アドルフ、誕生
「どうしたんだ?葵」
「あ、悠!」
彼は園田悠、僕の通う学校の生徒会長だ
僕との関係は、幼馴染みで、同じ生徒会役員で…
僕の、恋人だったりする
まぁ、その話は今は置いといて、今はこの彼(?)をどうにかしないと
「このグソクムシさんなんだけど…」
「グソクムシ?」
悠は不思議そうだ
まぁ、いつもならうさぎとかねことか可愛い生き物を見てる僕が、こんなところでおっきなダンゴムシを見てたら不思議に思うよね
ふと、グソクムシさんが動き出した
「…おお…そこの…少年」
「虫が…喋った?!」
…まぁ、びっくりするよね
「少年…私は虫ではない…ダイオウ、グソクムシだ…」
ダイオウなのは重要なんだね…そこだけ強調するなんて
「少年…私を…飼わないか…。三食昼寝つきを所望する…日の当たらない所に置いてくれ…」
…重要なんだね、そのセールスポイント(?)
「えっ…と…これは」
「うーん、さっきからこのグソクムシさんに話しかけられててさぁ。飼って欲しいみたいなんだけど、どうしよう…」
「うーん…藍香ねーさんが許すかな」
「虫、ダメだもんね…」
どうしようかなぁ…
「おーい。葵くん、悠くん、そろそろ帰るぞ」
ふと、強面のヤクザさんに話しかけられた
「…おい、葵くん、今妙なこと考えなかったか?」
「い、いや?そんなことないよ?にーさん」
この、子供が泣き出しそうな強面のヤクザさんは…
「おい…」
心を読まないで欲しい…
この少し強面のおにーさんは、僕の義理の兄の篠崎隆成さん
姉の藍香ねーさんの旦那さんだ
強面だけど、とっても優しい人なんだ
…ヤクザ扱いされて落ち込む位の
「また失礼な事考えてたな…」
「心を読まないで欲しい…」
「葵は顔に出るからなぁ…」
そうなの?!悠
「お取り込み中の所…すまないが…」
申し訳なさそうに、グソクムシさんが手(前足?)を上げる
「あ?今の声はなんだ?」
「私だ…」
「虫が…喋ってる?」
あ…なんかデジャヴ…
~数分後~
「成る程な」
「飼っては…頂けないかな…にーさんや」
「おい、誰がにーさんだ」
…仲良くなりそうだ
「…んで、二人はこいつをどうしたいんだ?」
「うーん…」
正直、喋るグソクムシさんとか面白いから飼いたいけど…
「ねーさんがなぁ…」
「あー…藍香は嫌がるだろうな…。まぁ、それは良いとして」
…良いのか?
「葵くんは飼いたいのか?」
「…うん」
「世話、出来るんだろうな?」
「…がんばる」
生き物のお世話なんて小学校の生き物係以来だけど
「しょうがねぇなぁ…」
暫し、考え込んだにーさんは、チラッと水槽を見たあと溜め息をついた
グソクムシさんも緊張してるみたいだ…
「あー、分かった。藍香はなんとかしとく。ちゃんと世話しろよ?」
「…!ありがとう、にーさん!」
「良かったな、葵!」
「うん!よろしくね!グソクムシさん!」
「うむ…」
こうして、僕たちに家族が増えた
やったね!
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「…所で、ソイツの名前は決めたのか?」
名前?あー…いつまでもグソクムシさんだと変だしね
「なんかいい名前あるかな?」
三人で暫し悩む
「ムシ」
にーさん、まんまだよそれ…
「チー介」
どこにチーと介の要素があるの悠!
「少年…」
「あ、グソクムシさん」
挙手をするように手を上げるグソクムシさん
「私の…名前…か?」
「うん、そうだよ?」
「それならば…もう…ある」
「あ?ムシの分際で名前があるのか?」
「それはあるに決まっている…にーさんや…」
「おい、にーさんて呼ぶの止めろ。俺はこんなゴツゴツした弟はごめんだ」
「それは…すまなかった…」
「分かれば良いんだ」
「にーさんや…」
「分かってねぇ!てめぇ、喧嘩売ってんのか!」
にーさん落ち着いて!警備員さんが見てる!
「それで、なんて名前なんだい?グソクムシくん」
悠!ナイスフォロー!
「私は…アドルフ」
「え?」
「は?」
「あ?」
「ダイオウグソクムシの…アドルフだ!」
~後日談~
ある日にーさんの部屋を覗くと、半裸に剥かれて拘束されたにーさんが、ベッドの上で悔しそうにしていた
その正面で、人にはお見せできない顔をした藍香ねーさんが、舌なめずりをしながら不気味な笑い声をあげて、なにかを紙に書き込んでいた。
所々聞こえる、「総受け本」とか、「よくもあんなムシを私に内緒で」とか、「ふふふ、その表情良いわよ隆成…いっぱい美少年と絡ませてあ・げ・る♪」とか、僕には意味がワカラナイ言葉が飛び交っていたけど、夫婦仲が良いのは良いことだよね!そうおもいました、まる!