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決闘を申し込まれてしまいました!


 さて、ではなにから調べればよいでしょうか?

 午後の授業は唐突に「自習」と言われてしまったので、とりあえず図書館に来てみました。

 お城の王妃教育では学ばなかった事、アーク様に言われた事を考えてみたいです。


「…………お腹が空きましたね」


 ぐう。

 いけません、さっき食べたばかりですよ、わたくしのお腹。

 本当に最近よくお腹が減りますねぇ。

 ああ、ミリアム様のケーキが食べたいです。

 朝食べたのはチーズケーキでしたから、夜はチョコレートケーキかシナモンケーキがいいですね。

 今のうちにお願いしておきましょうか。


「ケーキ……ケーキ……」


 ケーキには紅茶がいいですね。

 あと、クッキーも一緒に食べたいです。

 あ、ケーキの台座にクッキーを使って頂く事は可能でしょうか!?

 クッキーも食べられて大変お得なのでは!


「チョコチップクッキー……バタークッキー、ナッツクッキー……ソフトクッキー……」


 ああ、けれど……クッキーといえばクッキー生地のシュークリームも食べたくなってきました。

 さくっとした生地のシュークリームに、生クリームと……。


「ロンディウヘッド令嬢!」

「ほあい?」


 あ、いけません。つい間抜けな声で聞き返してしまいました。

 ……と、あら? 今朝声をかけてくださった女生徒の皆さんではないですか。

 またお声がけくださるなんて嬉しいです……。

 もしや、わたくしとお友達になってくださるつもりが……!


「ミリアム様に近づくの、やめて頂けないかしら!」

「…………」


 んん?

 ……んんんんんん?

 これは、もしや朝の続きですか?


「朝おっしゃっていた事は、まあ、納得しました」


 それはなによりです?


「ですが、それとこれとは話が別です。ミリアム様もまた王子殿下……この国の国王候補! あなたが側にいては、ミリアム様の妻となる女性がいつまでも決まりません」

「はあ……」

「お分かり頂けないのですか?」

「お分かり、というか……」


 ミリアム様はわたくしの事をきっと妹のように思っていると思うので。

 と、加えていたはずなのですが。朝に。

 記憶に残っておられない?


「っ! ならば決闘を申し込みますわ!」

「え、ええ?」

「当然でしょう!? あなたのせいでわたくしがミリアム様への婚約申し込みを幾度も断られているのですから!」

「ま、まあ、そうでしたの?」


 違うと思うんですけど……。

 というのはさすがに飲み込んだ。


「キィー! なんですのその人を小馬鹿にした態度! やっぱり許せませんわ! 決闘ですわ! 決闘! ここで必ず黒白つけてやりますわ!」

「決闘と言われましても……」


 えーと確か……ジーン様とエリザ様に教わった事の中に『決闘』についてもあったはずですね。

 この国に限らず、どこの国にもあるこの『決闘』制度。

 戦争で神獣や精霊獣を怒らせてしまった事で、大陸で凄まじい流行病や大飢饉、魔獣の大量発生が起きた事から生まれた『穏便かつ公平かつ最小限で争いを収める技法』。

 国ごとにその方法や方式は異なり、他国同士が行う場合は両国の方式を採用、またはどちらかの方式を採用するかを話し合う。

 どちらかの方式を採用する場合は、申し込まれた側の決闘方式にする。

 この国……『ヴィヴィズ王国』の決闘方式は——『申し込まれた側が指定』出来る……!


「!」


 こ、これは……つまりわたくしが決闘内容を決めて良いという事!

 いけない!

 口からよだれが垂れてしまいましたわ!

 さすがにはしたない!


「さあ、決闘を受けるか受けないか! 今この場でお返事頂きましょうか!」

「…………、……わたくしが勝てば……?」

「二度とミリアム様には求婚致しませんし、あなたにも近づかない事を誓いますわ」

「……いえ、わたくしのお友達になってくださいませ」

「はっ!?」


 四人の令嬢は驚愕する。

 けれど、わたくしの第一目標は『お友達を作る』事なのです!


「しょ、正気ですの?」

「もちろんですわ。お嫌でしたら、決闘のお話は取り下げてくださいまして?」

「い……いいえ! 上等ですわ! やってやりますわ、その条件で! さあ、わたくしからの決闘を、お受けになるの!? ならないの!?」

「もちろん——……」


 そういう事ならばお受け致しましょう。


「……で、決闘する事になったんですか? 入学初日で? むしろ入学式から数時間で?」

「言われてみればそうですわね……?」

「なんの話だ?」


 三時のおやつの時間です。

 アーク様にご報告していると、ケーキをたくさん載せたトレイを持ってミリアム様も同じテーブルにいらっしゃいます。

 おやつはみんなで食べた方がいいですものね!


「聞いてミリアム。クリスティアが早くも『決闘』を申し込まれたって」

「早くないか? まだ入学したばかりだぞ?」


 ミリアム様、わたくしが決闘を申し込まれる事自体には驚いてませんのね?

 アーク様も……お二人とも想定内だったのでしょうか?


「フルーツケーキ美味しいです……」

「ブリニーズと我が国は比較的血の気が多いですからね」

「魔獣が出るから仕方ないさ。とは言え早かったなぁ」

「ね」

「それで、クリスティアはどんな決闘方法を提示したんだ? 申し込まれたなら内容はクリスティアが決めたのだろう?」


 もぐ、とミリアム様は素手でカットされたフルーツケーキにかぶりつきました。

 男らしいですね!

 わたくしもやってみたい……でも、さすがにわたくしにはカットでもちょっと大きいんですよね……無理かなぁ……。


「決闘内容は大食い勝負ですわ」

((やっぱりなぁ……))


 殿方はお口が大きくて羨ましいですわ。ぱくり。

 もっとわたくしもたくさん食べられるようになりたいです。ぱくり。

 あ、このマフィン美味しい……。


「食べるものはお菓子に致しました!」

「そうなんですか」

「そうなのか。たくさんいろんな種類が食べられていいな」

「はい! 楽しみです!」

((決闘が楽しみかぁ……))


 お二人とも笑顔でお茶を飲んだりケーキを食べたり……やっぱりおやつの時間は楽しまなくてはいけませんよね。

 あ、このマドレーヌ美味しい……。


「そういえば、この決闘に負けたらわたくしミリアム様とお話出来なくなりますわね」

「ぶうっ!」

「ミリアム、大丈夫ですか?」


 はい、とアーク様がミリアム様にハンカチを手渡します。

 お優しいですわね。


「なっ! そ、そんな、条件だったのか!?」

「はい」

「は、はいって……! い、いや、クリスティアが負けるとは思っていないけど……ぐっ」

「もちろん負けるつもりはありませんわ」

「!」


 ぱあ、と笑顔を輝かせるミリアム様。

 ええ、もちろん負けません。


「だってミリアム様の作るお菓子が食べられなくなるのは嫌ですから!」

「クリスティア……!」

(そこを喜んじゃう君も君なんだよなぁ……)


 なのでわたくしは負けません。

 明日も明後日も、ずっとミリアム様の作ったお菓子が食べたい!


「……」


 あ……。


「クリスティア?」

「……! あ、な、なんでもありません。このタルトも美味しいです」

「そうだな。こっちのシフォンケーキも美味しいぞ」

「いただきます!」


 ……気づいてしまいました。

 わたくし、自分の中にはなにもない、虚無だ、と思っていました。

 でも、一つだけ、たった一つだけわたくしの中にはとある執着があった。

『ミリアム様の作るお菓子を食べたい』という執着が。

 わたくし……わたくしの中にはなんにもないと思っていた。

 でもちゃんとあった……ミリアム様の作るお菓子をずっと食べていたいという、食欲が!

 すごい、わたくしにこんな気持ちが芽生えて存在していただなんて。

 前世は病気でほとんどなにも食べられませんでした。

 今世も、お城に住むようになるまでわたくしの体は食べ物をまともに受けつけなくなっていて……ああ、それなのに……。


「でも、やっぱりミリアム様の作ったお菓子の方がわたくしは好きです」

「そ、そうか。じゃあ明日のケーキは大きめにしてやろう。なにか食べたいケーキはあるか?」

「カスタードクリームのシュークリームケーキ……クロカンブッシュが食べたいです」

((朝からだいぶ重いな!))

「あ、やはり朝からカスタードクリームのクロカンブッシュは作るのが大変でしょうか?」

「いいや! 大丈夫だ! 任せろ!」

「きゃー! 楽しみにしております〜!」


 嬉しい! 幸せです!

 明日は朝からミリアム様のカスタードクリームのクロカンブッシュが食べられるんですね!

 嬉しい! 嬉しいですわ!


「ところで、決闘はいつになるの?」

「準備はあちら様がしてくださるそうなので、わたくしはいつになるかよく分かりません」

「え? 相手に準備を任せたのか? 大丈夫なのか? 毒でも盛られたりしたら……」

「ミリアム、それは大丈夫だと思いますよ。正式な決闘でそんな事をすれば信用問題ですからね」

「そ、そうか……。でもな……」

「心配なのは分かりますよ」


 まあ、このマドレーヌ、ママレードをのせて食べると絶品ですわ!

 オレンジペコーによく合います! とても美味しい!

 ジャムが美味しいのでしょうか。

 細かな粒はオレンジの皮?

 酸味の他に苦味も混ざって、甘いマドレーヌの味が引き締まりますわね! 美味!


「“変な横槍”が入らないよう僕も見ていますから、心配しないで」

「……ああ、お前がそう言うなら」

「ん〜〜〜! こちらのレモン味も素晴らしいですわ〜!」


 幸せです!



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