第2話 はじめてのおはらい
ユウヤくん、幽霊とご対面。ドッドドレミファドレミファソラシド
あの後、今日はもう遅いからと帰ってきたが、ユウヤは眠れそうになかった。とりあえずおにぎりを食べ、ずっと考えていた。
ユミとユウカ…彼女達はなぜ除霊師になったのか、除霊師は夜中でないと活動できないのか、僕に本当に除霊ができるのか……ユウヤの考え事は尽きそうになかったが、いつの間にか眠ってしまっていた……。
「そういえば……あの二人ってどこに住んでいるんだろう」
彼の疑問は結局これに落ち着いた。二人に会えなければどうしようもないと、そう考えているからだ。
(そういえば、じゃないよ!ユミとユウカに会えなければまだなんにもできないじゃないか!)
その日一日考えて、結局彼は幽霊を探すことにした。幽霊に会えば、彼女らも除霊しにやってくるかもしれない、と思ったからだ。
そして夜の十時、彼はコンビニに行くと言って出かけようとした。玄関のドアを開け、空気の冷たさに身震いしたその時である。
「ほら!やっぱりここだった〜!」
「こんばんは、ユウヤくん。あなた、ここに住んでたのね」
「ユミさんとユウカさん!?なんで僕の家がわかったの!?」
ユウヤは、ユミとユウカに家を教えてはいない。
「ふっふーん、女の勘という名の神通力よ」
ユミが冗談ぽく笑う。その笑顔を見てホッとしたユウヤは思わず吹き出してしまった。
「すごいんだね、女の子って」
「あーっと、ユウヤくん?コイツの言うことは話半分に聞いといて」
「えっ、ひょっとして嘘なの?」
「いやーごめんごめん。あの後家聞いてなかったって気づいてさ……ついてったの」
一転、ユウヤはユミの笑顔を恐ろしく感じた。
「それってほとんどストーカーだよ」
ユミとユウカは、「女が男のストーカーするって危険〜!」と大笑いしながら言った。
夜の街を歩きながら、ユウカは言った。
「今日はユウヤくんの除霊師体験ね。軽め〜にいくから肩の力抜いていいよ」
どうやらユウヤが緊張していることは、二人にバレていたようであった。なにしろ初めて除霊師として夜の街をうろついているのだ。緊張するなという方が厳しい。
「軽め〜っすか、それなら安心だね」
「ユウカ、ユウヤくんに結構優しいよね〜。ひょっとして……」
ユミがいたずらっぽくそう言うと、ユウカは顔を赤くした。
「ち、違うわよ!そういうのじゃないから!」
「じゃあなんで私と態度がこんなに違うかな〜?」
「それはあんたがいつもドジするからでしょ!」
「そんなにドジしてないよ!」
「ふ、二人とも……喧嘩しないで……」
ユウヤは苦笑いした。二人はどこにでもいそうな女の子であるが、除霊師である。ユウヤには、まだどこか信じられないところがあった。
最初に気付いたのはユウヤだった。
「……!二人とも!なんか聞こえない?」
公園の近くを通っていると、ブツブツと呟くような声が聞こえたのだ。
「たしかに……なんか声が……」
「あそこ!」
ユウカが指さしたのは公園の砂場である。体が少し透けた女性が砂場に穴を掘っているのが見えた。
「あれは、幽霊……だよね?」
「そうだよユウヤくん……それじゃ行ってらっしゃい」
「……は?」
ユウヤは素っ頓狂な声を出した。まさか自分がすぐに出るとは思っていなかったのだ。なにしろ初めてなのだ。ユミかユウカが除霊するのを見て学ぶのかと思っていたのである。
「え、こういうのっていきなり一人で行くもんじゃないよね?」
「え?別に一人で平気よぉあんなの。ユウヤくんならできるって」
ユウカもうんうんと頷いている。
(僕がおかしいのか!?一人でって……この業界では当たり前なのか!?)
ユウヤは、とりあえず二人に従い一人で除霊活動を行うことにし、幽霊の女性に近づいていった。
「あ、あの〜」
「あ?何よ」
女性が若干威圧的にそう言ったのでユウヤはビビったが、負けないようにがんばった。
「あなたは……ここで何をしてらっしゃるんですか?」
なぜか敬語になっているが、ユウヤはいっぱいいっぱいなのだ。仕方がないことなのだ。
「穴掘ってんのよ」
「穴……ですか?」
「そう、ここに落とし穴作ってんの。誰か落ちたら笑えるでしょ?」
「……落とし穴……ですか」
明らかに迷惑がかかっているので、ユウヤは除霊することにしようと思ったが、とりあえず経験者であるユミとユウカの方をチラと見た。するとユミ達は拳を突き出し、「やれ!」と言うように口を動かした。
「……落とし穴、誰か落ちたらその人には迷惑かかってますよね?」
一応最終確認のつもりで聞くと、女性は立ち上がった。
「あんた、さっきからなんなの?ちょっとウザイんだけど。どっかいってよ!」
女性が持ってるスコップで脅かしてきたので、ユウヤは肝を潰した。
「わぁっ、ごめんなさい!」
防御として突き出した手がコツンと女性に触れると、その瞬間女性は消えた。
「え、あれ?」
「やったー!出来たじゃん、ユウヤくん!」
「おめでとう、見事だったわよ」
「え、あの……僕殴ってないっすよ?」
「えっと……それは生者であるユウヤくんのエネルギーが幽霊より大幅に勝っているからよ」
「エネルギー?」
除霊師がどうして殴ったり切ったりするだけで除霊できるのか、ユウヤはまだ知らなかったのである。
「幽霊ってね、実は持っているエネルギーはとっても弱いの。だから自分より強い生きている存在に当たるとエネルギーを吸収されて成仏しちゃうのよ」
「へぇー……それで……」
大変わかりやすい説明なので、国語のテストで60点程度しか取れないユウヤもすぐに理解出来た。原理的には分からなくとも、そういうことなのだと納得出来た。
「それじゃあ、今日は終わろっか」
「え、もう終わり?」
「私達も動き回ると疲れるじゃない?それと一緒で幽霊もそんなに動き回らないの。二日に一回除霊するくらいでいいのよ」
「へぇー」
「幽霊が人に迷惑かけるって言っても大したことはないしね」
「まあ、そうだね。触れたら消えちゃうのに、出来ることなんて少ないよね」
帰り道でも幽霊を探してみたが、いたとしても大抵は何もせずじっとしているだけで、無害そうなのがほとんどであった。
こうしてユウヤの除霊師体験一日目は、特に危険な目にあうこともなく終わったのだった……。
次の朝、ユウヤが学校に行くため外に出ると、ユミとユウカがいた。
「あれ?二人ともなんで……」
「いやー、除霊報酬あげるの忘れてて」
「全くユミったらドジなんだから」
「ちょっとぉ!忘れてたのはユウカもでしょう!?」
「バレたか」
長引きそうなのでユウヤは話を遮った。
「あの、報酬って?」
「ああ、これよ」
差し出されたのは一万円札であった。ユウヤにとってこれは大金である。
「えっ、こんなに!?」
「そうよ〜一体につき一万円もらえんのよ〜」
ユウヤは中二的な趣味のために結構出費がかさむことがあった。
「あ、あの……」
「なに?」
そんなユウヤにとって、あの程度の仕事で一万円ももらえるのは相当大きいことだった。
「これからもよろしくお願いします!!」
「おっ、やる気になってくれたんだ!」
「はい!僕、除霊師がんばります!!」
「おう!その意気だぞユウヤくん!」
ユウヤは単純な男であった。
そんな彼らを見つめる怪しい影があった……。
「この街の除霊師はガキだけか……ふっ、やりやすそうな街だ」
怪しい影はニヤリと笑い、ビルの影へと消えていった……。
怪しい影は、渋い声の声優さんで再生してやって下さい。