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決戦です!


「お腹が空きました……限界です……」

((目が据わってる……))


 お姉様が決闘を受けてくださる事となり、四時間後。

 わたくし、もうお腹が限界です。

 極限に空きましたわ、お腹が。

 タイムスケジュール的にそろそろなのですが……そろそろなのですがぁ!


「お嬢様、そろそろ余興のご準備を——」

「すぐ参りますわ!」

((輝いてる……))

「は、はい……」


 ルイナが呼びにきてくれたという事は!

 ついに始まりますのね!

 とってもとっても楽しみですわー!

 ルンルンスキップしながら行きますわよ、いざ、ステージへ!


「なんだ?」

「まあ、珍しい……」

「余興か? しかしこれは……」


 ガラガラと会場の真ん中に運ばれてきたのは、木製の文字通りステージです。

 その上には対面するよう置かれた長くて大きなテーブル。

 お客様たちは「なにが始まるんだ?」と興味深そうに周りを取り囲みます。

 普通のパーティーなら音楽隊と合わせてダンスでも行われるのでしょうが……主に社交ダンスですよね……ヴィヴィズ王国は一味違いますわよ! 主にわたくしのせいで!


「皆様、パーティーはお楽しみ頂けておりますか? ここで次期王子妃様より陛下のお誕生日祝いと、皆様に楽しんで頂きたいと余興を挟ませて頂きます。クリスティア様です! どうぞ!」


 司会から紹介頂きましたので、登壇します。

 そして方々に頭を下げて、ルールの説明ですわ。


「初めまして、わたくしミリアム殿下とアーク殿下の婚約者でクリスティアと申します。本日皆様にはわたくしの特技と、これから我が国で特産物となる『アイス』と『氷』をご覧に入れたいと思いますわ」

「あいす? こおり?」

「なんだろう? 氷は聞いた事があるが……」

「特産物? まさか人工的に氷を作れるようになったのか? そんな事が?」


 ざわ、ざわ、と……皆様大変興味を持って頂けている様子でありがたい限りですわ。

 わたくしが手を挙げて合図すると、使用人の皆様が大きな器に入った『パフェ』をテーブルへと並べていく。

 にっこり笑う。

 だって彼らと共に、わたくしのいる場所とは正反対の場所にお父様、お母様、お兄様、お姉様、お義兄様がお座りになった。

 まあ、勢揃い。嬉しいですわ、ぜひ堪能して頂きたかったんです!

 ミリアムのレシピで作ったこのパフェを!


「本日は皆様にも『アイス』を使った『パフェ』を試食して頂きたいと思います。ですが、その前に余興と致しまして『決闘』を模した『大食い勝負』を楽しんで頂こうと、ご用意させて頂きました!」

「決闘?」

「大食い勝負だって?」

「え? まさか次期王子妃の方が?」

「目の前に座っている者たちとか?」

「男も混じっているじゃないか……」


 にこー! っと笑います。

 ふふふ、ですよね、そう思いますよね!

 でもわたくし負けませんので!


「ルールは至ってシンプル! たくさん食べた方が勝ちです! ですがわたくし今とてもとてもお腹が空いておりますので、お相手として五名の方にご協力頂く事に致しましたの! 相手にとって不足なしでございますわ!」

「それでは始めて頂きましょう! よーい!」


 お父様たち、お顔が強張っておりますわ。

 これから美味しいものを食べるのですから、もっと嬉しそうになさればよろしいのに。

 ですが、この『パフェ』は強敵です。わたくしも気合を入れなければいけません。

 でなければわたくしとて飲み込まれかねませんわ。


「始め!」


 パフェは五種類。バニラ、チョコレート、バニラ&チョコ、フルーツ、プリン。

 しかしそのすべてにアイスが使われております。

 わたくしは大きなスプーンで一口ですけど、お父様たちは初めて食べるアイスの冷たさに驚いている様子でした。

 ふふふ、そうでしょうそうでしょう。


「冷たい……でも美味しいわ」

「口の中で溶けて消えたぞ……どうなっているんだ?」

「色ごとに味も違うみたいですわ」

「こんなにすぐ食べられるものなら『大食い』に向いていないのではないか?」


 等々、お父様たちったらパフェを舐めすぎですわ。

 まあ、油断しておられる間にわたくし二つほどペリロといかせて頂きましたけれどもー。


「いただきまーす! ぱく! うーん、甘くて美味しいですわ〜!」


 パフェには戦い方があります。

 アイスを先に食べて、冷たくない部分を掻き込むのです。

 アイスは体温を奪いますから、頭がキーンとならない程度に手早く先に片付け、そのあと上から紅茶などで胃を温め直しつつスポンジケーキなどを食べて胃を保温。

 常温のもので蓋をして……を繰り返すのですわ。

 とはいえ、それでも冷えますから途中で熱いものを摂取しなければなりません。

 ですが、それはまたあとの話。


「冷たい……」

「結構腹一杯になるな……」

「ようやく一つですわ」


 わたくしは五人分食べなければならないのでスピードも必要です。

 パクパクパクーっと、とりあえず三つ……美味ですわ……!

 バニラ、チョコ、フルーツ……どれも美味しかったです。

 次はプリン!

 大きなプリンがぷるんぷるんしながら一番上に載っています。

 その下にバニラアイス。

 キャラメルが挟まり、コーンやアイス、キャラメル……と段になっております。

 ああ……なんというほろ苦い罪の味……美味ですわ……!


「はあ……はあ……」

「二つ目は……もう……」

「おい、まだ二個半だぞ」

「五人もいるんですから、殿方はせめて三つくらいは頑張ってくださいな、旦那様!」

「くっ、お前ももっと食え!」

「おい、お前まだ一つも食べ終わっていないじゃないか!」

「仕方ないでしょう、わたくしたちはコルセットをしておりますのよ! そんなに食べられませんわ!」


 皆さんは合計で六個ほど、ですか。

 わたくしもこれで……パクパクパクー……っと、六個ですわ!


「は、早すぎる……食べるの早すぎだろ……! なんだあの少女」

「ヴィヴィズ王家の次期王子妃は……なんというかすごいな……」

「なんて美味しそうに食べるのかしら……わたくしも早く食べてみたいわ……」


 お客様の声も上々ですわね……ではそろそろ圧をかけるとしましょうか。


「すみませーん、物足りませんので例のものを〜」

「かしこまりましたわ!」


 フィリーとジェーン様が出番を待ってましたとばかりに現れる。

 そうしてお二人が持って来たのはスープ鍋。

 中身はぐつぐつでのカレーですわ。

 南国のアーカ王国で主食として食べられるスープで、まあ、前世にもあったそのまんまカレーなんですけども……これを焼いたハンバーグにかけて……と。


「なっ!?」

「ま、まさか……」

「うーん、美味しいですわ〜」


 カレーハンバーグを食べながらパフェを食べます!

 甘いものと冷たいものVS辛いものと熱いもの!

 ええ、これこそ究極の無限に食べられるコラボです!


「パクパクパク、パクパクパクー!」

「ば、化け物……」


 おかげで速度が上がりますわ。

 いくらでも食べられますわー!


「ああ、どちらも美味しいですわ……!」

「ごくり……」

「本当に美味しそうに食べるお嬢さんね……」

「あちらのカレーハンバーグも食べてみたいな」

「幸せそうに食べるから、こちらもお腹が空いてきた……」

「それに比べてあちらの五人はつらそうだなぁ……」

「演出かしら?」


 いえ、演出ではないと思いますわ。

 普通の方があのサイズのパフェを食べるのは大変だと思います。

 わたくしがおかしいのでご安心ください!

 パフェ十二個目、美味しく頂きましたわ。

 さて、そろそろ……。


「わたくしもう無理ですわ、入りません」


 お母様ギブアップ。

 お早いですが予想通り。


「ぼ、僕ももう無理だ……甘いものは元々得意じゃないし」


 お兄様ギブアップ。

 あ、あらぁ……お兄様甘いものが苦手でしたのね……存じ上げませんでしたわ……申し訳ありませんー。

 ……まあ、存じ上げていても決闘内容を変える事は出来ませんでしたけれど。


「俺も無理……」

「……」

「っ……」


 お義兄様も、と思いましたがメアリお姉様の鬼の形相で持ち直しました?

 でもスプーンは進まなくなりましたわね。

 お父様もお姉様もスローダウン。

 つらいなら早くギブアップした方がよいのですが……パクパクパクー。


「……すみませーん、物足りませんのでケーキを追加でお願いしますわー」

「そろそろそう言うと思いましたわ!」

「さすがフィリーですわー!」


 どーん、と空になったパフェのグラスを回収されたスペースに、フィリーがホールケーキを置いてくれました。

 これはアレです、ミリアムの手作りケーキです!

 すでにカットされているので、それを食べかけのパフェに、どーん! と投入ですわ!


「「ひっ……」」


 まあ、お父様とお姉様ったらなんて顔でなんと言う声を出されるのかしら?

 失礼してしまいますわ。


「ま、まあ! なんて大胆なのかしら!」

「おお、あの食べ物はあんな食べ方もあるのか……」

「可愛らしいわ」

「わたくしもケーキが載っているものが食べたいわ」

「わたくしも」


 お客様には好評ですわね。

 でもこれだけではございませんのよ。


「フィリー、ジェーン様、お願いしますわ」

「ええ、こちらも」

「お任せください!」


 フィリーがチョコレートパフェにクッキーを刺してゆく。

 その隣でジェーン様はコロコロ丸く固めた、色とりどりのアイスキャンディーをフルーツパフェに添える。

 わあ、とお客様から声が上がります。


「かわいい……」

「アレもアイスなのか」

「アイスっていろんなタイプがあるのね」

「青や赤や緑……フルーツの果汁を固めたのか?」

「すごいな……」


 カレーハンバーグのおかげでまだまだいけますわ!

 ああ、肉汁が口の中に広がる……甘く冷たくなった口の中が肉の脂に包み込まれるようですわ……!

 カレーのピリリとした辛さが加わり、口の中もポカポカリセット。


「美味しいですわ〜」


 二十個。二十一個目……。


「ギブアップ……」


 お義兄様陥落完了。

 まあ、もうほとんど食べておられませんでしたものね。

 お父様もスプーンを置かれてしまいました。


「ギブアップだ……」

「お父様っ!」

「もう無理だよメアリ姉さん……それに、僕たちは本当にただの添え物だ。気づいてるんだろう?」

「っ!」


 申し訳ないですがお兄様の言う通り……この場は元々わたくしの独壇場ですの。

 色々な食べ方をお客様に提示して、余興として楽しんで頂きながら『アイス』や『氷』をプレゼンする場なのですわ。

 わたくしもお腹いっぱいになりますし、一石三鳥。

 そこにお姉様たちとの『決闘』を添えただけですの。

 お姉様がわたくしに勝てれば、わたくしの養子縁組の話も『勝利報酬』として取り消す事も出来たかもしれませんけれど……。


「これ以上は恥の上塗りだ。諦めて……」

「諦めないわ」

「ね、姉さん! いい加減にしなよ……! 平民の子どもだからってずっと虐めて、しかもクリスティアが学園に入ってからも人を使って嫌がらせしてたんだろ? 僕の耳にも入ってるんだよ!?」

「っ、うるさいわね! わたくしは、平民の娘になんか負けないのよ!」


 お姉様はそう叫ぶと食べ始めました。

 一つ、二つ、と……パフェの器を空にしていきます。

 まあ、お姉様すごい!

 普通の方なら二つで限界ですわよ。お姉様、三つ目に突入です! すごいです、素晴らしいです!

 でも無理してはいけませんわ。

 わたくしのドレスと違って、お姉様のドレスにはバッチリ普通のコルセットが——。


「うっ!」

「あ」

「おおぇぇっ!」

「きゃーーーーっ!」


 お母様が叫んで立ち上がる。

 ああ、お姉様ったらなんてもったいない。だから言ったのに……。

 すぐに兵士の皆さんがお姉様とお姉様がリバースしてしまったものを布で隠してくださいます。

 なんとなくこんな事になる気はしていたので大変素早い対応でした。

 おそらく周りにいた方もまともに瞬間は見ておられないでしょう。

 そのまま布に隠されて別室へ連行されてゆくお姉様。

 さて、そのままでは場の空気が微妙になります。

 そこをすかさずフィリーが手を掲げて宣言してくれました。


「ああ、あまりにも相手にならなくて忘れておりましたわ! 決闘の大食い勝負はクリスティア様の勝利です! 皆様、どうぞ勝者クリスティア様に祝福の拍手を!」


 わあ、と拍手が巻き起こりました。

 わたくし立ち上がって四方へお辞儀を繰り返します。

 その間にお父様たちも兵士たちにより別室へ促される。

 後片付けはお城の使用人の皆さんが、職人技で行ってくださいますの。


「まだまだ食べ足りないところですが、美味しいものは独り占めしてはいけませんわ。皆様にも試食品を用意してございます。どうぞご試食くださいませ。我が国の今後の特産品となる——アイスと氷を使った美味なるお菓子ですわ!」


 わたくしが降りた可動式ステージはそそくさと撤収されていきます。

 うふふ、誰か無茶してリバースなさるとは思いましたが、やっぱり可動式ステージにしておいて正解でしたわ〜。

 同じように事前に準備されていた別の可動式ステージが会場の端に運ばれる。

 その上にはわたくしたちが使ったものより大きなテーブルがあり、テーブルの上には今食べていたパフェの他にアイスケーキやソフトクリームなども用意されております。

 ジェーン様が用意してくださった解説役が近くにいるので、食べ方の提示もばっちりですわ。


「お疲れ様でしたわ、クリスティア様!」

「では、あとはお願い致しますわ」

「ええ、行ってらっしゃい」


 フィリーとジェーン様にお願いして、わたくしはルイナとわたくし用の控え室に戻ります。

 ここでお着替え致しますの!

 なんだかんだたくさん食べたので……その、お腹がとても苦しくて動きづらいのですわ……。


「アーク様はこうなる事を読んでおられたのでしょうか?」

「なんかそんな気がしますわね……」


 そう言いながらルイナに着替えを手伝ってもらう。

 青のドレスは……お腹周りが大きめに作られていたのです。

 わたくしがいっぱい食べられますように、と……そんな優しい声が聞こえるようでした。



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