この貸しは自分の過ちから成るもの
敵を殲滅した大地は既に気を失っている彼女たちに近づく。
一人だったら抱えて走れるが二人となるとどう抱えたらいいのか……。
いや、それならもう一つ考えていた召喚を試してみるしかない。それでなら彼女たちを直ぐに運べるし治療だって出来るだろう。
思い浮かべるのは――。
その途端、草木が揺れる音が聞こえた。
また『ウォーラビット』か?と思い振り返るとそこにはちんちくりんとごつい大剣をもったごっつい男が居た。
二人でパーティを組んでいるんだろうが、事案か!?等と一瞬考えた。でも、今はそれどころじゃないので雑念を振り切る。
「これは……」
神官服を纏ったちんちくりん――少女が倒れている二人の女性に視線を向けた後に大地へと向ける。
「あ、ああ、あなたがこんな事を……!」
動揺を隠さずに盛大に勘違いをするちんちくりんだが、今だけは助かった。
「そんなわけないだろ。俺はハンターになったばかりの新人だぞ!」
新人を強調させてもらう事で身の潔白を訴えかける。彼女の甘さにつけ込む形だが大人は汚いものなのだ。
とは言え、少女もそれだけで妙に納得したらしく「それもそうですよね……」と安堵の表情を浮かべてた。
ひねくれた俺は『弱い貴方じゃこんなことできませんよね。』という意味に捉えそうになりプライドが傷つきそうになるのをグッと堪える。
「俺が来た時にはこんなことになっていたんだ」
新人の俺ではできないよと言うのを信じ込ませる為に多少嘘をついてもいいよね。
「すごいモンスターの数ですし……先ほどの光も気になりますがいったい何があったんでしょうか……」
「わからない。俺もその光が気になって来てみたんだ。とりあえず……回復魔法とか使えるなら彼女たちを」
俺の言葉に少女は「はい」と言いながらドレスを着た女性へと近づいていく。
これで安心できる状態になるだろうけど大地はもう少し演技をして更に信じ込ませる為に動揺して見せた。
「そうだ。俺が来た時に人影が去っていくのをみたんだ」
「人影ですか?……ということはこのモンスターたちはその人が?」
「ああ、そうだと思う。俺もこの場に居たわけじゃないからはっきりとはわからねぇが」
あたりを見回してこの惨状はすっげぇや。と興味深そうに視線を動かしつづけてみせる。
そうこうしているとドレスの女性の治癒が終わったのか、神官少女はもう一人の鎧を着た女性に回復魔法を使用し始めた。
「……あなたは。自分の手柄にしようと思わなかったのですか?」
少し考えた神官少女が大地を見て質問してきた。
まぁ実際やったのは自分なのだが、なんか面倒ごとになりそうなので名乗り出る気はない。
「ん?ああ。新人ハンターがやりましたって言っても信じられないだろう?」
大地がそういうと神官少女はクスクスと笑いだした。こうしてみると本当に可愛らしいと思えるが、牢獄はノーセンキューなので思考回路も気をつけねばならない。
「確かにそうかもしれませんね。でも……」
神官少女の表情が一変した。それは努めて真面目な顔だ。
「自分の手柄にしたいと思う人っていっぱいいるんです」
「いや、それにしたって新人がやったってわからな――」
「それがたまにすごい新人ハンターの人っているんです。例えば、入ったその日にAランクじゃないと倒せないモンスターを倒したり、大量のモンスターを一瞬で倒したり。後は――戦争で大量に怪我をした人達を1時間で全員の治療を終わらせたり。です」
ふむ。怪物見たいな人っていうのは要るもんなんだなぁ。
「だから。もしあなたがやったと言ったらそれを確かめる術は……」
「それでも俺がやったって言った後、もう一回やれって言われたら無理だしバレるだろ」
神官少女は頷く。その表情は悲しみを含んでいた。
「はい。そうなります。他の人の手柄を自分の者にしてランクを上げた人の末路は……例外なくランクの高いモンスターに殺される事です」
あー。まぁそうなるよな。
チラリと神官少女に視線を向ける大地は少女の表情にちょっと怒りを覚える。
どう見たって年若いガキがいちいち人の生死を気にしすぎなんだ。忠告をしてあげるまでは優しさだろうが、その先のことまで考える必要はまったくないだろう。
「ちんちくりんはちょっと考えすぎだろ。そいつの生き方まで干渉しすぎると辛いだけだろ」
そういいながら大地は神官少女の頭にポンと慰めようと手を乗せる。
神官少女はその状態のままぐるりと振り返って大地に抗議をするように起こった表情で顔を向けた。
「ちんちくりんじゃありませーーん!!」
治療が十分に終わったのだろうか回復魔法を止めた神官少女は両手をあげながら喚く。
ただそのおかげか表情に悲しみの色が消えていたので大地としては満足する結果になった。
「そういえばこの人たちって誰なんだろうか?」
やはり貴族なんだろうか?整った顔立ち。っていうかこの世界美人多いな!俺的には嬉しいが……かわいい子万歳!
そんな邪念と煩悩だらけの大地に向かって問いに答えたのはごつい男の方だった。
「この方たちは……この国の王女様とその親衛隊隊長だ」
マジかよ。貴族どころか王女とは……。まぁでもこれで死ぬことはないだろうし、俺はとっととこの場を去ったほうがよさそうだな。もし目でも覚めてめんどくさい事をいわれたらたまったもんじゃない。
「それじゃあ俺は先に帰るとするよ。この人たちの事をよろしく頼む」
「え?ええ?最初に保護してたのは貴方じゃないですか!?」
そんな無責任な。と言わんばかりの抗議の目を向けてくる神官少女だが、こちらとしても話がこじれたらめんどいのだ。
「でも俺は回復魔法とか使えないからな。この人たちも助かった事だし……さらば!」
神官少女とごつい男を置いて大地はホワイトキングダムの城下町へ向けて全力疾走で駆け出した。
「ちょ。ちょっとー!!待ってくださーい!!」
そんな少女の叫びが背中から届いた気がしなくもないが、大地はすべて無視をした。