果てない愛が星の時間を戻す
約1年前、小6のときに国語の授業で書いた作品を書き直してのせました。
この物語では時間は"とき"と読みます。(ふりがながついているところもありますが、)
「あれからもう、5年もたつんだね。」
愛果の部屋に入ってまた部屋を見回すと涙が零れてくる。さっきのは独り言だけど、何だか愛果に話しかけてるような気になってしまう。
この部屋はかつて、私の部屋だった。だが、愛果が自分の部屋を欲しがり、片付けて部屋をあげたのだった。それも随分前のことになる。部屋は愛果が使っていたときのままだが、私が愛果にあげた"果てない愛が星の時間を戻す"のCDは私が使っていたときのままの場所だった。このCDはもともと私の物だったから、相当古いCDだろう。相当、と言っても愛果が生まれた12年前の今日に発売になったCDだけど。
その12年前の今日も星が綺麗だった、今日と同じように。
そして私の意識は12年前にさかのぼる。
―12年前―
「ねぇ、"愛果"っていう漢字、どう?」
「いいんじゃないか?でも、"あいか"っていう名前だと、愛に花とかが多いんじゃないのか?なんでこの字にするんだ?」
話し合っているのはまだ20歳だった私と同じく20歳だった旦那の舞斗だ。
「今日発売の"果てない愛が星の時間を戻す"からとったの。」
普通に答えた私だったが、舞斗は笑う。
「やっぱり真理子は"starry sky"が大好きだな。」
「何笑ってんのよ。真面目に考えたのよ。別に"starry sky"が好きでもいいじゃない。」
私は文句を言う。"starry sky"は10人組の男性アイドルグループだ。まあ男性と言ってもまだ10代だけど。デビューして、まだ3ヶ月の新しいグループなんだ。そして今日発売だったのがこのCD。別にバカにしなくたっていいじゃない。
「おかしいと思って笑った訳じゃないから。ただ真理子は大好きなんだなって思っただけ~。」
ふざけてるように聞こえるが…まあもういいや。
「じゃあ愛果って名前でいい?」
これが一番の問題だったんだから。
「いいよ。かわいいと思う。」
こんなふうにグダグダながらも決まった名前(周りにはノロケにしか見えてなかったらしいが)これが愛果の名前の由来だった。
それから愛果はすくすくと育ち、あっという間に幼稚園生になった。
そして担任の先生が由来の話をしたことで愛果は自分の由来に興味を持った。そして(グダグダだったことは伝えずに)愛果の名前が決まるまでの一部始終を話した。
すると、この曲に"星"という言葉が入っていることを知ったのか、星に興味を持ち始めた。
ここはそこまでは都会ではないから屋上からでも十分と言えるほど星が綺麗に見える。
「ママ、あれオリオンざだー。きれいだね。」
愛果はたくさんの星の名前を覚え、私に教えてくれていた。とっても楽しい生活だった。だが、それからすぐ愛果が病気にかかった。小児がん。小学校にあがるのもそろそろなのに。だんだん愛果の身体は弱くなり、母親である私も見ていられないほどだった。なぜ私は気づいてあげられなかったのか。そう思っていた。
許可をもらい、屋上などで星を見ることをよくしていた愛果。だがある日、目が見えなくなってしまったのだ。これもがんになってしまったから。愛果はそれでも元気に振る舞っていた。私や舞斗が疲れていたり、不安になっているのがすべて見えていたのかもしれない。
愛果はいつもと変わらなかった。だが目が見えなくなってから、本が読めなくなり、また読みたいと言うようになった。
そして読み聞かせをするようになると愛果は笑う。それが私たちは嬉しかった。
それから数ヵ月がたったある日、星が見たいとまた言い出した。「夢を壊したくない」そう思い、先生に許可をとり、3人で屋上で見に行った。
「おほしさま、みえたよ!きれい。」
私たちは嬉しくなった。愛果が久しぶりに満面の笑みで笑ってくれたこと、愛果にも星が見えたこと、すべてが嬉しくて泣きそうになった。
そしてその夜。愛果も星になってしまったのだった。
愛果のお別れ会にはたくさんの幼稚園の頃の友達が来てくれた。1年生、そういうこともあってか状況を飲み込めてない子もいた。その子達を見て、なぜ愛果だけ、と思ってしまった。
でもその夜、家から見えたのは1つのの流れ星だった。愛果が星になったのだと思った。そして私は流れ星に"愛果にもう一度会えますように"と願った。せめて無理とは思いたくなかった。
ガシャン。物が落ちてきて我に返った。ここは愛果の部屋。落ちてきたのは「果てない愛が星の時間を戻す」のCDだった。CDの棚を見ると、そこにいたのは紛れもなく愛果だった。
「愛果?愛果。」
「ママ、ママのおかげだよ。あの曲と同じ。果てない愛をママがくれていたから、星の時間が戻ってまた会えたの。」
「どうしよう、パパ仕事行ってるんだよね。」
そう言う私に愛果は言った。
「お昼休みにパパに会ったよ」
愛果はあの頃とは違う。もうしっかりしていた。
「良かった、パパにも会えたんだね。」
「でも、もう帰らなきゃいけないんだよ」
愛果は泣きそうになりながら言う。
「じゃあ、"果てない愛が星の時間を戻す"を聞こう、最後に。」
そう言ってあの曲を流す。偶然かもしれないが、この曲は4分13秒。4月13日は愛果の誕生日だった。4月13日に発売したCDだからかもしれないけど。たくさんの偶然が重なってまた今日会えたのかもしれない。そしてこれで最後になるんだ、愛果との思い出が。
4分13秒はあっという間に過ぎた。
「ママ、ありがとう。」
「愛果こそ、ありがとう。また会いに来てくれて。」
「またこの曲を聞いたら、私がここにいると思って。きっと見えなくてもここにいるから。ありがとう、ママ。」
愛果はキラキラと光り、流れ星のように消えた。また空を見ると、流れ星が流れていた。
ありがとうございました。短編小説は初めてでしたが、読んで頂けて嬉しいです。