第0話 幽霊って?
幽霊はちょっと透けてる人間をイメージしてください。
真夜中、街が暗く沈み冷たい空気に包まれる時、彼らは目覚める……。彼らとは、いわゆる『幽霊』である。
人間は死ぬと普通はエネルギーを全て失うが、稀に、5パーセントほどそうならない者がいる。未練がましくこの世に最後のエネルギーをへばりつかせた者達、それが幽霊。
幽霊達は、普通静かに暮らして成仏を目指しているが、中にはそうではない者もいる。自分達の存在に誰も気付かないのをいいことに好き勝手する連中がいるのだ。
例えば……今、缶やビンを入れるゴミ箱から出てきたこの幽霊なんかがそうである。彼は最近事故死した若者で、幽霊になるのに必要な『未練』や『エネルギー』が満ち満ちていたのだ。さて、彼の行動を見てみようか……。
若者の幽霊が、捨てられた空き缶を並べている。時間も時間なので、この路地には人が来ず、この空き缶が勝手に動いている奇怪な光景を目にする者は誰もいない。
「フゥ〜!ようやく俺の時間が来たぜ〜!」
彼の声は誰にも届かない。
「どうせ誰も来ねーし……空き缶でピラミッドでも作って遊ぶぜ〜!!」
カン、カン、空き缶の積まれる音だけが響く。
「あっしまった!」
カン!カララ〜ン、と、一際大きな音が響いた。夜中なのでとてもうるさい。
「倒しちった……クソッ!もう一回だ〜!」
「コラーーー!!!」
不意に起こった怒鳴り声に、若者は心臓が止まるほど(もう止まっているが)驚いた。振り向けば、この辺りではよく知られた高校の制服を着た女の子が立っていた。
「な、何だよ!こんな時間に何してんだ!女の子がたった一人でよォ!」
彼の言うことはもっともである。
「あんた、幽霊でしょ!幽霊なら……もっと静かに、生者に迷惑をかけないようにしなさい!!」
若者はいよいよ不気味に感じ始める。この少女はなぜ自分が幽霊であることを知っているのか、と。
「う、うるせぇよ!どうせだれも気付かねぇんだ!何しようと勝手だろ!」
「あっそう、そういう態度とるんだ」
若者はドキリとした。少女の目が、視線がとても冷たくなったからだ。まるで人が叩き潰した蚊を眺めるかのような、そんな目になったからだ。
「ならば消えろォ!除霊チョップ!」
少女が腕を掲げたと思ったら、若者の後ろに一瞬の内に移動していた。
「な、なにを……グ、グワァー!なんだこりゃあ!!」
若者が取り乱すのも仕方がない。なにしろ、自分の体が胴のあたりで真っ二つになっているのだ。若者がそれを認識した時にはもう遅く、彼は煙のように消えてしまった。
「成仏完了!」
少女は笑みを浮かべ去っていく……。
とりあえず、こういう風に困った幽霊もたまにはいるものなのだ。
……あの女の子は、恐らく除霊師であろう。といっても、やり方がかなり強引だが。
通常、街に一人や二人は除霊師がいて、悪さをしたり生者に迷惑をかける幽霊がいた場合に除霊を行っている。これは裏稼業であり、誰もその存在を知らない、本人達以外は。
そうそう、これを言っておかないといけないのを忘れるところだった。このお話は、某県某市の夜の闇に隠された除霊師達とその世界に迷い込んだある少年のひと冬の冒険を追った物語である。ご期待ください、なんてね。
主人公、名前すら出てません。