アドルフ、喰らう
やぁ、諸君
私はアドルフ、由緒正しき大王具足虫である
ひょんなことから人間達の厄介になる事になった
…やたらと自分を売り込んでいた?
…なんのことであろうか?
それは良いとして、今日は私の華麗なる一日の一幕をお話ししようと思う
…話し方が普通?
それはそうであろう。これは私の心の声、いわばモノローグなのだから。あの発声がしにくい体であるのなら、多少声が遅れたりはするであろうが、これは私の思考でしかない。遅れる訳が無かろう?
では、今日の朝の話だ
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「おはよう!アドルフさん!」
「あぁ…おはよう…葵少年」
この、雄であるか雌であるのかわからぬ少年は、成瀬葵少年である
私の価値を見出だした、とても先見性のある少年である
なぜか、番の相手は雄であるが…
「今日は…学校で…あるか?」
「そうだよ?あ、アドルフさんのご飯だけど…」
うむ、食事か
私の数少ない楽しみである、この少年の作る御飯を堪能することはとても大切な日課だ
「今日はこれね、じゃーん!」
「なんと…これは…?」
思わず、水槽から身を乗りだしてしまった
そこに並んでいたのは、ホッケの干物と味噌汁、そして漬け物とご飯である
「それじゃ、ちょっとごめんね、アドルフさん」
「うむ…」
そう言って、葵少年が私を水槽から出してくれる
食器も私に誂えたのか、すこし小さめとなっている
「では…早速…」
前足を使い、椀を傾ける
うむ…今日もよい仕事だ
油揚げは私に合わせて小さく切られ、豆腐も味噌の味をしっかり含んでいる
「食べ終わったら、そのまま置いておいてね。あと、お昼はそこに作りおきがあるから。水槽に戻るときはこの梯子使ってね」
「うむ…分かった…」
そう言って、私の水槽に梯子をかけてくれる
「それじゃ、行ってくるね、アドルフさん」
「うむ…しっかり…学ぶのだ…少年…」
「はーい。いってきまーす」
「いってらっしゃい…」
さぁ、私は朝食を堪能することにしよう
まずはホッケだ
前足でつつくと、簡単に身が解れた
ホッケの干物特有の、香ばしい匂いが溢れてくる
「では…頂こう…」
口に含むと、柔らかな身の感触と程よい塩気が広がった
共に置いてある白米を含み、堪能する
漬物は…蕪の浅漬けであるか
これもまた、舌を飽きさせなくて良い
夢中で食べている内に、すべて空になってしまった
「うむ…よい仕事である…少年…」
腹がくちくなった私は水槽に戻り、暫しの睡眠を堪能する
さぁ、昼御飯はなんであろうか…
隆成「おい、このムシ結局食っちゃ寝してるだけじゃねぇか」
葵くん「まぁ、ペットの仕事なんてそんなもんだし」