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「私ね、6コマ目がわからないの」

作者: 中里肴

「2060」


 非常に簡潔な表題だった。フォントにも一切の遊び心が無く、データとして提示されていたならば間違いなく企画書か何かと勘違いしていただろう。

 しかし、雑誌の質感や大きさから察するにこれは漫画雑誌のようであった。

 表紙を捲ると、見覚えのあるキャラクターの姿が、見慣れないタッチで描かれていた。


(なるほど、アンソロジーコミックか。)


 1ページ、また1ページと読み進めていくうちに理解した。表題の2060とは、2060年を指しているのだと。

 要するにこのアンソロジー本は様々な漫画の2060年の世界を描いているのだ。

 古今東西SFものからギャグ漫画まで、一度は目にしたことのある作品の「もしも」がそこにあった。どの作品も面白く、気が付くと私は夢中になってページを捲っていた。


「ん?」


 雑誌の折り返し地点を過ぎた辺りだった。私の眼はあるコマで釘付けとなった。

 それは、例に漏れず見知った漫画であった。ジャンルは恋愛コメディだったはずだ。冴えない主人公の周りに魅力的なヒロイン達が現れて--といった内容だったか。

 私の眼を惹き付けたのは1コマ目のヒロインの台詞だった。




「私ね、6コマ目がわからないの」




 メタ発言、というやつだろうか。非常に真剣な面持ちで、何かを訴えかけるような表情と相まってかどうにも気になる。先程まで読んでいた作品達と比較しても意味深長である。

 この漫画の6コマ目に何かがある。それは想像に難くない。

 私は固唾を飲んで2ページ目を開いた。

 しかし、台詞は無い。夕暮れの中、主人公がヒロインを連れ立って歩いている。そんな描写が3ページ目、4ページ目と続く。

 5ページ目、同じような構図。そして、6ページ目。


 変わらず、主人公の後ろを歩くヒロインの姿があった。


「嘘だろ、落丁なんて」


(まさか、数え間違えた?)


 しかし、何度見ても何の変化も見受けられない。自分の中の熱がスッと冷めるのが分かった。

 溜め息を吐きながらパラパラと残りのページを捲る。全て同じ--では無い。

 確かに構図は変わらない。だが、ヒロインだ。1ページ目と今開いている8ページ、見比べてみるとだんだんと色が濃くなっている。


「なるほどな」


 つまり、このヒロインは主人公の想像であって実在しないのだ。だんだんと色が濃くなっていくのは再会が近い事を表しているのだろう。

 次第に実体へと近づいていくヒロイン。そして--13コマ目、遂に目の前に現れたヒロインは




 主人公の手で首を絞められていた。




 その苦悶の表情があまりにも生々しくて、私は反射的に本を落としていた。

 混乱する脳内で、初めに見たあの台詞がリフレインする。




「私、6コマ目がわからないの」




 跳ねる心臓を押さえつけて、残りのコマを確認する。

 ヒロインの背中を追いかける主人公の姿があった。その背中は徐々に離れて行き--いや、逆だ。

 この作品には落丁など無かった。乱丁が起きていたのだ。作品が巻き戻しのように入れ替わって--。


 作品は全18ページ。それがページ毎に1コマ。


 ざわり、と総毛立つ感覚に襲われて



 私は夢から目覚めた。




(完)

 夢にしては割と整合性が取れていたので、短編にしてみました。

 内容的には文章よりも漫画のように絵と併せて表現出来れば良かったのですが、生憎文才以上に絵心が無い為断念した次第です。


次作ですが、実はプロットがあったりします。ホラーではありませんが・・・・(どういう因果かこちらも夢がテーマになります)

出来る限り早めに書き上げたいと思っています。

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