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ブラシは動く、されど状況は動かず。

~~ アルフレッド ~~


 神獣フェンリル。彼で良いのだろうか? まぁ、彼の話はとても表で話せる内容では無かった。

 それは、歴史が根源から覆されるようなモノ。そして、それが覆されてしまえば……我が国は、その成り立ちからして正当性など全く無くなってしまうだろう。


 腕の中の男子を見る。

 この子は神獣一族の宝とだと彼は言っていた。であれば、極力この子に何かが起こる……そんな事は避けねばなるまい。

 全く頭が痛い話である。


 勿論だが、フェンリルに対して「宝ならば、人里に降りる事をせず育てたら良いのでは?」と振ってみた。

 だが、その返事はと言うと『この子は人の子だからな。我らの群れで育てるよりも、人と共にあった方が良い』と。うむ、それは解るが何故私が選ばれたのか……。

 まぁ、その事についても『我らを利用する。その様な考えが無い事ぐらい読めるからな』だそうだ。


 ……彼らを利用する。うむ、実に恐ろしい話だ。

 フェンリルを利用しようなどとすれば、それは間違いなく教会に目を付けられてしまうだろう。いや、関わりが有ると言う時点で目を付けられるのは確定だろうが。

 ただ、その内容が非常に問題となる。


 悪意を持って利用するのか、信仰もしくは親交を持ってつき合っていくのか。


 前者であれば、間違いなく教会から破門を食らい家を潰される可能性が高い。と言うか、確実にそうなるだろう。

 更に信徒達の暴動も起こるだろう……何せ我が領地には、勇者とフェンリルは神の使いとして不動の地位を得ているからな。

 後者であれば……まぁ、我が領地に信者の行脚が増える。そして、教会の上位者達があれやこれやと取り込みに来るだろうな。

 実に面倒な話ではあるが、後者以外選択肢は無い。


 教会を敵に回すべきでは無い。無いのだが……さて、このフェンリルが語る事実に関して、教会はその全貌を把握しているのだろうか。

 いや、していないだろうな。していればこの国に対して攻撃的な対応になるはずだ。


 そう考えていると、思わず体が震えてくる。顔も当然険しくなる訳で……それを察したのか、娘のミリアが心配そうに此方の顔色を窺って来た。


 突如「お父様、あれは宜しいのですか?」と問われ思わず、「あ、あぁ。大丈夫だろう。大体の話は既に聞いているからな。……それよりも、今後どうするかだな」と答えてしまったが、本当にどうしたものか。

 国家転覆を狙うのであれば、致命傷を与えられる情報だ。当然、フェンリルの住処にあった資料も持ち出して良いと言われた物は持って来ている。……勇者の日記などだが。


 だが、私に国に対して反逆等するつもりは無い。勇者の威光も有り安定している状況だからな。……たとえそれが偽りであったとしても。




~~ フェンリル  ~~


 面白い。アルフレッドと言ったか? 奴は必死に考え事をしているようだ。

 まぁ、この男やここの群れの者がエルを利用する事は無いだろう。長生きをしたからだろうか、そういった思考を読む事は得意になったからな。悪意があれば当然察知できる。


 ミリアと言う娘も娘で、なかなかに肝が据わっている。

 圧を抑えているとはいえ、我はこれでもあの森の主だ。漏れ出る威圧と言うのは半端では無いだろう。

 だと言うのに、この娘は最初こそ臆していたが、いつの間にかその精神を正常なモノに戻し、我と会話をしだしたのだ。……まぁ、子供だからと言う事も有るかもしれんが。


 エルは……我が親が残した大切な存在だ。

 番を作らず子を生す。それがどれだけ自然の法則に反しているのか、それを知ったのは随分と後だが、親の状況からして致し方なかったと言うのも理解出来る。

 時間が無かったのは事実であったからな。


 実に長い時間を掛けてエルは誕生した。

 目覚めの時まで……一体どれほどの日が昇っただろうか? そして、目覚めの準備が出来てからも……また、どれだけこの子を預けられる相手を見つけるのが大変だったか。

 各地に飛び回った我が群れの子達が頑張ってくれたおかげで、こ奴らを見つけられたのだが。まさか、この様な近くに預けられる相手が存在するのは盲点だった。


 ただ、預けて放置などは出来ぬ。大切な子だからな。

 それ故、我もこの地に残るつもりなのだが……。


「ワフワフ!!(そこはやめろ! こそばゆいではないか!!)」


 子狼の姿にチェンジした我を、人間の女子達が挙って撫でまわし、ブラシをして来る。

 懐かしい気持ちになる反面。弱いところを責められるのはやめていただきたい!!




~~ ミリア  ~~


 思考するお父様。神獣フェンリル様(子狼モード)を撫でまわすお母様。そして、ソファーの上ですやすやと眠る男の子のエル君。

 私は今、実にカオスな空間に居ます。


「キャンキャン!!」

「あらあら、此処が良いのかしら? どう、このブラスはお気に召したからしら」

「奥様、首の下などを掻くのも宜しいかと」


 ……ツッコミを入れたい。でも入れられない。そんな状況が目の前に展開されています。

 私は大きな声で言いたいです。「その子狼は神獣のフェンリル様だ!」と。

 ですが、言えるはずが有りません。今それを言ったらお母様達は卒倒するでしょう。そしたら、フォローする人が居ません。

 お父様は相変わらず何か考え事をしていますし。


 執事のカールに対して目で訴えて見ます。

 ですが、彼は何を勘違いしたのか……そそくさとこの場から移動したかと思うと、音も無く戻ってきて……。


「お嬢様。此方のブラシをどうぞ」


 ……違います! 私は神獣様のブラッシングをしたかった訳ではありません! この空間を何とかしてほしかったのです!

 ですが……ブラッシングですか。相手が神獣様ですが……いえ、神獣様だからでしょうか? あの毛並みは素晴らしい。梳く必要など無いかも知れませんが、撫でまわしブラッシングをしたくなる気持ちも解ります。


「って、違います! カール、この状況何とかなりませんか?」

「そうは申されても……旦那様は何か重要な事を考えておられる様子。奥様は……駄メイド達と夢中になっておられますから」


 メイド達に対して辛口!! いや、それは良いでしょう。確かに、お母様と一緒になって神獣様相手にウキャウキャと騒ぐのはどうかと思いますし。……騒ぎたくなる気持ちは再三言いますが解ります。

 まぁ、私があの輪に入れないのは、あの子狼がフェンリル様だと知っているからですし。


 ですが、このような状況が続けば……話など一切進むことが有りませんね。


 さて、どうしましょうか? 等と考えていると、ソファーで寝ていた男の子。エル君がもぞりと動く気配がしました。

 もしかして、目を覚ましたのでしょうか? そうだとするなら、少しは動きが出るかもしれませんね。

ブクマ・評価ありがとうございます!


少しずつ世界やらキャラのネタバレを含ませていってます。


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