出会ったのは……大きな狼さんでした
~~ アルフレッド ~~
〝フェンリルの森〟そう呼ばれる場所がある。
そう呼ばれてはいるが、実際に此処に来るまで一度足りとてフェンリルの姿を見た者は居なかった。
だと言うのに、今回領民からフェンリルが見たと報告が入った。
これは一大事だという事で、直接その場を確認しに行く事にした。少しワクワクしたのは秘密だ……が、恐らく妻や娘にはバレているだろう。
と、それはさておき。
実際に神獣たるフェンリルが現れたともなれば一大事な事に間違いは無い。
そう考え、森まで視察に行ってみたんだが……。
其処に居たフェンリルはこちらをじっと見たかと思うと、予想外の事が起きた。
『ふむ……漸く話が出来そうな者が現れたか』
と、突如声を掛けてきた。これには腰を抜かすかと思ったが……よくよく考えれば、相手は神獣と言われるフェンリルだ。人の言葉を使いこなしても可笑しくはないだろう。
そんな、神獣足るフェンリルが私に向かって話をしたいと言う。
正直、その様な事を言われても私はただの人だ。確かにこの辺境を任されている身とは言えど、神獣相手に口を利くなど恐れ多い。
だが、相手がそれを望んでいる以上……答えねばなるまい。
「お初にお目に掛かります。自分はこの辺境を任されている、アルフレッド・エリアルと言います」
『ほう! アルでエリアルか……』
私が名乗ると、フェンリルが何かを懐かしむ感じを見せる。……もしかして、過去に人との関わりが有ったのだろうか?
『アル……アルと呼ばせてもらおう。して、アルよ多少頼みたい事があるのだが』
「頼み事でしょうか……一体どのような?」
何やら頼み事が有るようだが……さて、どのような難題を任されるのだろうか。かなり不安だ。
~~ ミリア ~~
本日、お父様が魔境に行きました。
執事のカールはお父様を危険だと止めましたが……お父様は冒険が大好き。言って止まる訳が無いのです。
「お父様大丈夫かな?」
「あらあらミリアったら、旦那様は心配ないって解ってるでしょう?」
私がぽつりと呟いた事に反応したのかお母様。
お母様はお父様が無事だと信じきっているみたい。でも、何事にも万全なんて無いと言ってたのはお父様とお母様なのに……。
と、初めまして。ミリアと言います。
今話したように、お父様は魔境へ探索に、お母様は家で私と一緒に紅茶を嗜んでいます。
そして、そんなお父様。名前はアルフレッドと言い、このアルバート王国の辺境で領主をしています。
お母様はアリアと言い、お父様が貴族のトーナメント? と言う物を勝ち抜いて娶った、公爵家のご令嬢だったとか……私には良く解りません。
そして、この辺境はエリアルと言い、何か昔の偉人から名前を貰ったとか……。一体どんな事をなした人なのでしょう?
ただ、その偉人にあやかって、家名がエリアルだったりもします。
そうそう。因みにこの国の名前も昔も昔、神話の時代と言える頃に、世界を救った勇者様の名前だそうです。
なにやら、王家はその勇者の血を受け継ぐ者だとか……本当でしょうか?
確かに、王家の方々は他の者達よりも魔力を有しており、戦術クラスの魔法をポンポンと撃つ事が出来るそうです。
ですが、物語の勇者様と言えば、山を砕いたとか、空間を超越したとか、そのようなお話を残されている方です。
その事から考えて、今の王家の人では逆立ちをしても、勇者の影すら踏めないと思ってしまうのは、私だけでしょうか。
とは言っても、このような疑問……公の場では言えません。いえ、家の中でもおいそれと質問する事すら出来ないでしょう。もやもやが募るばかりです。
そんな事を考えながら、お母様とお茶を楽しんでいると、何やら玄関の方が騒々しくなってきました。
これは、お父様が帰って来たのでしょうか。
「お母様」
「戻って来たみたいね。それでは、お出迎えに行きましょうか」
お母様と一緒にお父様の迎えをする。
その為に移動をして来たのは良いのですが……。
「お……お父様。お帰りなさいませ……と言いたいのですが、その腕の中に居るのは何でしょう? それと、その背後に居るのも……」
「あらあら旦那様、また拾いモノをしてきたのですね」
お母様!? お母様の精神が鋼の様です!! これは最早、拾い物ではありません!!
「拾い物!? お母様! 腕の中はどう見ても男の子ですし、そのあの……お父様の後ろに居るのは、大きな狼さんではありませんか!!」
そう、お父様が連れて帰って来たのは、私と同年代ぐらいの男の子とその子を優しそうに見つめる狼さんでした。
……一体この男の子は何者なんでしょうか。
何という事でしょう……登場キャラの中で、主人公やヒロインよりも先にヒロインの父が出てくると言う変則。
後半の子がヒロインですが……主人公はまだ一言もしゃべっていないと言う事実。
え? 主人公はオオカミだろうって? まぁ、彼は主人公の守護者です。