ミブンショウメイショが欲しいユキ子さん
私の村では見たこともないような大きな石造りの建物はそのまんまの立方体に扉や窓が付いただけのシンプルな構造でした。
ここが熊さんの言っていた冒険者ギルドですね。近くで見ても遠くから見た時と全く印象が変わりません。真四角です。
雪とか振った時、屋根の上の掃除とかどうするんでしょう?雨も流れていかないですよねこれ。
それでも色んな人が出入りしているので非常に賑やかです。
右を見ても左を見ても二、三人は人がいます。私の村ではこんなに人はいませんでした。流石、街。
それでは早速入ってみましょう。身分証明書を作ってもらわないといけません。そしてショクアンに行くのです。
あれ? ここがショクアンでしたっけ?
とりあえず木でできた古臭い扉をゆっくりと開けてみます。
中には丸い木製のテーブルがいっぱいあって、その周りをごついおっさんや妙に露出の高い女の人とか、様々な人が笑ったり、泣いたり、怒ったり。お酒のようなものを飲んだりして語り合っています。
一歩踏み出して中に入ると、木製の床、こん……っと小気味のいい音が鳴り、冒険者ギルドの中に静寂が訪れます。当然のように皆さんの視線は私の方へと集中しました。
「あの……こんにちは」
おそるおそる挨拶をする私のところに、ひときわ体格のいいお兄さんが寄ってきました。
目つきも悪くて、顔を横切るように鼻の頭に傷もあります。なんだか怖いです。
「おう、嬢ちゃん、こんなところにどうしたんだ? 登録か? 出稼ぎか?」
「えっと……ミブンショウメイショとやらを作ってもらいに来たのですけれど……」
「なるほど、出稼ぎか! じゃああっちのカウンターにいるキレーな姉ちゃんのとこにいきな! 丁寧にいろいろ教えてくれるぜ!」
あれ? 顔に似合わず親切でした。失礼なこと思ってごめんなさい。
「ちょっとゴウル! また新人に絡んでんの?」
と、今度は妙に露出の高い服装をしたお姉さんがやってきました。体の面積の半分くらいしか隠れていませんが、覆われている部分はどうやら金属なので、あれは軽戦士用の装備か何かでしょうか? 肩まで伸ばした癖っ毛がふわふわ波のように揺れています。どうやらこの目つきの悪い男の人の知り合いの様です。
「なんだよプラネ、いいじゃねえかよそれくらい」
「良くないわよ! あんた顔が怖いこと自覚しなさいよね! その顔で何人新人を泣かしてきたと思ってんの!?」
あ、やっぱり皆さんそう思うのですね。
「んだよ。新人に恩と顔を売るいい機会だろうが。声かけて何が悪いってんだよ」
「恩はともかくあんたの顔は一度見たら誰だって忘れないから安心しなさい。あ、君もごめんね。このおじさん、顔はアレだけど言ってることはほんとだから。あの受付のお姉さん、君みたいな初めての子にはすっごい丁寧なのよ。じゃあ、出稼ぎ頑張ってね」
お姉さんは目つきの悪い男の人の耳を引っ張って元いた席へと戻っていってしまいました。
なんだったのでしょう。これが噂に聞く新人への洗礼というやつなのでしょうか。
ともあれ、私はおススメされた受付へと向かおうと向き直りました。見れば、受付のお姉さんは一部始終を見ていたのでしょう。私に向けて手を振ってくれています。
分かりやすくて助かります。
私は呼んでくれている受付のお姉さんのところへと向かいました。
「はぁい♡ 新人さんいらっしゃーい」
「こんにちは~。ミブンショウメイショとやらが欲しいんですけれど」
「はいはいおっけーよぉ~。っと、その前にいくつか質問♡させてもらうわね」
受付のお姉さんは随分と明るい方の様で、私相手にも気さくに話しかけてきてくれます。
ただ、いちいちポーズを取ったりその大きな胸の谷間を強調するのはやめてほしいですね。発情期でもないのになんだか変な気分になりそうです。
まあそんなことが私に言えるはずもなく。
「じゃあまず一つ目ね。名前を教えてくれるかしら?」
「えっと、私はユキ子といいます」
「はいありがとぉ~。次は、種族と出身地ね~」
何か難しそうな用紙に私の名前を書きながらお姉さんは続けました。流石に書いている間はポーズは取らない様なのですが、それでもその大きな胸元のばいんばいんはペンを動かすごとにばいんばいんしています。
「種族は雪女で、コオリ村から来ました」
私の答えに、お姉さんが一瞬止まりました。慣性のせいかばいんと胸だけが大きく揺れます。
お姉さんは目をまん丸に開いて
「珍しいわね。私、初めて雪女の子を見たわ~。すっごい今更だけど、そのお腹のところに帯を巻いている服って雪女の伝統の衣装なのよね。すごーい、雪女って言われるまで全然気づかなかった。コオリ村ってほとんど伝説みたいなものなのよね。人と魔族の中立をずっと保っている雪女の里。雪女の例にもれずにユキ子ちゃんもきれいな顔してるわね~」
「あ、あの~」
「あ、まくしたてちゃってごめんね。あんまり珍しかったから、つい興奮しちゃったわ」
お姉さんはそういうと直ぐに元の表情に戻り、用紙にいろいろと書き足していく。
「それじゃあ次ね。この街には何しに来たの……ってまあ分かってるんだけど、一応確認ね」
「えっと、働いてお金を稼いで、お母さんたちのところに仕送りしようと思ってます」
私の答えに満足したのか、お姉さんはうんうんと頷きました。
「じゃあ最後に、この水晶玉に触ってね。たぶん大丈夫だと思うけど、犯罪歴がないかとかいろいろ調べさせてもらうから。それがそのまま身分証明書のカード……俗に言う冒険者カードなんだけど、それになって水晶玉の下に出てくるから、そしたら終わりね~」
「わぁ、はいてくですね」
「そうよ~、はいてくなのよぉ~」
私はお姉さんに導かれるままに、水晶玉に手を置きます。
水晶玉からは、淡く白い光がポヤポヤと靄のように沸いていて、なんだかすっごく冷やしたものみたい。
「はい、おっけ~。出来たわよ」
お姉さんが、ぽん。と水晶玉の下から取り出した板のようなものを私の手の上に乗せてくれました。
そこには
ユキ子
ランク:G
種族:雪女
短く、こう書いてありました。
「ふわあ……」
なんだか感動しました。街に来てから、初めてだらけでびっくりです。
「とりあえず身分証明書は出来たわけだけど……ユキ子ちゃん、これからどうするの?」
お姉さんに言われて気付きます。ミブンショウメイショを作ることばっかりに気を取られて先の事は何にも考えていませんでした。はてさて、どうしましょう。
「特に決めてないんだったら、お姉さんの知り合いのお店で働いてみない?」
このおっぱいのお姉さん、なんて優しいんでしょうか。
「冒険者ギルドの隣にある食堂なんだけどさ、私――――アルシードの名前を出せばたぶん雇ってもらえるよぉ」
おっぱいのお姉さん――――改めアルシードさんは、唇に人差し指を当てながらにっこり。
「ありがとうございます。アルシードさん」
「アルでいいわよぉ~」
「はい、アルさん」
私の素直な疑問です。新人に優しいとは先ほどの赤毛の女の人から聞いてはいましたけれど、まさかお仕事まで世話してもらうなんて思ってもみませんでした。
との旨をアルさんに伝えてみたところ。
「私も、人からしたらちょ~っとだけ珍しい種族だから、あんまり人ごとに思えないのよねぇ」
そういってアルさんは耳元の髪をかき上げました。そこからは先っぽのとがった耳が覗いています。私はこの特徴を幼いころに見た絵本で知っていました。
「エルフさんですね!」
「そ、正解」
アルさんはクスリとほほ笑んだのでした。
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