Summer 中華料理にて
「あちいな」
「あちい、クーラー効いてんのか?」
「勝林に快適さを求める方が間違いだな」
「違いない」
「……それにしても遅いな勝林ラーメン」
「オヤジ麺から作ってるんじゃねえの」
「気長に待つか…おい、見てみろよ、甲子園やってるぞ」
「暑いのにご苦労なこったな」
「俺たちには無理だな」
「無理だな」
「夏季講習の課題やった?」
「まだ」
「あとで図書館行こうぜ」
「おう」
「………あのさ」
「なんだよ?」
「金森って知ってる?」
「2組の?ブラス部の?」
「そうそう」
「金森がどうしたんだよ?」
「お前、知り合い?」
「まぁ、たまに喋る程度だな」
「そうか…」
「なんだよ、金森がどうかしたのかよ?」
「いや、俺、告られちゃってさ」
「え、マジ?」
「マジマジ、なんか1年の頃から俺が好きだったらしい」
「えー…マジ?」
「おう、1年の頃さ、俺、金森と風紀委員会でおんなじだったのよ。それで仲良くなったんだけどさ…」
「お前、えー…マジで?」
「いや、参ったね…まさかそんな風に思われてるとは思わなかったからさ、スゲー動揺したよね」
「なんて答えたの?」
「俺、動揺しすぎてさ、ちょっと待ってほしい…としか言えなかったわ」
「あ、そうなんだ…」
「どうしたらいいと思うよ…?なんかさ、俺、金森のことずっと友達だと思ってたし、その関係が壊れるのもちょっと怖えなとか、柄にもなく色々考えるのよ。あっちはさ、真剣に伝えてくれたわけだから、こっちも真剣に答えないと失礼だろ?なんかそう言うこと考えだすと訳わかんなくなってきちゃってさ」
「お前は…好きなのか?金森のこと?」
「それもわかんねーんだよなぁ…いい奴だしさ、一緒にいて楽しいけど、これが好きかって聞かれりゃ、まぁ、よくわかんねえんだわ」
「……そうか…」
「なんだよ、お前、やたらテンション低くなったことないか?」
「別に…」
「どうしたんだよ?お前、まさか、お前、金森のこと好きだったとかないよな?」
「ちげえよ」
「まさかな、そんなマンガみたいなことないよな」
「俺が好きなのはお前だよ」
沈黙が2人に流れる。
ラーメンお待たせ、と店の主人がドンと2人の前にラーメンを置く。
固まり続ける2人。
店のテレビでは甲子園が流れている。
『さぁ、4番の森田がバッターボックスに入る。この炎天下の中…』