」


 そこに突然不穏な声が聞こえてきました。既にご飯を食べ終えたリリアが大ジョッキコップに手を伸ばしていたのです。彼女も大ジョッキコップを掴むと飲み始めました。ただ、ゴッゴッというおっさんのみではなく、両手で大ジョッキコップを持ってコクコクと可愛らしく飲むのが救いでしょう。


 それでも、16歳の神官服を着た少女が大ジョッキコップを持って飲んでいる様は異様すぎて大地は暫し固まってしまいます。

 因みにこの間、グラネスは両手を顔に当て、わかっていたこの未来を嘆いてるだけでした。


「って、まてまてまてまて!」


 リリアの飲んでいるペースが変わらないことに不安を覚えた大地が必死に止める。


「え~?何で止めるんですかー?」


 大地が取り上げたジョッキを取り戻そうと両手を伸ばすが流石に届かない。取り戻そうとする間も「ダイチさん返してください」や「まだ飲み始めたばかりなんですー」とよっぱらい言語にはなっていないもののやはり酒はダメだろ。


「返してください。私のジュース!!」


「だからジュースは……え?ジュース?」


 手元のガラスでできた若干歪んでるところがある形の大ジョッキコップのなかを見ると、ダイチが飲んだものと確かに中身が違うようだ。


「だから、その飲み方はしない方が良いって言ったんですよ。神様と言葉が交わせる聖女でもあるんですよ。貴女は。はしたない真似は……」


「……すまん。てっきり酒をグビグビ飲んでるのかと……」


「お酒ですか?私は神様にも仕えてるので飲んじゃダメなんですよ。それにジュース美味しくて大好きなんです」


 グラネスがたしなめ、大地が謝り、リリアが戻ってきたジュースを再び飲み始めるのだった。


 そんな一幕もありつつ、楽しかった?食事会も終わり解散したはいいが、まさか200ゴールドぴったしの金額であり、今日の稼いだ分は全て宿屋で消えたのだ。


 そして、寝る場所をなくした大地はふわふわベッドを諦めて再び今日の寝床……ギルドの前の地面という石畳のベッドへ寝転ぶのだった。

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