第1話 よろしくね
主人公の名前は『ユウヤ』、除霊師さんは『ユウカ』と『ユミ』です。よろしくね。
「う〜さみ〜!」
真夜中の街の中、あまりの空腹に耐えかねてコンビニを目指すこの少年の名は『ユウヤ』である。ちなみに目的はツナマヨおにぎりである。
「もうすっかり冬だなァ……よし、着いた着いた」
11月下旬、寒くなってきて外に出るのも億劫に感じる頃である。
「これください。あっこれで」
早く帰りたいので、ユウヤは千円を差し出しお釣りを素早く受け取り、おにぎりを持ってすぐに外に出た。この間約3分である。
「やっぱさみ〜!早く帰ろ!」
走り出してからユウヤは奇妙な物音を聞いた。時刻は午前1時、にもかかわらず大声で怒鳴るような音が聞こえたのだ。なぜだか無性に気になって、路地の裏を除くと、どこかの学校の制服を着た茶髪のショートの少女が男性を素手で切り裂いていた。
「えっ……!?な、な、何これ!?」
「誰!?」
少女がこちらに向かってきたので、ユウヤは思わず逃げ出した。
(やっべえ!殺人事件!?110番!?)
ユウヤは意外にも冷静であった。いや、慌ててはいるのだが、思考はすっきりと簡潔だったのだ。
「ま、待って!あなた、私達が見えてるの!?」
そのおかしな言葉にユウヤの足がピタリと止まる。良くない好奇心が働いてしまったのだ。止まってしまったからには仕方なく、ユウヤは少女に対し反応を見せることにした。
「そ、そりゃあ見えてるさ!あんたが人を素手で……切り裂いたところが!」
「そ、それは誤解よ!あれはすでに死んでいる人なの!」
「……は?」
「あれは、幽霊なの!そして私は除霊師!」
次々と飛び出す奇怪なワードに、ユウヤの好奇心は刺激された。
「何それ詳しく教えて」
気がつけば、ユウヤがさっきまで逃げようとしていた、殺人犯と思っていた少女にユウヤ自身から近づいていた。
近くの公園のベンチに座るユウヤと少女。先に口を開いたのはユウヤだった。
「さっき……幽霊って言ったけど……」
「ええ、幽霊。あの男は自分が誰にも気付かれないからって、道に寝転がって女性のパンツを覗いていたのよ」
「はぁ……パンツを……ってその程度であの人を殺したのか!?」
ユウヤは声を荒らげた。この日本は、さすがにパンツを覗いた程度で死刑になるような国ではない。
「だから、あれは幽霊であって、成仏するべきなのよ。いつまでもこの世に居座って悪いことばかりしてたら悪霊になってしまうわ」
少女は自分の正当性を主張した。
「そ、それじゃあ君はいいことをしているのか。あの人が悪霊になってしまわないように成仏させてあげてたんだね?」
「もちろん。だって私、除霊師なんだもの」
「除霊師……君みたいに学生でも除霊師ってなれるの?」
ユウヤの疑問は、彼のイメージする除霊師というものが皆、厳しい修行を行うお坊さんのようなものだから生まれたのだ。
「誰でもなれるわよ、幽霊より力が強ければ」
「へえ〜」
「そうね、あなただってなれるわよ」
「え?」
「あなた、幽霊が見えるんでしょ?珍しい才能だわ。その才能がある生者なんて初めて見たし……」
少女は何か思考を巡らしている。ユウヤは少し嫌な予感がした。
「ね!あなた、除霊師になりなさい!ていうかこのままでは帰せないし、見られちゃったから」
「え、えぇ!?僕が除霊師!?無理無理無理!!」
ユウヤは首をブンブン振った。確かに彼は昔から幽霊を見ることができた。しかし、怖いものは怖いのだ。幽霊イコール怖いものとして考えている彼は除霊師などなれるはずないと考えたのだ。
「無理じゃないわ、ていうか逃がさないし。見られたからにはなんとやら、よ」
「だ、だって僕何も修行とかしてないし幽霊怖いし」
「怖くなんてないわよ!修行もいらないし!」
すると、少女の後ろからもう一人、黒髪ロングの少女が現れた。茶髪の少女と同じ学校の制服らしき服を着ている。
「何してるのよユミ!こんな所でベラベラおしゃべりなんて!」
「あ、ユウカ。ごめんごめん、ちょっとこの男の子に現場見られちゃって……」
「はあ!?何やってんのよ!ほんっとドジなんだから!」
ユウカとユミ、ユウヤはその名前を聞いて、「そういえば名前を聞いていなかったな」とのんきに考えていた。
「えっと……ユミがなんか変なこと言ってた?」
「あ、えっと……除霊師とか幽霊とかって……」
「ユ〜ミ〜、何やってんのよ!無関係な生者を巻き込もうとしない!」
「ごめんごめん、でもこの子、見える人なんだよ?」
すると、ユウカと呼ばれた少女の顔色が変わる。
「見える人?それホント?」
「ほんとほんと、現場を見られたって言ったじゃない」
「そういえば私達が見えてるんだ……ねぇあなた!名前は!?」
ユウカの勢いに押されて、ユウヤは思わず答えてしまう。
「ゆ、ユウヤです」
「そ、ユウヤくん、ね!じゃあ、除霊師に興味ないかな!?」
ユウヤは、名乗ったことを若干後悔した。
「あのね、除霊師ってのはそんなに危ない仕事じゃあないのよ?幽霊って言っても力がそんなに強い訳じゃないし、除霊も物理的に簡単にできるから」
「で、でもなぁ〜」
「……実際見せた方が早いか、それじゃあ、あれ見て」
ユミの指さした方を見ると、シーソーの上を土足で歩く酔っ払いがいた。
「……酔っ払い、だね」
「あれね、ああやってシーソーを汚す幽霊なのよ」
「ええ?あれが幽霊?」
「そうなの、それで今からユウカが除霊するから……」
「えっ、私?」
「うん、がんばって」
「……わかったわよ、はぁ……」
ユウカがため息をしつつ酔っ払いの幽霊に近づいていき、殴った。その瞬間酔っ払いは消えてしまった。
「はい終わり」
「え、これで?」
「そうよ、簡単でしょ?」
ユウヤは、除霊師とは思ったよりずっと軽いことのようだと思った。そして、次にこうユミに聞いていた。
「これ……僕にもできるんだよね?」
ユミはさも当然のように「できるよ」と答えた。
すでにユウヤの中に恐怖心は欠片もなく、あるのはいっぱいになった好奇心だけだった。
「僕……除霊師やってみたいかも」
「はいOK、言質取ったから」
「えっ」
「あはは、冗談冗談……まあ、やってみてから決めていいよ?」
ユミの態度がさっきと大きく違っていて驚いたが、まあいいかとユウヤは気楽に考えていた。
「うん、除霊師……やらせて下さい!」
「あはは、そんな固くならなくっていいからさ……これからよろしくね、ユウヤくん」
「うん!よろしく!」
「あれ?もう決めたの?」
「ユウカ〜、あんたのお陰でユウヤくん除霊師やってみてくれるって〜」
「え、私の!?なんか照れるね……えーと、まぁ、私はユウカよ、よろしくね」
「よろしく!」
「あ、そういえば名乗ってないや、私はユミ、改めてよろしくね」
「うん!」
(除霊師って……なんかカッコイイかもなぁ〜)
ユウヤ、実は中二病であった。
そんなこんなでユウヤは除霊師をすることに決めたのだった。はたしてこれから彼は立派な除霊師となれるのだろうか……。
つづく
ユウヤは中学生、ユミとユウカは高校生ぐらいで考えてやってください。