星の子供達
ゴォーゴォーと耳障りな音が僕の睡眠を妨げる。
季節外れの台風か、いくらなんでもうるさすぎだ。
仕方なく目を開ける、目覚めたところで何が変わるわけでもないが音楽でもかければ少しは気分も変わるだろう。
「えっ……?」
(落ちている? 地上に向かって? どうして? 死ぬの
この高さから落ちたら死ぬ、確実に…… どうしたらいいんだ、いやどうすることもできない。
死ぬまでこの恐怖にさらされ続けるしか…… なんという…… 圧倒的!! 無力っ!!
「現実ば見らんでっ!! こっちば見て、上っ!! 空っ!! 私ば見ろっ!!」
地上に引き寄せられる力に必死に抗い声のした頭上に体ごと視線を向ける。
そこには僕と同じように地上に吸い寄せられる少女が一人、いったいこの状況は何なんだ?
「夢をみるのを止めんで、現実から目ば背けて!! キミの夢を叫べ、何でもいいから夢を叫べー!!」
ゆめ? ユメ? 僕の夢? なんだ? そんなのない、何もない…… 何でもいいのか? 本当に? じゃあ……
「寝ていたい!! ずっと、朝起きたくない、学校に行きたくない、ずっと寝ていたい!!」
恥ずかしいほどに恥ずかしい夢を見ず知らずの少女に叫ぶ。
怠惰の極みのような、そんなバカバカしい夢を語ると耳障りな風の音が止んだ。
体は突然浮遊感に包まれ、落下の速度はあきらかに遅くなっている、そして少女は満足そうに笑った……
「ひっどい夢やね、でもわかる、私も寝ときたかもん」
ニヒヒと笑いながら少女は僕の手をとる、その手から伝わる体温がこれは夢じゃないと物語っているようだ。
夢なら覚めないでほしい、現実ならこの高揚感がいつまでも続いてほしい、僕は今、かわいい女の子と手を繋いで空を飛んでいるんだから……
「いい重力やね、私の仕事が終わるまでそのままキープしとってよ!!」
言いながら少女は僕を空高く放り投げた、先程まで地上に落下していた僕の体は今度は空に向かって落ちていく。
上下が入れ替わり見上げていた少女を見下ろす立場になったが、視点が変わったことで見えていなかったモノが視界に入ってきた。
(ドラゴン……?)
青い鱗、巨大な翼、爬虫類のような瞳……
(なんだあれ? ドラゴンだよな? もしかしてあれと戦うつもりなのか?)
少女は右手に黒いナイフを持っている、ナイフだ、どう見ても。
視線はすでに僕から外され、青い竜を見据えている。
少女だ、どう見ても、ナイフだ、どう見ても、戦うつもりだ、どう見ても、勝てるはずがない、どう考えても……
「逃げろっ!!」
叫んだ、他に出来ることが思い付かなかったから、とにかく叫ぶしかなかった。
そんな僕に少女は先程と同じ笑顔を向けて……
「ニヒヒ、まかせて、ここで逃げたらキミの夢が終わるけんね、勝つばい!!」
そんなとんでもないことを言い放った。
「我らが偉大なる聖母ルクローチェに、この身、この魂を捧げます……」
少女がナイフを構えて何かを呟く、よく聞き取れなかったがそれは何かの引き金だったのだろう、その証拠に……
「行こうティモリア、希望ば取り戻す!!」
少女の姿が変わっていく、黒いナイフは赤い雷をまとい一振りの剣となり、着ていた学生服の様なものは真っ赤なドレスに、薄茶色の髪も赤みを増して、少女は夜を照らす小さな太陽になった。
バリバリと空気を引き裂くような音をたてながら少女は夜空を駆け出す、その軌道はグニャグニャと変則的で、赤い残光がまるで雷のようだ。
青い竜は口から炎を吐き出し少女を威嚇しているが、その速度は陰るどころかさらに速くなっている。
赤い雷と青い竜の距離がだんだんと近付いていき、ついに少女はその射程に竜を捉えた。
「エフィアルティス・リスィ!!」
少女の声に呼応するように強力な光が放たれる。
雷は一条の流星となって巨大なドラゴンを貫いた……
目覚めると自分の部屋にいた。夢だった。つまりそういうことだ。
でも鮮明に思い出せる、昨晩僕が体感した夢を。
こんなことは初めてだ、とても夢とは思えない現実感と、夢としか思えない現実離れした出来事。
もしもあの少女にもう一度会えたら、その時は勇気を出して名前くらいは聞こう。
夢の中なら拒否されても傷付かないだろうしな!!
本作を読んでいただきありがとうございます。
京マーリンです。
方言女子と変身ヒーローと無重力を書きたいということで一話だけ書いてみました。
メインキャラが方言バリバリはちょっとあれですね、伝わっているか不安になりますね……
それ以外でも色々と試してみた作品ですので、読みづらかった、解りづらかった等ありましたらコメントいただけますと今後の課題になりありがたいです!!
ではまた別の作品で、あなたにお会いできることを楽しみにしております。 みやこ