ランサーのアイン
結成初の戦いは、経験不足と連携不足により惨敗を喫した。模擬戦でなければ、手痛い犠牲があるところだった。
一晩明けて、軍本部からの通達、一軍でも二軍でもなく、三軍からのスタートだった。
戦いに対する覚悟が足りないこと、実力も二軍ですら危ういこと、連携も即席ですら不足していることが要因だった。
今期で卒業する兵士学校のチームは7組あったがその中でもダントツの最下位だった。
試験官の実力は、二軍の中位ぐらい、同期の中には圧倒したパーティーもあった。
ランサーのアインは、タンク科の中ではトップに近い個人実力があったが、協調性に乏しく、性格に難があった。
今回の即席パーティーでも、突出しすぎて後ろがガラ空きになり敗因を作った部分があった。
無論本人も周りも分かっていたが誰も彼を責めはしなかった。
その理由はこれ以上評価をみんな落としたくないからというのと、争うだけ時間の無駄だからだ。
だが今回の結果を受けて、彼は吠える。
「お前らが、俺についてこないからだろうが、俺の近くにいればやられなかったんだ!」
それを聞いて沈黙が流れる中、大剣使いブルーノが口を開いた。
「俺もお前につられて前に出たよ、その時に少し前に出過ぎだとは思ったけど言わなかった。アインの戦い方も正しいと思ったからだ、だがディーラーもバッファーもほとんど初見で俺たちも合わせられなかった」
「あそこで指摘すべきだった、後衛中衛に、よって来いと。アインにももう少し下がれと」
「あの遠慮がなければ、ああはならなかった」
「俺のせいだすまん……」
そこまで言われては、何もいえない。
アインは「そうだな……」
とだけ言いそれ以上は何も言わなかった。
アインは過去を思い出していた。
元々アインは、タンクの中でも大剣使いを目指していた。大剣使いは、防御と回避と攻撃のバランスをとってみんなの盾になる職業。肉体的な頑健さと軽い身のこなし、そして中後衛との連携も見る仕事もある。
肉体的な頑健さでは誰にも負けない自信はあるが、それ以外の要素が自分には不足していたということ。
もう一つ。アインの家は代々タンク系の家系、父も兄も一流の大剣使いだった。
俺にそんな要素はなかった、どれだけ頑張っても自分の役目を果たすだけで精一杯だった。そんな不器用な自分には最前線で体張るしかない。
今回の結果はそれが出たんだなと、感じた。
そしてブルーノの正論を聞いて熱くなるしかできない自分が恥ずかしいと感じた。
「悪かった、俺ももう少し周り見る、守れなきゃランサーの意味なんかないからな」
「また突出していたら指摘してくれ」
「俺もこんな三軍で終わりたくない、今日からよろしく頼む」
場が荒れたが、ブルーノの判断力と、アインの不器用だが実直であることによって。初っ端のパーティー解散の危機は免れたようだ。