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転生したら転職しないとね?

 王都ホワイトキングダム。

 他国からの侵略をものともしない強力な兵を持ちながら略奪や侵略といったことを一切しない国。

 この国ができてからそろそろ1000年は経つであろうが依然と無敗を更新中である。

 この国のモットーは平和であることだ。穏やかな暮らしがあり、いつもと変わらない日常を送ること。


 それゆえにただ平和な国としか認識していない国から狙われることもしばしば。そのせいか、見た目の平和とは程遠いほど戦争をこなしている。月に2~3回ぐらいが平均回数だ。だが、先に既述したように無敗である。仕掛けられた戦争をすべて撃退しつつ、出来る限り捕虜を捕まえて……拷問や処刑などはせず、城下町でその国のお迎えが来るまで暮らしてもらっている。


 普通そんなことをすればスパイ活動されたりするのだが、なぜかこの国ではされていないという七不思議のひとつだ。

 そして捕虜も捕虜で最初はビビっているのだが、城下町の職場に案内されると働き甲斐のある店で、賄はおいしく、生きがいを感じてしまい腑抜けになるという。

 たまに捕虜たちが集まって話をする場面も見受けられるが会話としてはこんなものである。


「おばちゃーん。エールをえ~っと5つ!あとお茶を3つお願い!」


「にしても、この国で捕まってよかったわ。毎日楽しいしな」


「そうだよな。危険もないし。みんな優しいし」


「お前んところの農業どうよ?」


「ああ、もうすぐ収穫できるし、いくつか分けてもらえるから一緒に食おうぜ!」


 ――まさに洗脳である。


 ところが、この国の平和な日常を壊すイベントが起きてしまった。

 場所は城下町。いろんな人が活気づいて和気あいあいと言葉を交わしたり日々を過ごしている。

 その城下町のある建物の前に一人の男性がうつぶせで倒れているのだ。そう。大地である。


 大地が大地に寝転んで大地の息吹を感じているのである。――いや、気を失っているから伊吹は感じていないかもしれない。


 とにもかくにも、そんな異物が倒れていれば当然人だかりができてしまう。それも倒れている近くにある建物はギルドといって、城下町で起きた困りごと等を依頼という形で請け負う場所だ。そしてその依頼をこなすのがギルドに登録した者達――ハンターであり、その彼らが出入りするものだから確実に目立ってしまう。だが、行き倒れに対してどう扱えばいいのかわからない。うつ伏せだから顔は見れないが青いズボンに袖が肩からちょっと出たところで切れている服。ぼさぼさの髪の毛。武器も何も持ってなさそうなところから物取りに襲われたとしか思えないのだ。そしてその場合はたいてい死んでいる。


「すみません。通してください」


 大地から一定の距離を保ちつつある人だかりをわって入ってきた女性が一人。

 年は20代前半くらいだろう。服装は何かの制服と思えるようにキッチリと来ており恐らくポーズをとれば凛とした姿を見せるのではないだろうか。ショートヘアで茶色の髪。顔立ちも美しい。

 そんな彼女が大地の首に指を当てた――。


「ひゃぁっ!」


「きゃぁっ!」


 大地はその指の冷たさに首がひやりとして驚き、女性はその大地の叫び声に驚いて尻もちをつく。


 なんだ?何が起きた!?っていうか……


「ここはどこだ!」


 起き上がった大地が最初に目をしたのは尻もちをついている女性だ。

 (彼女のミニスカートの中が覗けそうだがカメラワークが大地の頭の真後ろのせいで覗くのは無理でした)

 その女性も起き上がりながらキッとにらむように大地を見る。


「ちょっと!こんなところで寝てたら邪魔じゃないですか!」


 そう言われてもこちらとしてはどの辺に飛ばされるとか全くわからないのだから理不尽に感じる。だが、どのみち邪魔をしていたのは確かで自分は理解ある大人(であると思いたい)ので、大地はその綺麗な女性に頭を下げた。


「申し訳ありません。自分もなんでここで倒れてたのかわからないもので」


 『倒れていた』というのがキーワードになったのか女性の表情が一変した。


「え?酔っぱらってそこで寝てたとかじゃなくて?」


「はい。実はこの国に来たばかりなのですが、意識を失って気づいたらここに……」


 嘘は言っていない。『この国には今来たばかり』で『意識も失って』いて『気づいたらここ』なのだ。もっとも多少順序が逆になるだろうが、言わなければ本当のことなのだ。


「それは……大変ですね」


 完全に先ほどの勢いがそがれた彼女は「こちらに来ていただけますか?」と建物に案内してくれる。

 彼女の優しさに付け入る形だが、この際、割り切ろう。

 通された場所でカウンターの椅子に座るように言われた大地は腰を下ろした。


「どこかお怪我はありますか?」


「いえ、特にはないと思います」


 そう言うと少しほっとした様子を見せる彼女。ここまで優しさを見せてくれたというのに自分は最初に言うべき言葉を忘れていたことを恥じる。


「あ、名前はダイチといいます」


「ダイチさんですね。私はユーナと申します」


 ユーナさんというのか。なかなか気立てもよさそうだが、今のいる位置から考えるとここの受付嬢でもしているのだろう。とういか……ここはどこだ?


「あの、ここってどこですか?」


 建物の中をきょろきょろと見る仕草で『自分がどこにいるのかわからないよ』アピールをしたこともあって、ユーナさんは察してくれた。


「あ、ここはギルドですよ」


 ギルド?というと、これまたよくよく聞くことがある単語のひとつだな。異世界転生ものテストでもあれば必ず『ギルドというのは何ですか?』といった問題が出てくる程あるものだろう。そんなテストがあるかはわからないが。


「というと、ここで登録するとハンターとしてお仕事できるんですか?」


 その予想があたったのかユーナさんは笑顔で「はい!」と言ってくれる。その笑顔もとってもかわいらしい。美人よりだと思ったがこういうのもグッとくるよね。


「よし!俺も登録したいんですけど……できますか?」


 大地はそう言って見せたが、実は登録するのに住民票が必要なんですよ~?とか、一見さんはお断りなんですよ~?とか、お知り合いの紹介じゃないと入れないんですよ~とか。職に厳しい現実を言われるんじゃないかと大地はドキドキする。だが、そんな理不尽なことはなかった。


「はい。ではこちらの書類をお書きいただけますか?」


 そういって出された紙はいわゆる羊皮紙だ。


 Q:だが、見落としていた問題があった。それはな~んだ?

 A:答えは文字がまったくわかりませーん!


 言葉はわかるのに文字が読めないのはなぜ?女神が手でも抜いたんだろうか?

 そう考えた瞬間、頭の中で「手なんて抜いてませんわ!」と女神が抗議するような言葉を言っているのを思い浮かべて苦笑した。

 とはいえ、何もわからないんじゃ書きようがない。というかわかっても文字が書けない。つまり、住民票も一見さんも紹介も問題ではなく文字というのが最大の壁だったのだ。


「あの!」


「はい?なに変わらないところでもありました?」


 屈託のない笑顔で言うユーナさんに俺が現実を突きつけてやることにした。(やけくそ)


「文字が……読めなくて書けないんです」


 ここで分かったのが大地は時間の使い手だったことだ。今の一言でギルド内での喧噪すらもぴたりと止めて見せた。まるで時間停止をして自分だけが動けるような世界だ。

 もともと目立っていた大地だがギルドの中に入ってもそれは変わらずみんなが大地を注目していた。その折にこの言葉は衝撃的だったのだ。


「えっと~。どのあたりがわかりませんか?」


 ユーナさんはそれでも難解な言葉があったかなと紙を見回すが書いてある言葉に難しいものはない。書いてある言葉はいたって簡単なものだ。

 ギルドに登録すると依頼ができるよ。最初のランクはGからだけど頑張ればランク上がるよ。ランクはSまであるけどそれは難しいよ。依頼に失敗したらランクが下がるときもあるよ。それでも良ければここに名前を書いてね。あと年齢も教えてね。

 ――である。


 しかし、それすらもわからない大地は沈んだ声で言うしかない。


「が……学がないので全部です」


 仕方ないんだ。ここに来たばかりで文字なんて今知ったもん。


「え、え~っとぉ」


 そういってユーナさんは必死に言葉を探して選ぶ。多分この人はすごく遠い地方から来たのだから文字を知らないのかもしれないと。だからできる限り傷つけないように慎重に選ぶ。


「ご自分の名前も書けないですか?」


 選びきれたかきれないか。微妙なラインの質問でも大地は頷く。

 その仕草にユーナは仕方がないか。と諦めるような形で大地の顔を見て「特別ですよ?」とウィンクしたあと、内容を読み上げてくれた。ここにも女神がいたらしい。


「あ、年齢は30です」


 その後、名前も書いてもらったのもいいが、年齢を伝えた瞬間ユーナさんが驚いた。


「30!?」


「えっと、はい」


「う~ん」


 年齢の話になった途端、ユーナさんの表情が曇る。その理由を彼女はすぐに明かしてくれる。


「えっとね。ハンターになる人って大体若い時からなの。平均で13歳くらいからかな。そうやって若い時に経験と体を作っていくのが基本なんだけど……」


 ちらりとユーナは大地の顔を見る。

 無精ひげを生やし、髪の毛はぼさぼさ。ひょろひょろしてそうというわけではないが筋肉もそこまでありそうではない。


「ダメ……ですか?」


 ハンターになってみたかなったなぁという思いを込めながら聞いてみる。


「あまりお勧めはしたくないのですが……いえね、30過ぎでもハンターになる人はいるのですが、大体そういう人ってお城に努めてたとかモンスターとの戦闘経験がある人なんですよ。ダイチさんは戦闘経験ありますか?」


 当然来たばかりの自分にそんなものはない。嘘をつくのは簡単だが、ここまで優しくしてくれるユーナさんをだますのはしのびないので誠実に答える。


「ありません」


 まさに面接官に対して「〇〇したことありますか?」「ありません」の流れである。こうなるとお祈りコースからのニートコースだろう。だからこそ熱意だけは伝えたい。


「でも、やる気だけは十分にあります!」


 それでも雲行きが怪しいのはしょうがない。


「わかりました。記入しますね。でも、無理はなさらないでください。ハンターになって一日で……その、亡くなってしまう方もいらっしゃいますので」


 そういって羊皮紙にペンを走らせたユーナさんが最後にギルドの証となるカードを渡してくれる。

 そのカードには何か文字が書いてあるのだがやはり大地には読むことができない。


 だが、これが自分をハンターだと証明する為の物であるのは間違いないだろう。それなら大事になければならない。


「ありがとうございます」


 大地はユーナさんにしっかりとお礼を言って頭を下げる。ここまでよくしてくれる人としょっぱなから出会えたのは運が良いのだろう。


 そして、時間がかかったような気がしなくもないが1日にして職にありつけたのはとても良いことだ。

 さあ、後の問題はお金かな?今日の宿泊費だけでも稼がねば……。

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