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恋のスタートライン

作者: 山菜歩

あたしは今まで恋をした事がない。


仲のいい男子がいても、せいぜい友達止まり。

そんな男友達のひとりに、格別に仲のいいヤツがいる。


名前は香介。

高校で同じクラスになって、意気統合した男友達のひとり。

本人曰く「女々しいんだか男らしいんだかビミョーな名前」って言ってる。

何か話し掛けやすくて、いきなり名前で呼び捨てにしちゃってたけど、本人は気にしていないみたいだから、そう呼ばせてもらっている。




―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


香介は、走る事が好き。

実際に陸上部に所属している。

あたし、実際に香介の練習風景を見たけど・・・。


ゴールの遥か先を見て、全力疾走する。

チーターも顔負けなんじゃないかってくらい、速くて力強い。

そんな感じがした。

それは性格にも影響していた。


ずっと先を見ていて、そこに向かって突っ走っていく。

自分の限界以上にがんばっちゃう。

成功したときはまだいいんだけど・・・失敗したら、思いっきりへこんじゃう。

ホント、不器用なやつ。

ちょっとは加減しろっつーの。


そこまではまだいいの。

何であたしがへこんだ香介のフォローに回らなきゃいけないわけ?

野郎同士でじっくり話せばいいのに・・・。


でも、まんざらじゃないのよね。

香介があたしを頼ってくれるのが、素直に嬉しい。

それだけ信頼してくれてるんだろうし・・・。

ありきたりな言葉しか返せないけど、あいつはそれで納得してくれてるみたい。

時々ケンカすることもあるけど、一晩経てばまたいつも通りに「おはよう」って仲直り。

そんな関係。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


夏休みのある日。

香介は、陸上の県大会で優勝した。

数秒単位で二番手を引き離した、ぶっちぎりの大勝利だった。

その時の香介の喜びようったら、もう半端じゃなかった。

飛び跳ね、喜びの雄叫び・・・。

あたし達が止めないと、大変なことになっていたくらいに、香介は喜んでいた。


その夜。

香介から電話がかかってきた。

「また喜びの記者会見かな?」と思っていたら。

「明日さ、ちっと付きあってくんね?」

一緒に遊ばないか?との事だった。

あたしは軽くOKを出し、その日の電話は終わった。


翌日。

あたしは仰天することになる。


日曜日の午後。

待ち合わせ場所にいたのは、香介だけだったのだ。

「・・・みんなは?」

あたしは呆然としながら、香介に聞いた。

「は?俺、お前しか誘ってねえぞ?」

あたしは絶句した。

「ほら、つっ立ってねぇで行くぞ」

混乱しているあたしの手を引き、香介は歩き出した。

あたしは、呆けつつも後ろを付いていく。


今日の香介は、フード付きのノースリーブのプリントシャツに、モスグリーンのハーフパンツ。

足元には、黒のハイカットのスニーカー。

こんなコーディネートだった。


香介の私服姿って、初めて見るんだっけ。

(こんなに印象が変わるんだ)

制服姿とジャージ姿の香介しか知らないあたしにとって、とても新鮮だった。


何て言うか・・・こいつ、おしゃれじゃん。

今まで、何かちぐはぐな感じがしてたんだけど、制服姿だったからなんだ。

これが本当に、香介「らしい」姿なんだ・・・。

それに、今更気が付いたけど・・・


あたし、香介と手をつないでるんだ。


思わず身体が強張った。

「あ?どうした?」

香介が振り向く。

「な、何でもないよ!」

何で香介を正視できないの・・・?

顔が熱い。胸がドキドキする・・・。

あたしはうつむいたまま、香介の後を付いていった・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


黄色と赤のピエロで有名なファーストフード店でお昼ごはん。

その後、デパートへ。


興味がなさそうに見えていたけど、香介は服を見るのが好きみたいだった。

新作の服を片っ端から見ていく彼の表情はとても楽しそうだった。

しまいには、「これ似合うぞ」と、あたしの服のコーディネートまでする始末。


こうして一緒にいると、意外な一面がたくさん見えてくる。

そのひとつひとつを見ていく度に、どんどん香介に惹かれていく自分がいた。



「お前に見せたい所があるんだ」

腕時計から目を離すと、香介はまた私の手を引いた。

「ちょ、ちょっと!」

さすがに冷静になったあたしは、声を上げた。

「早くしろよ、時間のタイミングがシビアなんだ」

そうじゃなくて!手!手!

結局言い出せずに、あたしは香介に引きずられるようにして、歩いていった。


着いたのは、砂浜だった。

「到着」

そこから見えたのは。




真っ赤な夕焼け空。

夕日色に染まった海。

そして、少しずつ水平線に沈んでいく夕日。

美しい、一日の終わりの風景。

「うわぁ・・・」

「俺、お前にこの景色を見せたかったんだ」

感嘆の声を上げるあたしに、香介は自慢げに言った。

話している間に、夕日が完全に沈んだ。

幕を引くように、空がラベンダー色から夜色へと変わっていく。

「すごい・・・」

「ロードワークしてて、偶然見たんだ。地球ってホントに回転してるんだって実感したよ」

へへっと笑い、ふと真面目な顔になった。

「今日、お前を誘ったのはさ、学校以外での俺の事を知って欲しかったからさ」

「そ、そう・・・」

ぎこちなく頷くあたし。

「それと・・・」

一呼吸置いて。

「俺の気持ちも、お前に知って欲しかったんだ」

「え?」

私は目を見張る。

「俺さ、お前好きだよ」

・・・あまりにも突然すぎて、思考が停止する。

「何だかんだで、いつも俺をフォローしてくれてさ。ありがたいって思ってんだぜ?

なんつーかさ、俺、鉄砲玉みてぇなヤツだろ?」

それは確かに否定しない。

でも、言葉にできない。声が出ない。

仕方なく、私は頷いた。

「だからさ、俺の側にいてほしいっつーか・・・ブレーキ役でいてほしいっつーか・・・俺と付き合ってほしいんだ」

香介の告白に。

あたしは涙を流して頷く事しかできなかった。

「OKって受け取っていいんだな」

あたしは何度も頷く。

「サンキューな。『勇子』」

そう言うと、香介はあたしの頭を撫でたのだった・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


付きあい始めたはいいけど・・・。

あたしは初恋。

右も左もわからない。

思っている事が伝わらなくて衝突するなんて事はザラ。

でも、今日は一段とド派手なケンカをしてしまった。


それは香介とのデートの時、待ち合わせの駅を間違えていることに気づかず(似たような名前の駅だったの)、待ちぼうけを食わされた私は、香介を責めてしまったのだった。

冷静に考えれば、香介の方が正しくて、携帯を忘れた上に勘違いしていたあたしが完全に悪いんだけど・・・。

引くに引けず、今香介と断絶状態になっている。


「おねーちゃーん・・・」

「ん?どしたの?」

タバコをくわえながら、姉が振り向く。

あたしは困った事があると、大体は姉に相談する。

あたしはこれまでの顛末を全て話した。

「・・・ふーん。それはあんたが悪い」

「う・・・だよね」

私は肩をすぼめた。

「だったらさっさと香介君に謝んな」

「・・・うん」

私は姉の部屋を後にしようとしたが・・・。

「勇子」

姉が呼び止めた。私は姉の方を振り向く。

「頑張んなさい。自分の気持ちに正直にね」

あたしは黙って肯いた。


何だか楽になった気がした。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


こーすけ

件名:ごめんね

本文:

あたしが悪かった。

本当にごめんなさい。


こんな事、言い訳にしかならないけど・・・

あたし、初めてなんだ。

男の子を好きになったの。

友達の間が長かったから、分かりきってると思っていて、うまく伝わらなかったのが悔しくてつい口をついちゃって・・・。

本当にごめんなさい。


正直あたし、こーすけとどう接してたらいいか、わからなくなっちゃったよ・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


送信ボタンを押す。

やっと、メールを送れた。

裕に30分の時間が経っていた。


その日、返事は来なかった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


翌日・登校日。

何とも重たい気分で登校した。

香介とは同じクラスだ。嫌でも会わなきゃいけない。

どうしよう、気まずいよー・・・。

足取りも重くなる。


近道である路地裏に差しかかった時。

「ひゃ!」

何かにつまづき、私は転びそうになる。

何とか踏みとどまって、振り向くと・・・

「香介・・・」

香介が電柱に寄りかかっていた。

「何ぼさっとしてんだよ。寝ボケてんのか?」

一気に頭に血が上った。

「う、うっさいわね。寝ボケてなんかないわよ!大体メールの返事もよこさないで・・・」

「直接口で言いたかったんだよ」

あたしの言葉をさえぎり、香介が口を開く。

あたしは口を閉じた。

「俺だって女の子と付き合うのは初めてだぞ?」

「うそでしょ・・・」

私は驚いた。

だって香介、部活とかで、いろんな女子から声かけられてたんだよ。

「嘘じゃねえよ。お互い初めて同士なんじゃん。かえって俺、安心したよ」

そう言うと、香介はあたしを抱きしめた。

「カレカノだろうが、友達だろうが、付きあい方なんて変わんねーと俺は思うんだけどなぁ」

・・・

あたし、考えすぎてたのかな?

恋人になると、何か友達とは違う「何か」になるとか・・・。

「そっか。今まで通りでいいんだ・・・」

「そーだよ。それと、俺も悪かったよ。ごめんな」

香介の言葉と温もり。

香介は悪くないのに。


腕の中で、あたしは恥ずかしくって、嬉しくって、ちょっと胸が痛くって・・・すごく優しい気持ちになれた。

「ばか」

口ではそう言ったけど、あたしだって感謝してるんだからね。


人を好きになる事の喜び。

あたしに「優しくなれる心がある」って知れたこと。

じんわりとした、温かくて深い想い。


みんな香介が教えてくれたんだもん。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


右も左もわからないけど。

香介と一緒なら、未知の世界を歩いていけそうな気がする。

迷っても、手さぐりで進んでいけばいい。

初めてなんだから、わからなくて当然だもんね。


でも、ひとつだけ変わらない事。

香介が、何かにつまづいてへこんだ時は、絶対にあたしが守るから。


この事をはっきりと言えるようになるには、もう少しの月日を必要としたんだけど・・・。



恋のスタートラインに、あたし達は今立ったのだった。


「恋のスタートライン」。最後までお読み頂きありがとうございました。


「高校生の恋」を扱った作品作りに挑戦してみました。


私こと「山菜歩」が恋愛系の創作をするとなると、実話系が多かったりします。

あんまり、「夢のある恋物語」を書くことが出来ないんです。

そういう意味でも挑戦だったのですが・・・。

これは本当に作るのが大変でした。


いかがでしたでしょうか?


ご意見・ご感想がございましたら、是非是非お願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ストレートなお話だったと思います。一直線だなぁ。ちゃんと物語の起承転結が付いていて、ちょっとドキドキしながら読みました。まぁ、ちょっとありがちなパターンと言えなくもないでしょうけど、それでも…
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