表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第一章 選ばれし少年
7/52

第六話 矛盾の提案

「あー、めんどくせー」



 クロノスたちが作戦を実行する前――

 アキレスは準備として、体育での鋭太郎の様子を、遠くから見ていた。

 鋭太郎がハンドボール投げの測定を、じっくり見ていた。


「……あいつ、人間か? 俺が寝ぼけながらテキトーにやってあれくらいだから――」

 突然、スマホが鳴り響く。


「誰だよ!」


 アキレスはスマホを取り出す。非通知で電話が来ていた。

 アキレスは電話に出る。

「もしもし?」


『オレオレ、オレだよオレ』


 ふざけた男性の声が聞こえてきた。


「いや、誰だよ」



『オレだってばオレ、エレボス』



「!?」


 エレボス――暗黒の神。

 ギリシャ神話ではアイテールの親だが、神世界のエレボスはアイテールの唯一の親友となっている。


「……俺になんのようだ」


『お前一回、カオスを逃したんだってな。ミネルウァの情報だが、実際どうなんだい?』


「……だったらなんだ」


『そんなに怖くなる必要ないって、お前に罰を与える訳でもないし。お前には・・・・・・な』


「!? どういうことだ!!」


『ま、今後も活動をよろしくな』


「待て! どういう意味だ! おい!」


 アキレスは必死に意味を問うが、エレボスは答えることなく電話を切った。すると今度はメールが届いた。


「何なんだよ一体――っ!?」


 メールに添付されていた画像を見たアキレスは、あまりの衝撃に体の力が抜け、スマホを落とした。



「嘘…………だろ………………」




   ※




 話は現在に戻る。

 人気のない、古びた建物が並ぶ空き地にて。


(ここは…………あの時の…………)


 ガイアに連れ去られ、夏織から力を分けて貰った場所に、鋭太郎はアキレスに連れて来られた。


「こんなところまで来る必要あったか?」

「ここなら、暴れられてもすぐに対応出来ると思ってな」


(やっぱり、相手は力ずく前提か)


 鋭太郎はいつ襲われてもいいように気を引き締める。

 アキレスは何かを考えるように頭を掻いていた。

「あー、敵にこんなことを言うのもおかしいが…………」

「?」


 何かを思い詰めながら話すアキレスの様子に、鋭太郎は不思議そうな顔を浮かべた。


「実際、俺はお前を誘き寄せたらそのまま気絶させるのが、作戦の内容だ」


(作戦か………だよなー。今頃荘夜たちも被害に遭ってるってことか)


「だが俺的に不意打ちで気絶させるのは、後味が悪い。それに、お前も無闇には戦いたくはないだろう?」

「交渉か? 言っておくが俺は最初から、夏織を差し出す気はねえぞ」

「………………」


 アキレスが少し黙り込むと、さっきまでのやれやれとした態度が消え、真剣な眼差しで鋭太郎を見る。




「……覚悟するしかないな」




「!」


 アキレスの呟きに、鋭太郎は身構える。戦いを『覚悟』して襲いかかってくる――そう思っていたからだ。しかし―― 


「――お前、姉がいたらしいな」

「っ!?」


 アキレスは攻撃を行わず、何故か鋭太郎の姉の存在の確認をした。


(何が目的だ!? ダメ元でも交渉を続ける気なのか!?)


「悪いが俺たちに隠し事は通じないと思った方がいい。個人情報なんざ簡単に盗み取れる知り合いがいるんでな」

「いや、別にそのことは百も承知だが…………いたらどうなんだ?」

「どうもこうもない。すでに亡くなってることも把握済みだ。少し話がズレるが――」


 アキレスが胸ポケットから写真を撮りだし、手裏剣のように鋭太郎に投げ渡した。


「…………!?」


 写真を見た鋭太郎は、驚いた顔で写真をじっと見つめ始める。


「そんなに意外だったか? 俺に妹がいる」

「…………」

「俺たちには両親がいなかった。ずっと二人だけで生活していた。任務に明け暮れる日々も、かわいい妹のおかげで乗り越えられた。シスコンだと思われても構わん」

「…………」

「おい、そんなに驚くことか?」


 瞬きもせずに写真を凝視していた鋭太郎に、驚くことくらい想定していたアキレスも流石に戸惑った。


「……一つ、聞くぞ」

「何だ?」




「お前の妹は、ガイアなのか?」




「……は?」


 鋭太郎の質問にアキレスは呆気に取られる。


「人の話聞いてたか? どっからその疑問が沸いてくるんだ 俺は一度もガイアの名を上げた覚えもないし、大体その写真にはガイアは写ってない。俺と妹だけだ!」

「…………いや、逆だ」

「へ?」


 鋭太郎が写真を見せると、アキレスの思考が停止した。




「この写真、ガイアしか写ってないぞ」




 写真にはベットで気持ちよさそうに寝ているガイアの姿が写っていた。


「……………………」

「しかも寝てる姿っておま――好きなのか?」

「ちがががががががががががががががう!!」


 アキレスは数秒遅れて恥ずかしくなり、鋭太郎から写真を奪う。


「これじゃない! こっちだ!」


 アキレスは胸ポケットから新たな写真を鋭太郎に渡す。


(否定しないってことは、好きなのか)


 新たな写真にはアキレスと、その妹と思われる金髪ツインテールの少女が仲良く並んで写っていた。写真のアキレスは今より少し幼く、人間世界でいう中学生くらいの人だった。


「…………似てるな。神世界で撮ったものか?」

「そうだが、なぜそこを問う?」

「だってほら、お前らは俺たちのことを指して人間世界って呼んでんだろ? 夏織たちってやっぱ本来は人の形してねえんだろ?」

「…………大体の奴らはな」


(となると……夏織と付き合う時は多少覚悟しておいた方が良さそうだな)


「俺はお前ら人間に近い種族だったから化ける必要もないが、生身で入れば人間世界の容量がパンクしちまうかも知れねえから、人間になった。まあ姿は全く変わってないがな」

「容量? 神はそのままの姿で入ることが出来ないっていうのか?」


 質問ばかりをする鋭太郎に対し、どうして敵にぐいぐい問いかけられるのか疑問に思いながらも、説明を始める。


「ああ。俺たち一体一体の質量はあまりにもデカすぎる。神世界はそれに対応できる莫大な容量を持っているが、人間世界は俺たち神々から見りゃちっぽけだ。もし俺たちがそのままの姿で入ろうとすれば何万人ものの人間が、謎の死を遂げる。それは人でいう『寿命』が尽きたってことになるが」


「いや、突然死んでるなら寿命とは言わないだろ」


「思い違いをしてないか? 長生きした人は皆、自分の死期を悟ったような思いをしているが、結局いつ死ぬかは誰にもわからない。明日、もしくは今日――いや、今という瞬間に突然死を迎えることになるかも知れない。

 実は寿命で死ぬのにはちゃんとした理由があってな。世界がパンクしないようにだ。世界を総べる主なんてものは存在しないが、どの世界でも生命は皆、世界が壊れないように自然と自ら死を遂げ、世界を守っている」



「確かに。言われてみると、そうかもしれんな。さて、話を逸らした俺が仕切り直すのも変かも知れないが――」

「?」


「写真を見せて、俺に何が言いたい」


「……………………」


 鋭太郎が話を戻すと、アキレスは再び黙って考えをまとめていた。

 その間に辺りが暗くなり、雨が降り始める。


「……姉がいたお前なら、理解してくれるはずだ」

「?」


「俺はある日、アイテールから緊急任務を出された。それは言うまでもない、カオスを力ずくでも連れ戻す任務だった。俺は正直怖かった。相手は神世界でもトップクラスの神。知り合いではあるが、カオスの性格上戦いは避けられないだろう。そうなれば俺も無事じゃあ済まない。自分で言うのも生に合わないが、俺は一度神世界を救った英雄。アイテールは俺なら見事に遂行してくると思ったのだろう。考えた俺は、妹のことも思い一度は断った」


(呼び捨て……狙われている夏織ですら『様』を付けてたのに)


「一度は?」

「ああ、くそ!!」

 アキレスは怒りを露わにし、地面を強く蹴った。強い衝撃音が辺りに響き、蹴った場所には地番沈下が起きた。


「あのクソ野郎は! 俺が行かないなら妹を他の神に売ると言ってきやがった!!」

「っ!?」


 鋭太郎の背筋が凍った。神世界のトップに立つ神がやることは、あまりにも冷酷だった。


「仕方なく俺は行くことを決めた。話を聞いたガイアも、俺とともに人間世界に行くことを決めた。ガイアは幼馴染みでな、よく妹が世話になってた。俺が任務を失敗、放棄すれば妹の身が危ないと思って俺についてきたんだろうな」


「…………」


 アキレスの話に鋭太郎はかける言葉がなかった。

 アキレスは雨の中、正座し額を地面に当て土下座する。


「こんなことをするのは虫がいいのは自分が一番わかっている。だが頼む!!」


「……………」









「俺を、仲間にしてくれ!!!」








「………………………………………………………………え?」




   ※




 学校――校庭にて。


「遅い! 何やってんのあいつ!!」

「……確かに、遅すぎますね」


 学校の先生、生徒を人質にし、荘夜を拘束したガイアとクロノスがアキレスの到着を待っていた。

 気づけば、あれから30分経過していた。

 二人がアキレスが来るのを待つ中、雨が降り始める。

 


「……雨降ってきた」

「雨に濡れて待つのは勘弁ですね。ここは僕が迎えに――ん?」


 二人が待ちくたびれていると、誰かがこちらに向かって歩いているのが見えた。


「アキレスぅ…………ではないみたい」

「先に来てしまいましたか。まあ、彼女がコンビニへ行くという謎の動きをしましたから、これくらいの想定外で作戦に支障はでません」


 夏織が、状況を理解した深刻な顔でアキレスたちの方にゆっくりと歩いている。


「姉…………さん……………………」


 荘夜が夏織の姿を確認し、不安を感じ始める。


「荘夜くん」


 誰かが、呟くような小さな声で荘夜に話しかけた。荘夜が横になった状態で声がした上の方を向くと、檻の中にいるクラスの担任である柚乃先生が、異常事態が起きてる今でも冷静に、真剣な眼差しで荘夜を見ていた。


「せんせ――」

「しー。静かに」


 普通に声を出そうとした荘夜に対し、柚乃先生は人差し指を唇に当て、静かにするよう促した。


「隙が出来たら先生のところへ。ゆっくりと、ゆっくりでいいから」

「……わかりました」


 荘夜は柚乃先生の意図がわからなかったものの、従うことにした。


「何の真似なの?」


 クロノスたちの近くまで来た夏織が強気で言った。その際、荘夜の縛られている姿も確認する。


「お待ちしておりました、カオス様。アイテール様がお呼びですよ」


 クロノスは忠実な執事の如く一礼を交えながら、優しく夏織を神世界に呼び戻そうとした。


「……あなた、クロノスね」


 どうでもいいと言わんばかりに夏織はクロノスから目を逸らし、片手で髪をくるくるといじっていた。


「左様。よくお分かりに」

「昔から虫唾が走るのよね。その態度、返って上から目線に聞こえるわ」


 夏織が鋭い目つきでクロノスを睨んだ。


「そうですか…………」

 

 クロノスも真剣になり、夏織に睨み返す。


「…………」


 この隙に荘夜は音を立てず、芋虫のように柚乃先生のもとに近づく。

 すると柚乃先生はしゃがみ、左手を荘夜の両腕の鎖に、右手を荘夜の両足の鎖にかざした。



「月<シール・レリース>」



「!?」


 柚乃先生がエフェクトを唱えた。普通の人間であるはずなのに。

 荘夜が驚いている間に、荘夜の両手足に縛られていた鎖が、音も立てずに粉々に消えていった。


「柚乃先生、あなたは――柚乃?」


 荘夜は先生の名前が気に引っかかった。


「ゆの・・・・・・ゆー・・・・・・っ!?」

「しっ、まだ動いちゃだめよ。動けないフリをして。隙を突くまで」


 動揺している荘夜に対して、柚乃先生は動かないように指示する。


「夏織様・・・・・・?」「あの人たちと知り合いなの?」「そんなことよりここから出してくれよ!」


 檻の中の先生生徒たちは戸惑いを隠せないが、意外と落ち着いている様子だった。


「で、これは何なの?」


 一方、夏織たちは荘夜の動きに気づかず話を続ける。

 夏織は人質の入った檻に指を指した。


「私に人質は通用しないけど」

「安心してください。それは人質ではないんです」

「は?」

「え?」


 クロノスの言葉に、夏織だけでなく仲間であるガイアも驚いた。


「人質じゃなかったの?」


 ガイアがクロノスに聞く。


「僕は一度も人質とは言ってませんよ。作戦の準備の時も、『学校の先生生徒を捕らえろ』とだけしか言ってませんし」

「確かに……じゃあ、何に使うの?」

「それは――おっと!」


 クロノスが丁寧に答えていると、夏織が殴りかかった。クロノスは冷静に回避する。


「いけませんね。人が話しているときに殴るなんて」

「あんたの話なんてどうでもいいの」

「カオス様は繊細な方かと思ってたのですが………もとい、あなたはパワー型でしたね」


 クロノスが話しているのを無視して夏織はひたすら殴りかかる。クロノスは後ろに下がりながら、夏織の拳をかわしていく。


「それでは埒があきませんよ。【ケイパビリティー】を使わないのですか?」

「なぜあなたがそれを言う? 不利になるだけだというのに」

「【ケイパビリティー】は神の個性そのもの。エフェクトとは違い自分にしか使えず誰も真似できない――いわばオリジナル能力。僕は神同士の戦いでそれを見るのが一番すきなもので」


 クロノスが余裕淡々とかわしながら話すと、夏織は攻撃の手を止め、一脚して後ろに下がる。


「そこまで言うならやってやるわ。荘夜が世話になったみたいだし」


 夏織が右手を強く握り、前に出すとその拳が金色のオーラが現れた。

 それと同時に夏織の右手に吸い込まれるような突風が起き、地面に生えた雑草が抜け、右手に吸い込まれたと同時に消失した。


「なるほど、ブラックホールもどきですか」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」


 関心を持つクロノスに対し、ガイアはつっこみを入れる。二人の体も徐々に夏織の右手に吸い込まれるよう引きずられていた。


「ですが残念です。それでは僕を倒すことは出来ない」


 クロノスは右手を鳴らす。

 すると、突風が収まる。





 ――草が空中に浮く。

 ――雨も空中で止まる。

 ――誰も瞬きをしなくなる。

 ――クロノスの腕時計の針が止まる。





 世界の時間が止まった――クロノスを除いて。


「僕の【ケイパビリティー】は時間の神に相応しい。『時間操作』魔力がある限りいくらでも時を止められ、戻せ、早送りできる。………と、言ってみても誰も聞いてませんが――いや、正確には聞けない――ですが。まあどうでもいいでしょう」


 クロノスは夏織のもとへゆっくり歩きながら話した。


「確か、アイテール様は生け捕りとおっしゃってましたね。最初から僕に頼めば無駄な出費を出さずに済んだはず――」


 クロノスは夏織の背後に回って当て身をしようとした瞬間――夏織が動いた。

 夏織はクロノスの横顔に裏拳を強く当てる。


「舐められた者ね。私が動けないとでも?」



 クロノスの【ケイパビリティー】である『時間停止』。発動されたらどうしようもない能力に思えるが、神同士の戦いではそうでもなかった。

 クロノスの『時間停止』には合図がある。時間が止まる瞬間のほんの僅か――目の前が暗転するのだ。その一瞬に、魔力を体全体に伝わらせ、血液のように循環させることで、時が止まった世界を認識でき、ある程度動けるようになるのだ。

 ただし、その間は魔力を全身に循環させ続けなければならないため、魔力を消費するエフェクトは使えない。使おうとすれば循環が乱れ、動けなくなってしまう。


 つまり、肉弾戦を好む夏織には、時間停止など無意味だった。




 しかし――

 



「舐めているのは、あなたの方かと」



「っ!?」


 夏織の裏拳をくらったクロノスだったが、平然を保って夏織の右脇腹を蹴り飛ばした。

 油断した夏織は、魔力の循環を途切らせてしまい、吹き飛んだ体が宙に浮いたまま落下することなく固まった。


「かなりの腕っ節だと、神世界で聞いたのですが…………この程度でしたか」


 クロノスが再び指を鳴らす。


 



 ――草が落ちた。

 ――雨も落ちた。

 ――皆が瞬きをする。

 ――腕時計の針が動く。





 時が動き始めた。


「うっ!!」


 夏織の体も吹き飛び始め、校舎の壁に強く体をぶつけた。夏織は大きな痛みを受け、体勢を立て直すことが出来ず倒れる。


「!?」


 視界から夏織の姿が消えたことに戸惑うガイアであったが、校舎側で倒れている夏織を見て、すぐに状況を把握できた。


「やっぱカオスでも、クロノスには敵わないよねー……って、あれ?」


 ガイアは反対側、檻の方に目を移すと、荘夜の姿がないことに気づく。


「あいつ、どこに消えた!」


 ガイアは周りを確認するも荘夜の姿は見えない。檻の中も確認するが、いなかった。

 それを知らず、クロノスは夏織の傍まで近寄っていた。


「これ以上の抵抗はしないでください。あくまで生け捕りですので。これ以上僕が攻撃するとあなたが死んでしまいますから――」


 クロノスが勝ち誇ったように警告すると、夏織は必死に体を起こし、右手に力を込めエフェクトを唱えた。




「混沌<パニッシュメント・ネメシス>!」




「っ!? しまっ――!!」


 夏織はクロノスの腹に渾身の一撃を入れた。クロノスは不意をつかれ、まともにくらった。だが――。




「…………?」

「えっ…………!?」




 ――クロノスの身に、何も起きなかった。



「どうして、どうして!!」


 夏織は何度も何度もクロノスを殴る。だが何も起きない。ただ打撃を入れているだけ。なぜかエフェクトが発動されないのだった。


「僕はなんて運がいいのでしょう」


 クロノスは夏織を強く蹴る。夏織は力尽き、起き上がれなくなった。


「何がどうなっているかはわかりませんが、<パニッシュメント・ネメシス>が使えないあなたなど、恐れる必要もありませんね」


 クロノスが安心しながら、神世界製の鎖を取り出す。それを夏織に縛り付けようとしたその時――クロノスは背後に何かの気配を感じ取った。

 クロノスの影から荘夜が姿を現し、不意をついてクロノスに殴りかかった。


「おやおや」


 クロノスは動じることなく振り向き、殴り来る荘夜の拳をを右手で受け止める。


姉弟きょうだい揃って殴るのがお好きのようですね…………こんな拳、幼稚過ぎますが」


 クロノスは右手を強く握ると、荘夜の拳がボキボキと骨が折れる音が響いた。荘夜の拳は潰れ、骨がむき出しになったところから血が流れ出てくる。


「ぐゎぁあ!! あぁあ!!」


 荘夜はマグマを注がれたような痛みを受けるが、拳はまだクロノスに握られたままで、離れられずにいた。


「実に、残念です」

 クロノスは荘夜を蹴り飛ばす。その際、拳は握られたままだったため、右手が荘夜の体から離れた。荘夜は後ろに吹き飛び転がる。

 荘夜は痛みと衝撃で転がりながら気絶した。


「?」


 荘夜の体はある人の体に当たり、静止した。


「おいおい…………どうなってんだ?」


 ある人――かなり遅れてきたアキレスだった。

 体中が鎖で縛られ、芋虫のようになっている鋭太郎がアキレスの肩に担がれていた。


「おや、秋葉ですか」

「あーいーつー!!」


 クロノスがアキレスに近づくと同時に、ガイアが猛ダッシュで駆けつけアキレスの服を掴み寄せた。


「遅い! 何やってたんだよ!」

「うるっせーな。こいつが無駄に抵抗してくっから時間かかったんだぜ。無駄に力も強いから苦労したぜ」


 アキレスが鋭太郎を地面に下ろす。


「おい! 解けよ! この鎖暑いんだよ!! 脱水症状で死んだらどうすんだよ!!」


 鋭太郎が縛られてることに対して文句を言いつけてきた。ただ、内容が的外れのような気がするが。


「黙ってろ! お前が無駄に抵抗するからだ! 少しは我慢しろ!」


 アキレスが鋭太郎に言った。


「鋭……太郎…………」


 遠くから姿を確認した夏織だったが、クロノスの攻撃が重く、這い寄る力すら残っていなかった。


「で、こいつはどうすればいいんだ?」

「…………」

「おい、クロノス?」

「…………フフ」


 クロノスが突然、不気味に笑う。




「フフフフフフフ、フハハハハハハハハハ!!」




「おい、いきなりどうしたんだ?」

「そうだよ、何がおかしいのさ」


 クロノスの笑いに、二人が動揺し始める。




「やっと……やっとだ! これで僕は……最強の神になれる!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ