表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の人形使い  作者: 零-Rei-
第一章 プロローグ
3/57

2


仮面の黒魔術師は、天に向って大きく両手を広げると、ブツブツと何やら呪文を唱え始めた。


すぐに彼女の胸元に吊るされたルビーがギラギラと異様な輝きを放ち始める。


そして、同時に、まるで、それに呼応するかのように、少女のスマホに映し出されたあの魔法陣も、再び、燦然(さんぜん)と輝き始めた。


しだいに高まりゆく仮面の黒魔術師の呪文の詠唱。


やがて、それが最高潮に達した、まさにその時だった。


身も凍り付くように冷たく、そして、生臭い悪臭を帯びた一陣の風が部屋の中を吹き抜けていった。


少女が反射的にブルブルっと身震う。


「何?」


少女は、(おび)えた顔でキョロキョロと辺りを見渡しながら、続けざまに言った。


「いったい何なの?」





ゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ


深い深い地の底から、まるで野獣の唸り声のような不気味な音が響き始める。


「怖い・・・」


そう小さく(つぶや)くと、少女は小さなその手で耳を(ふさ)いだ。


が、それを無視して、仮面の黒魔術師の呪文の詠唱はなおも続いていく。


そうしていると、やがて床下から何か得体の知れない黒い霧のようなものがモクモクと立ち昇り始めた。


それは、しだいに、辺りに充満し、その濃度を高めていく。


やがてその黒い霧はしだいに何者かの姿を取り始めた。


酷く、邪悪で、禍々しい、その姿は・・・。


悪魔だった。





(いびつ)(ねじ)れた2本の長い角。


グィとエラが張った(たくま)しい顔の輪郭。


チリチリに縮れた短髪。


太く逞しい眉。


釣りあがった切れ長の目。


その奥でランランと輝く真っ赤な瞳。


鋭く尖ったカギ鼻。


耳元まで大きく裂けた口。


その中では真っ赤な舌がまるで蛇のようにチロチロと乱れ踊っている。


その体は、雄牛のように(たくま)しく、その色は、暗闇のように黒い。


やがて、悪魔は、その逞しい漆黒の両翼を静かに(たた)むと、やおら口を開いた。





「何か用か?」


地鳴りのように野太く、威嚇的な声。


「いゃぁ・・・」


そう泣き叫びながら、少女が固く目を閉じる。


「大丈夫です」


すると、それを見た仮面の黒魔術師が落ち着き払った声で少女に声を掛けた。


仮面の黒魔術師の、その言葉に、少し、安心したのか、少女が、再び、ゆっくりと目を開ける。


「では・・・。


契約を」


そうしていると、仮面の黒魔術師が悪魔に向って言った。





「代償は?」


再び、悪魔の声が(とどろ)いた。


生贄(いけにえ)を・・・」


仮面の黒魔術師が落ち着き払った声で答える。


「生贄か・・・。


いいだろう。


で、その生贄はどこにいる?」


仮面の黒魔術師は、ゆっくりと少女を指差すと、続けた。


「ここに・・・」


少女が驚きのあまり大きく目を見開く。





「いゃぁ・・・」


酷く、怯え震える声で、そう叫ぶと、あわてて、立ち上がり、逃げ出そうとした少女の右腕を、仮面の黒魔術師がすかさずむんずとつかんだ。


「待ちなさい」


「いゃ・・・。


許して・・・」


「あなたが望んだ事なのよ」


怖ろしいほど落ち着き払った冷静な声。


「許して・・・。


お願い」


「駄目よ。


もう、遅いわ」


と、次の瞬間、仮面の黒魔術師の右手が少女の胸に深々と突き刺さった。





少女は、大きく目を見開くと、そのままゆっくりと自分の胸元に視線を落とした。


仮面の黒魔術師の右腕が手首まで深々と自分の胸に突き刺さっているのが見える。


「いゃぁ・・・」


少女は(かす)れた声で(うめ)いた。


しかし、不思議な事に、血は一滴も流れておらず、苦痛も全く感じない。


まるで夢の中の出来事のように・・・。


「大丈夫。


苦しまずに・・・殺してあげる」


その仮面の黒魔術師の言葉を聞いた少女が半狂乱でもがき始めた、その時、仮面の黒魔術師はゆっくりと少女の胸から自分の手を引き抜いた。


すると、その手にはまだ生々しく脈打っている少女の心臓が握られていた。





そうして、それを見た少女は、もがくのを止めると、凍りついたよう固まったまま、じっとその自分の心臓を凝視した。


やがてジワリと少女の顔に恐怖の色がにじみ始める。


浅く、早く、乱れ始める呼吸。


少女は、仮面の黒魔術師に向って、その震える小さな手を伸ばしながら、懇願するように言った。


「お願い、返して・・・」


が、仮面の黒魔術師は、少女のその必死の訴えを無視すると、ローブの下から一体の人形を取り出した。


高さ40cm程の金髪・碧眼(へきがん)のフランス人形だ。


そうしてそれを静かに祭壇の上へと置く。


それから仮面の黒魔術師は少女の心臓を握った右手をそのフランス人形の上へとかざした。





「では・・・。


血の生贄(いけにえ)の儀式を・・・」


そうして、そう言うと、仮面の黒魔術師は、呪文を唱えつつ、渾身の力を込めて、少女の心臓を握り潰した。


真っ赤な鮮血が人形の上へと(ほとばし)り落ちる。


同時に、少女の断末魔の絶叫が部屋中に響き渡った。


少女が、白目を()き、口から泡を吹きながら、胸を()きむしり、そのまま、床の上へと倒れ伏す。


そうして、しばらくのあいだ、少女は、ピクピクと小刻みに痙攣(けいれん)していたが、やがで、ピクリとも動かなくなった。


そして、それから、すぐに、


「悪魔よ。


この少女の願を(かな)えたまえ・・・」


と、まるで何事も無かったかのように落ち着き払った仮面の黒魔術師の声が響く。





そして・・・。


「解った」


と、悪魔の声が(とどろ)くと、同時に、血塗られたフランス人形のその目がランランと真っ赤に輝き始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ