6レイシア
「えっと…お帰り。」
枕元に牛乳を置くと、未熟なサキュバスや若いサキュバスはそれを精液と間違えて持ってきてしまう場合がある、成人式でそれをしてしまったサキュバスを落ち込ませないために皆から大成功とはいかなくても失敗ではないよと慰める暗黙の了解がある。
さて本題に入ろう、今目の前に瓶詰めの牛乳をもった涙目のラズリをどう慰めようか、どう見ても騙されたのではなく軽くあしらわれた感じである。
「気が付いたら夜遅くなってて…男の人にお色気して…効かなくて…訳を説明したら…これ出したら…おこられないって…」
「あー…ってほら!もう大人なんだから!泣いちゃだめよ!落ち着いて!」
その後予想を裏切らないというか普通に突き抜けてた今日の出来事をゆっくりとしゃべりだした。
「空を飛んでね」
「うん」
「いろんな男の人とじゃんけんしてね」
「うん?」
何故にじゃんけん?
「お城に入ったらね」
やっぱり入ったか…
「そしたら?」
「綺麗なお兄さんががラズリより色仕掛けが下手な女の人達に囲まれていたの。」
「へぇ…」
多分吸血鬼の真祖と権力に縋る女の吸血鬼達だろう、ラズリにそんな風に言われる彼女たちが不憫だ、そして仮に知らなくても吸血鬼の真祖をお兄さんと呼ぶとは…
「皆が帰った後そのお兄さんとじゃんけんしたの。」
「は?まさか…」
村でよくやっている相手が自分の存在に気づく前に急接近して勝負を仕掛けて戦利品だけ持って逃げる村の厄介名物ラズリ式じゃんけんを仕掛けたんじゃ…
「うん、村でよくやってる方法でじゃんけんしたの。」
「まさか何か盗んでないでしょうね…」
何か盗んだら物によってはラズリの気持ちを無視して急いで返さねば村どころが種族ごと消されかねない。
「盗んでも貰ってもないもん…ラズリ初めて負けちゃったの…」
…普段ならサキュバスの事を蔑んでる吸血鬼の強さを知っていい感情なんて出そうになかったが今回ばかりは真祖の強さに感謝した。
「今迄ずっと負けなしだったのに…」
落ち着いてきたラズリはまた涙目なったので急いで慰める
「悔しかったから慰めて貰ったの」
「慰めてと頼んだの?」
「うん」
大変迷惑を掛けたらしい
「撫でてもらって凄く嬉しかったから気にいったの」
「あらあら…」
吸血鬼の真祖はレベルがかなり高いけど、頑張れ…ラズリ…
「その後頑張って色仕掛けして魅惑的な表情も見せたのによくわからないという様な表情で返されたの」
あのドヤ顔を見せたのか…
「で、その後どうしたの?」
「事情を説明したら…『今日はもう遅いしこれを持っていくと失敗だとは言われないよ』って言われてこれをくれたの…」
聞いてて頭を抱えたくなるくらいには迷惑を掛けた事はよく分かった。
…とは言っても向こうがこっちの文化を知り過ぎている気がする、気を付けないと…
そしてそこで気が付いた
「ラズリ、髪飾りはどうしたの?」
「じゃんけんで負けたから戦利品としてポケットの中に入れてあげたの」
「一応聞くけど向こうが欲しがったの?」
「ちがうよ!ラズリがプレゼントしたドッキリだよ!」
「…」
どこまでも頭を抱えさせる子だ…それで万が一本人より先に他人が見つけたらどんな誤解を受けるのやら…
「ラズリ決めた!」
「なにを?」
嫌な予感しかしない。
「もっと大人になる為に冒険者になって世界を見て回ってお兄さんや皆をびっくりさせるの!」
「え…」
これ以上何を言い出す気だ…
「もっと大人になるように頑張るってお兄さんに約束したから!村長も待っててね!」
「とりあえずもう遅いからこの話は明日にしようか。」
もう精神的に限界だよ…