第3話 神さま
いきあたりばったりで書いてます。
ユウヤが除霊師としての活動を始めて一週間が経った。ある休日の昼、両親が出かけていて家にいないことをいいことにユウヤは勉強もせずだらけていた。ユウヤは中学三年生で受験生であるものの、高校受験程度どうにかなると考えるタイプの人間なのである。
しかし、不意になった玄関の呼び鈴で彼の休息は終わりを告げることになった。ユウヤが新聞の集金でも来たのかと思い外に出ると、そこには意外な人物がいた。
「やっほ、ユウヤくん!今、暇?」
「えっ、ユミとユウカ!なんでこんな昼間に?」
「ユウヤくんに会わせる人がいるの、ついてきてくれる?」
「会わせる人?わかった、待ってて」
あまりにも唐突なことだったが、なぜかユウヤは納得していた。多分、ユミとユウカのことを既に信用しているのだろう。
「準備できた?じゃ、行こっか」
「えっと……どこまで?」
「すぐ近くだから」
その言葉通りに、五分ほど歩いた所の住宅街の細い道に入った所でユミ達は立ち止まった。
「ここなの?」
「そうよ。……神さま、ユミだよ」
そうユミが呟くほどの声で言うと、三人の前に真っ黒のフード付きコートを来た女性が現れた。顔は隠れていて分かりにくいが女性である。
「や、ユミ、ユウカ。その子が例の新人くんかい?」
「そうだよ」
「えーと、ユウヤ、だっけ?話はユミ達から聞いているよ。私は神…みたいなものだ」
「神……って、どういう……」
ユウヤは神と名乗るその女性に言いようのない怪しさを感じた。
「まあ、死神だよ。末端だけどね」
「死神……ですか?除霊師がいて死神までいるなんて……」
「珍しいことではないだろう?除霊師が成仏させた霊を死神があの世まで送る、そういうシステムなのさ」
死神は軽い口調でそう言った。続けてこうも言った
「このシステムとは簡単に言えば、大本に大いなる神がいて、その下に死神がいて、その下に除霊師がいるって感じかな。大いなる神は死神が連れてきた霊を新たなる命に還元しているのさ」
「それじゃあ死神さんはパシリで除霊師はパシリのパシリってことですか?」
「んー、ま、そうだね。イメージと違ってガックリしたかい?」
図星であった。ユウヤは除霊師をもっとカッコイイものとして想像していたが、やることといえば幽霊に触ることで、さらにそれが使いっ走りと言われたらショックである。
「ちょっと死神さん、そろそろ本題に入ってよ」
「あっとそうだった。ユウヤくん、今日は君に除霊師の特殊なアイテムを授けようと思って来てもらったんだ」
「アイテム……ですか」
「ああ、まずはこれ、『幽霊探知機』。これは幽霊のいる場所を知ることができる」
「えっ、そんなものがあったんですか」
「そこの二人は使ってなかったのかい?」
「えっと……」
ユウヤがユミとユウカの方を見る。するとユウカが口を開いた。
「使ってたわよ?それである程度誘導なんかもしたし」
「そんなものがあるなら早く言ってよォ……」
ユウヤは、今まで必死に探していた苦労が何だったのかと抗議した。
「探すのもいい経験になると思ったんだけど」
ユウカが悪びれずそう言ったので、ユウヤは勢いを削がれて怒る気をなくした。
「ま、いいや。それじゃ次ね。『吸魂札』と……ユウヤくんは珍しく生者だから『生命エネルギー維持装置』をあげよう」
「珍しくって……そこの二人だってそうなんじゃ……」
「およ?……ふーん、そっかそっか。えーと、アレだよ。見える人が三人もいるなんて珍しいもんだなぁ、とね」
「はぁ、そうなんですか」
「うん、そうそう……で、これの説明だけど……まず先に幽霊について説明しておいたほうがいいかな」
「幽霊について……ですか?それなら多少は聞いてますけど。確か、幽霊は生命エネルギーの残りカスだとか」
「うんうん、そこまでわかってるか。でもまだ足りないんだなぁ」
死神は、多分いたずらっぽく笑ってそう言った。
「実はね、幽霊には種類があるんだ。君が出会ってきたのは普通の幽霊だ。今から説明するのは悪霊と妖霊のことさ」
「悪霊と妖霊?ですか?」
ユウヤはその言葉の響きに恐ろしげなものを感じた。
「まず、悪霊というのはね……」
悪霊とは、簡単に言うと幽霊の発展した形である。彼らは普通の幽霊に比べ大きなエネルギーを持っており、通常のようには除霊できない。
そこで用いるのが『吸魂札』である。これは幽霊のもつ生命エネルギーを吸い取るお札で、悪霊の生命エネルギーを普通の幽霊クラスまで低下させられるのである。
そして『生命エネルギー維持装置』についてであるが、その前に悪霊の特徴をもう一つ知ってもらう必要がある。悪霊は生者の生命エネルギーを吸い取る力を持っているのだ。
その力から身を守るために、生命エネルギー維持装置が必要になる。これを持っていればそのエネルギー吸収をある程度は防げるのだ。もっとも、吸収は少しはなされるので早めに除霊しないと危険なことになる。
「危険なことというと、ひょっとして……」
ユウヤは恐る恐る聞いた。その顔は真っ青である。
「ああ、死ぬよ。生命エネルギーを全て取られると死ぬんだ」
「死……」
ユウヤはゾクリとした。今まで除霊師を簡単な仕事だと軽んじていたが、死というものを意識すると話は変わってくる。
(死ぬ……死ぬだって?なんだよそれ、今まで悪霊に出会ってなかったのはラッキーだったのか……)
「あーっと、そこまで思いつめることはないよ。悪霊になる霊は稀だし、これを持っていれば三分間はやられ続けても平気だからさ」
「そ、そうですよね。悪霊にさせないために除霊師がいるんですもんね」
「そうそう!その通り!で、次に妖霊について……」
妖霊とは、あまりにも強大な未練を残し死亡した者が妖怪化したものである。妖怪、といってもいわゆる妖怪ではない。猛獣のようなものであり、幽霊との違いはその見た目と性質である。
彼らは人に危害を加える。悪霊のように生命エネルギーを吸うのではなく、実際に攻撃するのだ。かつて鬼と呼ばれ人を食うとする怪物の話がよく出たが、大抵はこの妖霊である。
鬼のような見た目というと具体的ではないが、とにかく昔話にでるような、巨大でいかにも恐ろしげなものを想像してもらえればちょうどいいだろう。
「人を襲うんですか!?」
「うん。まぁ妖霊なんてほとんど伝説みたいなものになってるけどね。最後に発生したのは1950年代だし……」
「それで、そいつへの対処法はなんなんですか?」
「えーと……それがね……具体的な対処法はないんだよ」
「な、ない?」
「彼らは確かに強いが、強すぎるんだ。数日もすれば自身のエネルギーで焼かれて消えてしまうのさ」
「じゃあ、出会いさえしなければ……」
「うん、問題ない」
ユウヤはホッとしたが、それでも出会ってしまったらということを考えて青くなった。
「出会ったら逃げりゃいいのさ。奴らは力が強いけど足は遅いんだ。何しろ自分の強すぎるエネルギーを抑えるために必死なところがあるからね」
「でも、見えない人たちが出会ったら……」
「諦めるしかないね。運がなかったんだよ」
その言葉にユウヤは悲しくなった。除霊師として妖霊に立ち向かうことはできないと言われ、無力感に苛まれた。
「もう一度言うけど、妖霊なんてそうそう発生しないんだ地震みたいなものと考えていいんだよ」
「うーむ……」
ユウヤは納得はできなかったが、仕方ないものとして受け止めることとした。
「妖霊の話はこれで終わり、分かってくれたかな?」
「はい……」
「じゃあ次、『身代わり人形』。これは君が夜に出歩く時にベッドにでも置いとけば君として認識される」
「え、そんなものまであったんですか!」
「まあ、これを与えるってことは、君を正式に除霊師として認めることを意味してるんだ。頑張ってくれよ、新人」
「は、はい!」
ユウヤは認められたことの嬉しさに、さっきまで感じていた恐怖や悲しみを少し紛らわすことができた。
その日の夜、ユウヤは早速身代わり人形を使い外に出た。すると、そこにはもうユミとユウカの姿があった。
「ユミ、ユウカ!早かったね」
「まぁ、他に行くところもなかったしね」
ユウヤは幽霊探知機を使い幽霊を探したが、その日は見つからなかった。そのため三人で公園で談笑していた。
「ところで、今まで聞いてなかったけどさ、ユミとユウカはどこの学校行ってるの?」
「あぁ、私達はね、〇〇高校に行ってるの」
「えっ、高校生だったの!?先輩じゃん!」
「えっ、ユウヤくんって中学生!?もっと同級生くらいかと思ってた〜」
「ホント、意外ね……老け顔?」
「大人びてるって言ってよ……あ、敬語使った方がいい?」
「いやぁ、いいよそんなの。どうせすぐに追いつくんだから」
「ちょっとユミ!」
「あ、そっか。その時には私達も進級してるか」
ユミは舌をペロッと出して自分の頭を小突いた。それを見てユウヤは吹き出してしまった。
「なんだよそのベタベタなリアクション!」
「テヘペロってやつよ?そんなにおかしかったかな……」
「ユミ……あんたのはマンガ的すぎるわ」
三人とも夜中なのに大笑いしてしまい、気まずくなったので解散したのだった。ユウヤは、自分が除霊師として成長したことを嬉しく思っていたが、ユミ達が高校生であることを知って改めて受験というものを意識して気が重くなった。
深夜、住宅街に佇む怪しい影。
「そうか……彼は生者なのか……楽しみだなぁ……フフフ、ハッハッハ!」
夜の街に怪しい笑い声がこだました。
次回!遂に戦闘シーンが……書けるといいなぁ。