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黒輪っか亭にユキ子さん

二話目で既にブクマや評価を入れてくれている人がいて感動しました。期待にこたえられるように頑張っていこうと思います。


「いらっしゃい!」


アルさんに教えてもらった食堂は、木造りの和やかな様相をした建物でした。表通りに向けて屋根からぶら下がっている看板には『黒輪っか亭』と手書きされています。


入り口に立つと、女将さんらしき人の元気な声が私に向けて飛んできました。お昼時なためか、中はほぼ満席で人だらけ。賑わっている中でも私にはっきりと声が聞こえるくらいに女将さんの声はよく通ります。

見た目は三十くらいでしょうか。細身で背が高く、短く刈りそろえた髪はなんだか男らしい感じです。


「ほら、そんなところでぼさっと突っ立ってないで空いてるとこ座りなよ!」


「あ、お客さんじゃなくてここで働かせてもらおうと思ってきたんですけれど……」


「なんだって? 今忙しいんだ!」


あ、これはダメなやつでしょうか。きっと後で出直し的なさいとか言われてしまうやつですね。


「さっさと手ぇ洗って、これ運んで! やるこたいっぱいあるよ!」


「!?」


「ほらこっち、ちんたら歩いてないでサクサク歩く!」


「は、はい!」


よくわからないまま言われたとおりに厨房の方へと向かった私を女将さんが歩くのが遅いと叱責します。


「よし、じゃあこれ運んで! あの窓際のビンボーそうなおっちゃんとこだよ!」


「ははは、女将さん、ビンボーそうなんてそりゃあねぇよ」


女将さんの言葉に窓際のおっちゃんが笑って返しました。一瞬すごいことを言うなと思いましたけれど、どうやらいつもの光景の様です。


私は女将さんから受け取ったお魚の定食のようなものを、そのおっちゃんのもとへと運びました。


「おう、ギルドで聞いてたぜ、出稼ぎだってな、頑張れよ」


「あ、はい。ありがとうございま「ほら早く! 次のがあるよ!」


「は、はい!」


私はおっちゃんにぺこりとお礼をすると、女将さんのところに向かいます。


「次こっちの肉ね、あのパーティ席にいる細身の姉ちゃん」


「はい!」


私が女将さんの指さした方へと目を向けると、大勢の人が座る円卓の中、にこやかな表情でひらひらと手を振っているお姉さんが見えました。きっとあの人でしょう。


「ハァイ」


「お待たせしました」


「ふふっ、いいわよそんな、あなた、出稼ぎに来てるんでしょ。私にもあなたくらいの妹がいてさ、人ごとに思えないのよね。困ったらいつでもお姉ちゃん頼っていいのよ」


「おう、俺もいるぞ。困ったらいつでも頼れよな」


今度はお姉さんの隣の男の人です。


「ちょっと、あなたロリコンだったの? 普段こんな風に声なんてかけない癖に」


「ちげぇよ。かわいい子だから心配になってよ。それに、十五くらいになったらきっと随分綺麗にになんじゃねぇか?」


「あ、あの、私十五歳です……」


「「!?」」


私の言葉に二人だけでなく、周りの人も目を見開いていました。


「十歳くらいだと思ってたわ……」


「俺も」


そんなに私は子供っぽく見えるのでしょうか。確かに十二になる妹にも身長は抜かれていますけれども……



「ほら、次のが待ってるよ! 早く運んでおくれ!」


お客さんがいっぱいで女将さんも大変そうです。忙しそうにしている私を見たお姉さんたちには頑張ってねと手を振られたので私も手を振り返しながら席を離れました。


「ほら、もういっちょ肉だ!」


「は、はい!」




こんな調子で二時間ほどして人が減るまで、ずっと私はお店の中を駆け回っていました。

今はお客さんの流れも落ち着いて、女将さんと二人でお皿をじゃばじゃば洗っています。


「いやあ助かったよ。いつもは昼間こんなに混むことないんだけどね、急に天気が悪くなってきたからみんな外に行く仕事を辞めるか切り上げるかしてきたんだろうねぇ。それにあんたとお客さんの会話をちょこちょこ聞いてたけど、なに? アルにここ薦められたんだって? それ聞いてた冒険者どもがどうにもこぞって来たみたいだしね。まあウチは大変だけどさ、頑張んなよ」


女将さんはそういってにかっと笑いました。


「ところであんた、名前は?」


「えっと、ユキ子っていいます」


「へぇ~、この辺りじゃあんまり聞かない名前だね。あたしゃあリッツっていうんだ。よろしく」


「よろしくお願いします。リッツさん」


私が頭を下げれば、その頭をリッツさんがぐしぐしとかき回しました。たぶん撫でてくれているんでしょうけど、ちょっと痛いです。。


「部屋は二階の窓際の部屋が空いてるからそこ自由に使いな。見た感じ、手荷物は腰のポーチだけだろ? しかしまぁ、よくそんなんで村から街までこれたねぇ」


「えへへへ……雪女は実はそこまでエネルギーを使わないので、食事とかもすごく少量で済むのですよ。といいますか、エネルギーを一度に大量に使うと体温上がっちゃうので、基本的に少ないエネルギーで生きていかないといけないのです。だから持ってきた荷物もポーチに入る分だけの小物とお金だけだったんです」


私がそう説明すると、リッツさんは驚いた表情になりました。一度目は雪女といったところで、もう一度は体温が上がってしまうという所で。


「雪女って物語でしか聞いたことないけど、ほんとにいたんだねぇ。アルのやつ、人ごとに思えなかったのかな。それに、体温上がっちゃうって言ってたけど、そうなると溶けたりとかしちゃうのかい? とすると、火を使う料理は控えた方がいいかな」


「料理くらいなら大丈夫ですよ。体温上がっちゃうと説明は難しいんですけど、人でいう熱中症みたいな症状が出てくるんですよ。あとはまぁちょっとごにょごにょ……」


「まあいいや、明日からまたよろしく頼むよ。長旅で疲れてるだろうし、今晩はのんびりしていてくれればいいからさ」


色々と言葉にするのが恥ずかしいのでもじもじしていたら、リッツさんは何かを察してくれたのか、その話題を切り上げてくれました。

なんだかありがたいとともに申し訳なく思います。


そんな会話をしながらお皿をじゃばじゃばしていたら、新しいお客さんが入ってきました。


「お、ギルドで聞いたけど、新しい子がはいったんだって?」


と一人、二人、三人、四人……ぞろぞろと大量に人が入ってきました。


「いらっしゃい。今日からこの子はうちの看板娘だよ! 出稼ぎに来てるらしいからね、しっかり金落としてっとくれ!」


「ははは、相変わらず女将さんは商魂たくましいね」


お客さんとそんな会話をしながら、女将さんは濡れた手を近くのタオルで拭うと、そのまま私の肩にぽんと手を置いて言いました。


「悪いんだけど、さっき今晩はゆっくりしてくれっていったの、それ無しでお願い。まあこんなのは今日くらいだけだし、もうちょっとだけ頼むよ。お客さんもあんたを見に来てるみたいだしさ」


「はい!」



街へと出稼ぎにきて、既にいろんな人に出会うことが出来ました。これからの『黒輪っか亭』での生活も、大変そうですけど充実した日々になりそう、そんな気がします。


仕送りいっぱいできるといいな。












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