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人を心配するのに素質はいらなかった

 さて就職?もできたことだし今日の宿泊代を稼がねばならない。

 それにはどうしたものか。答えは簡単である。依頼をこなしてお金を稼ぐ。これっきゃない!


「ということでユーナさん!何かいい依頼とかないかな!?」


 勢いよく言う大地の言葉に少しだけたじろぐユーナだが、数枚の依頼書を取り出して大地に見せた。


「Gランクの依頼はこの辺でしょうか?」


 当然大地には文字が読めないのでユーナが気を聞かせて指で刺しながら説明してくれる。


「これが薬草とりになります。この花を3つほど取ってきてくだされば10ゴールドの報酬ですね」


 1枚目は花の絵が乗っている羊皮紙だ。

 ただつまらなさそうだと思う。その理由はたった一つ。女神からもらった能力を使いたいのだ。でもせっかく親切に教えてくれるユーナさんにそんなことを言えるわけがない。だからこそ別のアプローチだ。


「10ゴールドって宿で泊まれる?」


 そう寝泊まりするためにお金が必要なんだよ~というアピールを交える。まぁ宿の相場とかがあまりわからないから「泊まれますよ~」と笑顔で言われればそれまでだが、ユーナさんの言い淀んでいる姿からある程度察しが付く。


「10ゴールドじゃ……ちょっと……」


「ちなみにいくらくらい必要?」


「そうですね……安くても50は必要かと」


 この世界の宿って高級なのかそれともこの場所特融なのか。とはいえ5回も薬草とりはしたくない。


「それくらい稼げる依頼ってありますか?」


「あるにはあるんですけど……」


 さらに言葉に詰まるユーナ。2枚目の依頼書を取り下げるところから見るとそれもあまり稼ぐことはできないのだろう。だが、残った三枚目に視線を向けていた。つまりそれは50ゴールド以上の依頼だと簡単にわかる。


「ソレがそうですか?」


「はい……でも、危険なんです。今日なったばかりのハンターさんにお願いするものじゃ……」


 Gクラスの依頼でモンスターと戦うのは危険である。それがたとえ一番弱いとされている『ウォーラビット』との戦闘でさえ、パーティ……人数を組んで挑むものだからだ。


 そう考えるとこの場所をよくわかっていない行き倒れていたたった一人の新人ハンターである大地に進めるのは「この先地獄への一方通行ですよ~オタッシャデー」と言っているようなもので根が心配性にある彼女からはとてもじゃないが進めたくはない。


「危険っていうとモンスターと戦うのかな?」


 だけど、むしろ大地としてはそれが願ったりだ。楽しい楽しい魔法(物理)が試せるのだから意気込みも十分である。


「はい。これは南の森に生息するウォーラビットというモンスターの3体の討伐です」


 観念したようにユーナさんは依頼書と描かれている可愛らしいウサギの絵をさしながら答える。


「それは強いのか?」


「いえ、この辺では最弱ですが、それでも新人が一人でいきなりモンスターと戦うのは80%くらいの確立で死にます」


 ほうほう最弱とな。それなら余裕で行けるだろう。というか多分物足りないんじゃないかな?


「よし!それやりたい!」


「でも……」


 やはり止めようとするユーナに掌を見せて大地は制止する。


「大丈夫大丈夫。これ討伐した証ってどうしたらいい?首でも持ってくればいいのか?」


 その言葉に苦笑するユーナ。


「そのモンスターだとわかる部位を持ってきてくだされば大丈夫です。ウォーラビットなら耳を持ってきてくれれば大丈夫ですよ?」


 そう言ったユーナだが付け足した。


「あ、でも右耳と左耳を一つずつもってきては駄目ですよ?混ざっちゃうとわからないので1体として扱うことになります。右耳ならそれを3つといった具合にしてください」


 そこまで聞けば十分だ。であれば早速行こう。

 大地が後ろにある扉へと体ごと振り向くと、目の前には――否。目の前のやや下には少女が立っていた。

 だれ?などと思っているとその女の子が口を開いた。


「ダメですよ!新人さんにモンスター討伐を進めてはダメですよ!!」


 二回もダメだという少女。その言葉に委縮しているユーナ。


「なんだこのちんちくりは。こちとら今日の宿がかかっているんだ。それを止めようとするんじゃない」


「ち、ちんちくりん!?」


 憤慨したように見せる少女だ。だが、それを気に留めず歩みを進めようとした大地だが少女は両手をこれでもかっというくらいめいっぱいに広げて行かせない意思を体全体で示す。


「ダメったらダメです!行ったら死んじゃいます!せめてほかの人と組んでから……」


 そういう少女だが、大地が回りに視線を配るとギルドにいるほかのハンターは視線を逸らす。

 冷たいように思えるが当たり前の反応だ。自分でもわかるほど自分は怪しい存在なのだ。ユーナさんが特別なだけでこれが普通である。


「ほら。みんな俺とは行きたくないってよ」


 掌を上に向けて両手を少しだけ広げて大げさに大地はふるまう。

 そして「だから通してくれ」といいながらめんどくさそうに片手でシッシッと追い払う仕草をするが、少女はの瞳に揺らぎはない。


「それじゃあ……私!私が一緒についていきます!」


 その言葉に回りがざわめいた。

 だけど、その反応も当たり前だ。30のひげを生やした怪しいおっさんに少女がついていくと言ったのだ。普通なら馬鹿を言うな!といった具合で止めるのが筋だろう。というかこれで俺が承諾したら事案ではないか?

 大地が少女の全体の姿を視界に収める。

 髪は美しい金色でさらりとしているのが見てわかる。おそらく1本1本が細いのだろう。更に大地好みのロングヘア―で少しテンションを上げかけた。んで、衣服は神官?のようなものすっぽり被っているが、下にも何枚か着ているんだろうか。背が低いくせに出るところがわかるくらいにある胸は元の世界だったらアイドル余裕です。みたいな感じではなかろうか。瞳はうっすら青いのも綺麗でよい。

 ――だからこそ、連れて歩けば即通報待ったなしである。

 やだよ俺?「よし一緒にいこうか!」「御用だ御用だー」「あーれー」で打ち首とか。簡便願いたいものだ。


「だめ」


「え!?なんでですか!!」


 断ったことで更に観客のざわめきが強くなった気がする。いや、なんでだよ!

 あれか?こんな美少女の誘いを断るなんて正気の沙汰じゃねぇな?みたいな話?でもそれで承諾したら「ゴヨウダー」になるわけだろ?

 ああ……進むも地獄なら逃げるも地獄ってことか。

 針のむしろにいる感覚を味わいながら大地は頭を痛める。正直、目の前の少女を押しのけて無理やり行くことはできる。この世界に来た時にある程度感じてたんだが、多分女神サポートで肉体が強化されているのかも。魔法(物理)の使い方だってわかるし体の中にある魔力も感じてるから。ただそうやって無理やりやらないのは――。


「でもでも!本当にお一人で行ったら危険なんですよ!!」


 こうやって必死に、そして心から心配してくれているのがわかるからなんだ。

 ここで俺が女神の名前を出せば――やべぇ、女神の名前わっかんねぇわ。

 俺が女神の名前を出す→みんな驚く→俺が能力を使う→みんなさらに驚く→ユーナさんが素敵だいて!という→みんなうらやむ→そして俺はモンスター討伐に。ができないのだ。

 どうしてこうなったんだ。あるぇー?


 大地がちらりと少女の瞳を除くとその瞳がうるんでいるのがわかる。

 やべぇ。このままじゃ泣くかもしれん。

 このままでは「少女さんを泣かしたな!」「傭兵さんこっちです!」「ゴヨウダー」となるな。間違いない。

 大地は一度深く息を吸うとゆっくり吐き出す。その深呼吸によって心を落ち着けると大地は目線を合わせるために屈んだ。


「あー。わかった。じゃあこうしよう。俺は君を連れていくことはできないけれど、俺も危ないなって思ったり、怖かったりしたらすぐ逃げるから……それで簡便してくれないか?」


 少女は少し考えるように「うー」と唸るが、それでも納得してくれたのか頷いた。


「わかりました……。でも、本当に危なくなったら逃げてくださいね!」


 もちろん大地は彼女の心配毎を受け取ったことを証明するようにうなずくと、少女はようやく道を開けてくれた。

 しかし、ついさっきも同じように心配してくれたユーナさんといい、この世界の人は優しさでできているんだろうか?

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