表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の人形使い  作者: 零-Rei-
第四章 黒魔術連続殺人事件
17/57

9

9 霊視


僕と冬子さんは、二人、さおりちゃんの部屋に取り残された。


お母さんが居なくなって、気が緩んだのか、思わず、大きなため息が、一つ、漏れる。


そして、それから、ややあって、僕は、苦笑いを浮かべながら、言った。


「どうにも・・・。


まいりましたね」


冬子さんも釣られて苦笑う。


「えぇ・・・」


「全くのお手上げです。


冴子さんの気持ちがよく解りましたよ」


そうして、そんな愚痴をこぼしつつ、僕は部屋の真ん中へと歩いていった。





僕は、そこから、もう一度、よく部屋の中を見まわしてみた。


すぐに大きな木製の本棚が目に留まる。


何かさおりちゃんの人となりを知る事ができるかもしれない。


そんな事を考えながら、僕はさっそくその本棚に向かって近づいていった。


都市伝説、ホラー、オカルト等の様々な本がズラリと並んでいる。


どうやらさおりちゃんは相当なホラーマニアだったようだな。


そんな事を考えながら、僕はその中の一冊の本を手に取ってみた。


『呪いプレイ』


か・・・。


著名な携帯ホラー小説家北海佐織(ほっかいさおり)のベストセラー小説だ。


僕は、フンと軽く鼻を鳴らすと、その本を本棚の元あった場所へと戻した。


再び、辺りをキョロキョロと見まわしてみる。


そうしていると、その時、


ドスン


と、僕の背後で何か重たい物を投げ下ろしたような音が響いた。





振り返ってみると、冬子さんがベッドの上に例の大きなショルダーバッグを置いた音だった。


少し、前屈みになりながら、何やら細々と霊視に使う小道具を取り出している。


その様子を眺めながら、僕は、ベッドのところまで歩いていくと、冬子さんに聞いた。


「霊視の準備ですか?」


「えぇ・・・」


冬子さんが、チラッと僕を見上げ、続ける。


「いよいよ私の出番です」


「確かに・・・」


(つぶ)くようにそう言うと、僕はそのままベッドの縁に腰を降ろした。


そして、それからすぐに霊視のための小道具を取り出し終えた冬子さんもベッドの縁に腰を降ろす。





そうして、僕から少し離れたところに座ると、冬子さんは僕と彼女の間に縦横30cm程の正方形の皮のシートを広げた。


そのシートには何か星型の記号が描かれている。


五芒星(ごぼうせい)だ。


西洋ではペンタグラムとも呼ばれている。


古来より魔除けの護符として使われてきた。


日本でも、大陰陽師、安陪清明が愛用した事で知られている。


それから続けて冬子さんは膝の上に置いていた霊視用の魔除けのクリスタルを手に取った。


僕がもらっている魔除けのクリスタルよりも一回り大きく、銀製の鎖の先には銀製の輪っかが付けられている。


そして、やはり、表には五芒星、裏には九字が、彫り込まれている。


そうして、冬子さんは、その輪っかの部分を持つと、その霊視用の魔除けのクリスタルを皮製のシートに描かれた五芒星の真上に吊るした。





それから、冬子さんは、静かに目を閉じると、印を結び、呪文を唱え始めた。


すぐに、まるで、その呪文の詠唱に答えるかのように、霊視用の魔除けのクリスタルが、()を描くようにしながら、ゆっくりと皮のシートに描かれた五芒星の上を旋回し始める。


僕は、思わず、目を見張った。


なんと不思議なのだろうか。


冬子さんの力にはいつものように驚かされる。


そうしていると、やがてクリスタルの奥の奥から柔らかな光が溢れ出し始めた。


それはあらゆる禍々しきものを(はら)い清める癒しの輝きだ。


しだいにその輝きは力強さを増していく。


僕はその不思議な光景にじっと見入った。


そして、その間、


ブーン


と、かすかに音を発しながら、皮のシートに描かれた五芒星の上を魔除けのクリスタルがクルクルと旋回し続ける。





と、その時、


ピシッ


と、何か異様な音が響いた。


いったい何だ?


一瞬、大きく目を見開く。


と、次の瞬間、強烈な破砕音を伴って、霊視用の魔除けのクリスタルが粉々に砕け散った。


反射的に、()け反りながら、両腕で顔面をかばう。


いったい何が起こったんだ?


僕は恐る恐る腕をどかした。


霊視用の魔除けのクリスタルの銀製の鎖の部分だけがクルクルと虚しく回り続けているのが目に入る。


ややあって、冬子さんが、驚愕(きょうがく)の色を浮かべながら、(うめ)くように言った。


「やられました・・・」





しかし、事情が全くわからなかった僕は、矢も楯もたまらず、冬子さんに聞いた。


「いったいどうしたんですか?」


「えぇ・・・」


冬子さんが、いかにも悔しそうに唇を噛み締めながら、続ける。


「何者かによって霊視を妨害されてしまいました」


「何ですって?」


僕は、思わず、聞き返した。


「えぇ、ですから、何者かによって見事に霊視を妨害されてしまいました。


怖ろしく強力な霊力で・・・。


おそらく、あれは、何かの術を・・・そう、黒魔術を用いて霊力を増幅していたのでしょう。


とても防ぎきれませんでした」


なるほど・・・。





しかし、黒魔術を用いて、増幅していたとはいえ、冬子さんの霊力を上回るとは・・・。


恐るべき術者だ。


「いったい何者ですかね?」


「えぇ・・・」


冬子さんは、しきりに首を傾げながら、少し考え込んだ後、続けた。


「おそらく・・・」


冬子さんの次の言葉を固唾(かたず)を呑んで待つ。


「何者かの生霊(いきりょう)ではないかと・・・」


「生霊?」


僕は、思わず、オウム返した。





「えぇ、そうです。


それも・・・」


冬子さんは、そこで、一瞬、言い(よど)んだ後、ようやく続けた。


「恐ろしい事にも・・・怨霊と化していました」


「なるほど・・・」


僕は、思わず、(うめ)くように言った。


その生霊は怨霊と化していたのか・・・。


それは、確かに、恐ろしい事だ。





「でも・・・」


冬子さんは、悲しそうに顔を曇らせると、静かに続けた。


「生霊のまま怨霊になってしまうなんて・・・。


その人の人生に何があったのかは解りませんが・・・。


酷く悲しい事ですね」


「えぇ、確かに・・・」


しんみりとした調子でそう調子を合わせながら、深々と相槌を打つ。





それにしても、黒魔術をあやつる怨霊と化した生霊か・・・。


また厄介な相手だな。


そうして、ため息まじりに、そんな事を考えていると、冬子さんが言葉を継いだ。


「とにかく私も黒魔術に関してはそれほど詳しくないので・・・。


とりあえず、田中先生に相談してみようかと思っているのですが、どうでしようか?」


なるほど・・・。


僕も黒魔術に関しては素人同然だ。


彼ならいろいろと貴重な知識を教えてくれるに違いない。


いい考えだろう。


「えぇ、そうですね。


じゃ、そうしましょうか」


「では、田中先生には私の方から連絡しておきますね」


「えぇ、よろしくお願いします」


「それでは・・・」


冬子さんは、そこで唇をクィと捻ると、締め括るように続けた。


「アポが取れたらまた連絡します」





そうして、それからさらに少し取り止めもない世間話をした後、僕達はようやくさおりちゃんの家を後にしたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ