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夜遊びユキ子さん


死んだ魚のような表情で。


「まっするまっするぅ~……」


『黒輪っか亭』のカウンターで力尽きているノーコちゃん。口から何か魂のようなものがふわりふわりと浮かんでいます。

とある昼下がりの午後の事でした。

ここ最近は毎日のように何かしらのクエストを受けて街の外に言っているようなので、疲れているのでしょうか。


「ノーコちゃん、お疲れの様ですけど、いったい何のクエストをこなしてきたのですか?」


「…………」


「ノーコちゃーん?」


「……ああ、ユキ子」


「随分とお疲れの様ですね」


「まあね。でもどちらかっつったら疲れてるのは身体よりも心よ。ここ最近討伐クエスト受けてるんだけどさ、あのおっぱいの受付、アタシが持ってくクエスト全部却下してくんのよ。そんで「代わりにこれなら受けていいですよ♡」とか言いながら渡してくるクエストがマッスルキノコでさ」


「……ご愁傷さまです。でも、嫌なら受けなければいいじゃないですか」


「ランクが上がればちょっとは解禁してくれるって言ってたのよ。だから早く次のランクに上がりたいのよね。いつまでもGのままじゃ、ろくなクエスト受けられないわ。それに、キノコだって初めは断ったのよそしたらネギとかコンニャクとかの魔物の討伐を勧めてきたのよ」


ファストの街の三大特産品……ミラクルネギ、スライムこんにゃく。どのみちまともなものではなさそうです。


「受けたはいいんだけど、キノコ並みに酷い目見たわ」


「あ、受けたんですね。実際に遭遇してみてどうでした?」


「…………聞きたい? って耳に手を当ててんじゃないわよ! 聞きたくないなら初めから質問しないでよ!」


私は耳に両手を当てて、拒否のポーズを取りながら言います。


「このまえ私とやった配達みたいな仕事だってあるじゃないですか。そういうクエストでポイント稼いだっていいじゃないですか」


「それは次の休みにでもユキ子手伝ってよ。アタシ、一人で街を歩きたくないし」


「? どうしてです?」


聞くと、ノーコちゃんはぷいっと顔をそむけました。

その反応で私はある考えを思い付き、ポンと手を胸の前で鳴らしました。


「もしかして、方向音痴さんですか?」


「べっ、別に道が分からないとか同じような風景の区別がつかないとか気づいたら街の外に出てたとかそんなことないんだから! 方向音痴なんかじゃないからね! そこんとこ間違えないでよ!」


そうですか。

ノーコちゃんは方向音痴さんだったのですね。方向音痴の姉さんが道を迷ったときに今のノーコちゃんと全く同じ行動をしていたのですぐにわかりました。


「ところでユキ子、今夜暇?」


「夜ですか? お仕事終わった後なら時間はありますけど、結構遅い時間ですよ」


「それでもいいわ。ちょっと行きたいところあるからついてきてよ」


「? まあ、いいですけど」


いったい何処へ行くつもりなんでしょうか。

きっと夜になれば分かるのでしょう。


先ほどまで力尽きていたのに、なぜか今は妙にやる気になっているノーコちゃんに私は首をかしげました。









「夜は風が涼しくて気持ちいですね」


夜のファストの街はほとんどの家の明かりが消され、わずかな街灯が照らすだけの昼間とは打って変わった不思議な姿でした。

石畳の道も、木で作られた家屋も、レンガ造りの建物も、全てが等しく幻想的です。


一歩進めば、夜風がさわさわと私の頬を撫でていきます。

そんな朧な暗闇の中を、ノーコちゃんと二人歩いていました。


「ところで、昼間ノーコちゃんが言っていた行きたいところってどこなんですか?」


「別に、夜の街をユキ子と散歩したかっただけよ。一人だとちょっと怖いし、かといってあんまり人数がいても困るから」


「むぅ……その言い方だと私じゃなくてもだれでもいいような言い方ですね。なんだか悔しいです」


私は唇を尖らせ、頬を膨らませました。

私は明日も働かないといけないので帰ったっていいのですよ。と言おうと思いましたが、なんだか負けた気がしてやめました。それに、ノーコちゃんも私と一緒でこの街に来てからの日が浅いので、お互いに他に誘えるような人がいないのも分かっています。

だからそんな意地悪は言わないし、言えないのです。


「わっ。ごめん、ごめんてば。もぉ、ユキ子はすぐ顔に出るからわかりやすいのよ。ってだからアタシが悪かったから膨れないでよ!」


「……ノーコちゃんが頬を膨らませてくれたら許してあげます」


「何でそんな事……分かった分かったからそんな目で見ないでよ……こう?」


「えいっ」


美味しそうに膨らんだ柔らかいノーコちゃんのほっぺを、思いっきり突いてあげました。

ノーコちゃんは噴き出したよだれを拭きながら、慌てて私と距離を取ります。


「ぶはッ! ユキ子アンタ前もおんなじことしたわよね! ほっぺふくらましたら許してくれるって言ったわよね! 突いたらなんて誰も言ってないじゃない!」


「それはそれ、これはこれです。ノーコちゃんのほっぺは突くためにあるのですよ」


「子供か!」


「ノーコちゃんの方が年齢子供じゃないですか」


「ユキ子なんか年下のアタシと同じくらいにちんちくりんじゃないの!」


「…………」


「…………」


「……ぷっ」


「……あははははは! なんだか前にも似たようなやり取りをした気がするわ」


「そうですね」


そういえば、その時もお互いに笑いあって終わった気がします。


「あ、そうだ」


ひとしきり笑いあった後、ノーコちゃんは唐突に何かを思い出したようにつぶやきました。


「どうしたのですか?」


「ん、なんでもない。あんまし気にしないで」


とは言っているものの、それからのノーコちゃんは時々狭い路地や暗いところを覗きに行きます。


なんとなく何かしたいことがあるんだろうなというのはわかりますが、私には言いたくないことなのでしょう。


ノーコちゃんの表情を見る限り、大したことではなさそうですけれど。


それにしても、夜の街というのは本当に気持ちいいですね。昼間と違ってお日様が出ていないので、暑くもなく、私のような雪女にとっては昼間の街中と比べてかなり快適です。


空を見上げれば、満天の星空が。

私の故郷よりかはたぶん空の果てから遠いですけれど、それでも、建物の合間から見える夜空は絵本を切り取ったような不思議な綺麗さがあります。

その屋根の間を通り抜けるように流れる、星の川。


はふぅ。


思わずため息が漏れてしまいます。


気付けば私たちは街の一番北へとたどり着いていました。見たことのない門番さんが、あくびをしながら眠そうに目をこすっています。


「そろそろ帰りましょうか。夜の散歩も満喫したことですし。街を囲う壁沿いに帰れば、迷わず帰れるのではないでしょうか」


「そうね……」


「そんな物足りなさそう中をしないでくださいノーコちゃん。また一緒に夜の散歩しましょう」


私が言うと、ノーコちゃんは静かに頷きました。


明日も朝から仕事です。

がんばろう。




展開力がッ! 足りないッ!

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