神が与えた力は魔力を使って物理で倒す
いろいろあったけど南の森にこれたぜヒャッホー!
お楽しみはここからだぜ。そういわんばかりに大地は森の中を駆け回る。
余力を残しながら走ってもめちゃくちゃ早い。疲れない。反射神経も動態視力も追いつく。
「ふははははは。無敵!!」
そう言った瞬間、ズガンという音とともに目の前が真っ暗になった。
何があったかはその感触によってすぐわかる。
ヒント1:調子こいて飛び跳ねながら疾走していた
ヒント2:動きながら視線を動かしまくっていた
ヒント3:ここは森の中
そう、余所見をしていたため太めの木の枝に向かって顔面をシューッ!超エキサイティーン!というわけである。
身体能力が上がっているなら防御力も高くなっているんじゃないかと思うが、速度をあげてぶつかることで自傷ダメージはアップしていた。当然痛い。
「いっつぅぅぅ」
顔を覆い隠しながら痛みをやり過ごそうとする中、近くでカサリと草木が揺れ動く音が聞こえた。
何事かと振り向くとそこから飛び出した影は大地の前に降り立った。
「これがウォーラビットか。かわ……いくねぇ!」
その見た目に一瞬可愛いかと錯覚しそうになる。
動物のウサギと同じだ。大きさもそこまで大きくなく野良猫くらいだろう。長い耳もキュートである。二本足で立ちあがるのも普通だ。両手をおなかのあたりに置いているのも……かわいいか?その手から一本だけ長い爪がにゅっと伸びている。でもそこまでも可愛いと言い切ってしまってもいいだろう。やばいのは目である。エイリアンよろしく目の大きさが顔の3分の1か、4分の1ほどある。しかも先まで真っ赤に染まった目。怖い……。
とはいえ、討伐対象のモンスターだ。怖い怖くない関係なく殺る以外の選択肢はない。
「行くぜ!」
頭の中で銃を思い浮かべる。電子の海のウキペデアから抜粋するその姿を想像する。
鉄の塊。全身が黒くトリガーを引けば自動的に上半身がスライドして弾を込める自動拳銃である。
ちなみに弾丸はすべて魔法で賄うらしくリロードや弾込めというものはない。
1秒も満たない時間でハンドガンを手元に召喚した大地はその銃口を『ウォーラビット』に向けた。
わかる。銃を初めて打つはずなのにどのあたりに銃口を向ければ当たるか。どの程度反動があるか。そういったものが手に取るようにわかるのだ。これもやはり女神サービスか。
大地は引き金を引いた。銃口から火が噴出し、拳銃の上半身がスライドされ、強烈なほどに高い音が鳴る。打ち出された弾丸は回転しながら正確に『ウォーラビット』の額へと吸い込まれていく。肉を裂き、血を噴出させ、一撃の名のもとに『ウォーラビット』を仕留めた。
「すっげぇ!!」
拳銃童貞を捨て去った大地はテンションを上げながらさらに2体出てきた『ウォーラビット』に向けて銃口を向けて引き金を引く。無駄のない動きにより『ウォーラビット』もなすすべなくその場で倒れていく。
やはり拳銃は最高だ。そう思いながらもすぐに戦闘が終わってしまった悲しみを抱きながらてん。
ギルドを出る直前にユーナさんが腰に取り付けてくれたナイフを取り出す。その時にユーナさんの小振りの山を近くで堪能できたのだが……邪念は出来る限り捨てなければ失礼だろう。
ナイフで『ウォーラビット』の右耳だけを採取して袋に詰める。こんな簡単におわった討伐依頼だが、気分を変えて戦えたことを喜ぼうとした瞬間、大地の耳に人の悲鳴が入ってきた。
「なんだ?」
基本めんどくさがりではある大地。ギルドに登録してハンターになって金を稼げたのなら少しの間ニート生活を考えていたが、女性の悲鳴のようなものが聞こえてしまえば行かざるを得ないだろう。
あー、下心じゃないぞ?ほんとだぞ?
大体の悲鳴の位置を目算で定めながら大地は走り出す。今度は木の枝にぶつからないように。ただ、この森の中で悲鳴って……あー、お約束か?
そんなことを考えながら大地は悲鳴の元を見つける。もっともそこは森の中でも人工的に作られた森の中の街道といえば良いだろうか。悲鳴を上げたであろう女性は若いようで10代後半か20代前半くらいだろう。服装はドレスみたいなもので貴族なのかもしれない。馬車で来てたのだろうが、その馬車はその辺に転がされている。おそらく転がされたからの悲鳴だったのかもしれない。ちなみに馬は……あ、生きてるっぽい!そして護衛のような人も見かけるな。だけど、一人だけ?というより残りの人は殉職だろう。
大地は次にモンスターの方向へと視線を向けた。
数が多いな。20体くらい?あ~でもなんか後ろからさらに来てそうだな。全部猿のようなモンスターだな。徒党を組んで襲ったってところか?まぁ、別の小説ではゴブリンも徒党を組むしモンスターだって群れていたいってところか。
あの数相手にしたら……楽しそうだなぁ。せっかくの授かった魔法をぞんぶんに使えそうだし、って俺は戦闘狂じゃないから楽しまない。楽しまないぞ!……どうにもゲーム感覚になってしまうな。
さて、どうしようかな。このまま助けに入るのは問題ないし、あの数だろうと倒せそうだ。
ただ、貴族?と関わり合いを持つとめんどくさそうだな。今は確かにお金が欲しいけどマイホームを手に入れたいだけだし、マイホーム手に入れたら依頼こなして簡単なお金稼ぎで過ごしたいだけなんだよなぁ。
助けない選択肢はないけどどう助けるかが悩ましい。一応遠距離で姿を見せずに倒すことも余裕だね。スナイパーライフルとか召喚できるし。でも、やっぱちょっとだけ暴れたいかな?チート能力だけど名前さえ出さなきゃわからないよね!
「さて!行きますか!!」
もうダメかもしれない。初めにそう思ったのはこの街道にはいってからだ。最悪なことに『クラスターモンキー』に出会ってしまったのだ。『クラスターモンキー』に私の親衛隊が半分以上殺されてしまった。そこからはその下っ端である『下っ端モンキー』の数に押されて、一人、また一人と殺されてしまった。
いま私を守るのは新鋭隊の隊長であり、私の身の回りのお世話係であり、大事な親友。私自身も戦うことはできるが、この数の前じゃ焼け石に水であろう。こんなことになるのならば隣町に行くのではなかった。
そもそも何故こんな場所に『クラスターモンキー』がいるのだろうか。今考えていても仕方がないことではあるが、この状況を招いた自分の選択肢やタイミングを呪わざるを得ない。私も親友もこのままここで死ぬかもしれない。
「ぐあっ!」
「ミリア!!!」
親友であるミリアが『下っ端モンキー』の強烈な飛び蹴りを受けて地面へと転がされた。血を吐きながら転がった彼女はその痛みから立てないでいる。
「ごめ、ごめんなさいミリア。私が隣町に行こうなんて気軽に言わなければ……」
「そういわないでください……姫様。私たちを労っての言葉でしょう……」
息はある。でも早く治療しなければ他の親衛隊のように……。それだけじゃない。自分自身もこのまま死ぬのだろう。
「姫様。お願いです。諦めないで。逃げて。くださ。い。」
忠誠を誓った愛する姫。その頬に手を当てながら途切れ途切れになりながらも伝えたい言葉を伝える。
だが、逃げるなんて嫌だった。それはプライドとそして怒りからである。
「すまない。すぐに後を追うよ」
そういうと姫と呼ばれた女性は剣を構える。
「このアーデルハイド・ロウ・ホワイトの名に懸けて、貴様らを少しでも道ずれにしてやる!!」
怒気をはらんだその言葉とともに魔力を高める。
もちろん戦力差がわからないわけでもない彼女はどうしても嫌な汗が流れてしまう。それでも大事な親衛隊を、大事な親友をこんなにされれば黙っていられるわけがない。くじけるなんてありえない。王女としての矜持は今も心にあるのだ。
「はぁぁぁっ!!」
一瞬で間合いを詰める姫。その一刀はたやすく『下っ端モンキー』を切り伏せる。
そしてこれが姫の魔法。火を出したり水を出したり花を出したりするような可憐なものじゃあない。身体強化であり上限突破だ。腕を強化すれば力が強く、足を強化すれば素早く。それが身体強化だ。この魔法では自分の限界までしか底上げすることしかできないが、姫の二つ目の魔法上限突破が身体の強化の重ね掛けである。しかし、重ねがければ体が悲鳴を上げるため、上限突破まで使えばすぐに体はぼろぼろになってしまうだろう。
『下っ端モンキー』はそこまで使わなくても倒せるのが救いだ。
「きゃぁっ!」
だが、数の多さはなめていはいけない。いくら一騎当千しようが、しょせんは1体ずつしか切れぬのであれば追いつめられるのは必然であり、追いつめられれば隙が生まれ、今のように反撃を食らってしまう。
『下っ端モンキー』によって蹴り飛ばされたアーデルハイドだが、その場所は奇しくも親友の近くだった。
剣を手放してしまい、じりじりとにじり寄ってくるモンスター達。ここまでであることに諦めながら親友の手を強く握り、命を散らすその時まで恐怖を少しでも払拭しようと試みる。
「ごめん……ね。ミリア」
「姫……さま……」
大地は最後に立っていた女性がけられた後にモンスター達の前に割って入ったが選択を誤ってしまったことに後悔した。スナイパーライフルで狙撃していれば二人が地面に倒れることはなかった。自分は彼女達を無事に助けることができたはずなのだ。
「すまない……」
その一言しか言えなかった大地を二人の女性は地面に近い位置から見続ける。誰だかわからないが人が来た。だから二人の女性は願う。せめてこの親友だけでもいいから町へ連れて逃げてくれ。と。
だが、傷がひどくなっているのか痛みによってあまり声が出ない。
その様子をしっかりと見た大地は自分がやれることを全開にして助けて見せると心に誓う。
「時間がないな」
前口上だのなんだの少しだけ考えたがそんな悠長なことを言ってはいられない。
先ほど『ウォーラビット』に使用した拳銃を両手で持つ。
二丁拳銃のだいご味は自由に二つの銃口が使えることだろう。その真価を発揮させるのは今だ。
四方八方から襲い掛かってくるモンスターを正確に額へと弾丸をぶち込む。弾丸が脳を貫通するたびにその生物は死に至る。最初みた数は20体。今はその3倍くらいに膨れ上がろうとしているが、関係ない!
一発撃てば一体死ぬ。後ろから来ようと上から来ようと大地は時に回って、時には横に回避しながら縦横無尽に駆け抜けながら引き金を引き続ける。
それを寝ながら見ていた二人の女性は痛みを忘れてあっけにとらえる。黒い何かを出したと思ったら火を吹いたのだ。だけど。そんなちゃちな火の魔法では倒せない。はずだったが、火を噴くとモンスターが一体死んでいくのだ。理解に及ばない未知の魔法としか言えず、その蹂躙をただ見るしかできなかった。その中でもたった一つの確信をえたのはこの人がいれば親友は助かる。だった。
2秒に1体のペースで仕留め切り2分で終わらせた大地だが、地面に倒れている女性が驚くような表情をした。それは自分――というよりその後ろを見ている。大地は振り返った。
「こいつは大物だな」
全長5メートルはありそうだ。その姿は猿?ゴリラ?いいえイエティです。
巨大な図体、巨大な手足。毛むくじゃらな体。そしてなんか顔がゴリラっぽい。
つまりあのモンスター軍団の大ボスだとわかる。
実質このモンスターは『クラスターモンキー』と言い、『下っ端モンキー』を大量に従え町を滅ぼす厄介なモンスターである。このモンスターを討伐するのにはBクラスなら最低10人、Aクラスなら3人は必要になるだろう。だからこそ、今度こそホワイトキングダムの王女アーデルハイドと、その親友であるミリアは無理だと悟ると、その痛みに耐え兼ねか体が限界に達して二人は意識を手放した。
「だから時間がねぇんだよ」
もちろん、大地にはそんなこと関係がない。ボスだろうが雑魚だろうがとっとと仕留めて彼女達を町に送り届ける。きっとギルドにいたあの『ちんちくりん』なら回復魔法とかできるだろうと。
大地は二丁のハンドガンを消すと次の銃を召喚する。
全体的に長いそれは肩に当てるための銃床と呼ばれる部位が存在する。肩に当てることで照準を安定させる役割を持つ。その先にグリップとトリガーがあるが、もう少し先を見ると弾丸を入れるマガジンがある。もっとも魔法の弾丸のおかげでマガジンは必要はないのだがあったほうがカッコいい。さらに先にいくと長身の銃口がある。この武器はアサルトライフルと呼ばれるしろものだ。
「まずは膝を崩させてもらう」
大地はすぐにトリガーを引く。このモンスターに動かれる前に動きを封じて一気に仕留める。
アサルトライフルの銃口から火が噴出し続ける。この現象はマズルフラッシュと言って弾丸を発射したときの火薬が銃口付近で燃えるために発生するものだ。魔法の弾丸だけど起きる理由は明白、カッコイイからだ。
一瞬で何発もの弾丸が発射されるとすべてイエティと思われるモンスターの膝へ命中した。当然、血しぶきを上げモンスターは悲鳴のような鳴き声をあげるが気にする必要はない。
これで動きを止められたから一気に仕留めたいところだが、このサイズのモンスターを仕留める方法はやはりロケットランチャーか。と考えるが、一つ試してみたいことを大地は思いつく。
女神は言った。創造魔法だと。それはつまりあるものを呼び出すのではなく造っているということだ。つまり自分の考え方次第で俺が思い描く兵器を呼び出せるのかもしれない。元の世界にあったかなんてわからない――否、なくても作り出せるはずだ。
「これでおしまいだ」
大地が決め台詞を言うとアサルトライフルを消した。その瞬間、はるか上空。空ではなく宇宙。この世界では恐らくオーバーテクノロジーの衛星を兵器として作り出す。その衛星は太陽光をエネルギーに変換させ一瞬でMAXまでチャージを完了させると一筋の光を放出させた。
高出量のエネルギー体は光線となってイエティに降り注ぎ、一瞬で足だけを残して蒸発させる。
それを見て大和はこの武器の名前は『サテライトバスター』にしておくか。などと考えながら倒れている彼女たちへと振り向いた。