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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第一章 選ばれし少年
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第五話 奇襲

「荘夜、クラスのみんなはどう?」


「悪くない。皆優しい」


「そう、良かったわ」


「……………………」


「どうしましたか鋭太郎さん? 体調が優れないですか?」


「――いや、別に」



 昼休み――



 鋭太郎、夏織、荘夜の三人は机を迎え合わせ昼食を摂っていた。

 二年の教室――夏織のクラスにて。

 学校一の美少女とその弟、ついでに残念な天才(?)が揃っていると言うこともあり、クラスの目線も三人に集中し、他の人の昼食を妨害しているような状態になっている。


「そういえば聞きましたよ。鋭太郎さんハンドボール投げで学校新記録を出したみたいですね」

「………そうみたいだが」

「嬉しくないんですか?」

「俺の力ではないからな…………」

「いや、お義兄さんの力ですよ」

「え?」


 荘夜の発言に鋭太郎はキョトンとする。口調からして無理に擁護するような感じではなかったからだ。


「姉さんが言ってなかったみたいですが、実は神の力を人に与えて成功した事例が、他に一つしかないんです。いわば、お義兄さんが神の力を得た人間第二号です。お義兄さんにはきっと神の力と適合する素質があったのだと考えられます」

「…………また吹っ飛んだ話だな。微塵の確率でしか成功しないものをよくでき――できま、したね」

「?」

 鋭太郎が敬語に改まったのに夏織は不思議そうな顔をした。

「いや……ほら、一応先輩だし、今まで忘れてて…………」

「敬語なんてらしくないですよ。私はありのままの鋭太郎さんが――」


 夏織が何か大変なことを言いそうになり、隠すように素早く立ち上がる。椅子を退ける音にクラスの視線が一層増す。


「どうした?」




「ちょ、ちょっとコンビニ行ってきます!!」




「ど、どうぞ」


 夏織は猛ダッシュで教室を出た。


「すみません、姉さんはああ見えて恥ずかしがり屋なので」

「それなのにたまに大胆なことするよな? 無意識?」

「はい、恐らくそれが姉さんの本性かと」

「そっか…………」


 話が一端まとまったところで弁当に手をつけようとしたところ、男の声が放送で流れる。


『一年A組の山茶花鋭太郎さん。一年A組の山茶花鋭太郎さん。至急、事務室の方まで来てください』


 鋭太郎が放送で呼ばれた。


「お義兄さん、何かしましたか?」

「いいや、身に覚えは――なくはない。とりあえず行ってくる」

「気をつけて」

「いや、別に死ぬようなことじゃないだろう」

 

 鋭太郎は事務室に向かった。



「――はぁ…………」


 鋭太郎は事務室に入った瞬間ため息を吐いた。


(さっきの荘夜のセリフ、フラグとか言わせるなよ)


 事務室の中の物は散乱し、床、壁、窓には付いてからそこまで時間が経っていない血が。

 事務員全員が胸に槍が貫いたような風穴が開いており、今も血が流れ出ている。無論、既に死体となっているが。


「待ってたぜ」


 机に座っていた金髪の男――英雄アキレスが机から降り、鋭太郎に近づく。

 アキレスの服には返り血が付着している。


「珍しい奴もいるもんだな。どんなに強がってる人間も、これほどの死体と血を見て動揺しないとはな」

「血なんてのは幼年期に見飽きた――て言っても信じてはくれないだろう? まあ死体を見るのは二度目だが」

「さすが、カオスが惚れる男だな。それはさておき――」


 アキレスは手刀で壁に向かって空を突くと、壁に大きく綺麗な直径を描いた穴が出来た。


「ついて来い。話がある。どうせ乱闘は回避できねえが」

「ここでもいいんじゃないか?」

「ああ、俺は悪くないと思う。だが無駄に犠牲者が出ても俺は知らんがな」

「……………………」


(別に他の連中が殺されても俺は何とも思わないが、ここで戦うのはぎこちないかもな。もとい、相手は確か英雄アキレス。戦闘で勝てる見込みがない。ここは、あいつに従うが吉だな)


「場所を変えるならさっさとしろよ」

「・・・・・・来い」


 アキレスは穴を抜け、外に出る。鋭太郎も後に続いた。


(それにしても不思議だな。カオスが目的ならすぐにでも俺を引っ捕らえて人質にすれば早いはずだが……)




   ※




 学校近くのコンビニにて――

 夏織は本当にコンビニに来ていた。


「…………どうしよう」


 とはいえ無論、勢いだけで来たので買う物がなかった。

「おっ、夏織パイセンじゃありませんか」

「!?」


 そんな中弁当を買い済ませた恋侍が夏織に声をかけた。後輩であるはずの恋侍の態度がやたらとデカかった。


「別に、ただ暇つぶしに来ただけ」


 だが夏織は気にする素振りはなかった。


「ふーん。どうせまた恥ずかしくなって逃げて――ぶふぁ!!」


 からかった恋侍に、当然の如く夏織の拳が腹にお見舞いされる。


「痛いっす…………痛いっす」

「買い物終わったのなら、さっさと出るわよ」

「ウィッス」


 二人はコンビニを出て、学校に向かって歩き始める。


「そうそう、さっきのパンチ――普段より痛くなかったぞ」

「へぇ……そうなんだ」


 夏織はニヤリと微笑みを浮かべ拳を強く握ると、慌てて恋侍は訂正を入れる。


「普段よりはだ! 痛くなくないからな!」

「毎回同じ痛みだったらそれはそれで怖いわね・・・・・・」


 夏織は拳の力を抜く。


「遠回しに力が弱くなったってことでしょ。普通に言えばいいじゃない」

「わりいわりい。俺は昔からあいつのために、常に話にネタを挟んだ結果――ネタを挟まないと死んじゃう病になっちまった」

「元からでしょ」

「ですよねー。さすが夏織様だぜ」

「――で、いい加減本件話なさい」

「りょ」


 恋侍は改め直すため咳払いをする。


「ゴホン、ゴホン。お前――鋭太郎になんかしただろ」


「…………もうわかってるんでしょ」


「マジでしたのかー。体育の時夏織と同じ魔力の流れを感じたのと、うなじにあった古傷が消えていたからなんとなーく察してたけど。やったからにはもうあいつも狙われるぞ」


「わかってる。だから荘夜を学校に入れた」


「俺のクラスに来たぜ。爆弾発言したせいで周囲の鋭太郎を見る目がさらに酷くなりそうだが」


「彼はそんなの気にするたちじゃないのは、あなたが一番知ってるでしょ」


「そうだな。鋭太郎は元々、誰も信用しちゃいねえからな。きっと俺もな……」


「…………」


「おっとわりい、話が逸れたな。それでさ、また体育の話になっちゃうんだけど妙なんだ」


「何が?」


「マジでやってないとはいえ俺と荘夜の記録を軽く超えやがった。見た感じ俺たちより手ぇ抜いてたみたいだし」


「何が言いたいの?」





「実はあいつ、神々(おれたち)と同じだったりして?」




 恋侍の言葉に夏織が足を止める。それを見て恋侍も止まる。


「……ふざけているの?」


 夏織が狼のような凶相で恋侍を睨み付けた。


「あー、ごめん! 言ってみただけ! 証拠も確信もないから!」

「そう……鋭太郎さんは人間。私はあなたより鋭太郎さんを見てきた。ずっとずっと、世界を超えた先から、たった一人の少年を」



 夏織は深刻な顔で下を向き、拳に力を入れる。



「わりいな。俺バカだから変なこと言っちまって」

「別に、気にしてないわ」

「………神の力を最初に得た人間でさえ、短期間で俺たちを超えなかった。俗に、鋭太郎の中には夏織の力だけじゃなく、別の何かがあるんじゃないかって話」

「……………………」

「それだけだ。一応覚えておいてほしい」


 恋侍が話し終えると、学校とは別方向に歩き始める。


「じゃ、俺は学校サボってちょっくら散歩してくるわ」

「…………あなたも、私と同じ立場に立っていることを忘れないで」


「わかってるって、カオスさんよ」








 数分後――


「もしもし? 俺っす」


 恋侍は、歩道を歩きながら誰かと電話で話し始めた。


『――どうだった?』


「ごめん、それ以前に俺がきっぱり言い出せなかった。あいつの真剣な表情見たら言えなくて……でも別にバラさなくても良くね? 少なくとも今は、二人で穏やかに営んでほしい」


『……わかったわ。あなたの意見は飲むけれど、下ネタを挟むのはどうかと――っ!? ごめん、切るわね』


「?」


 相手側が何か焦ったように電話を切った。恋侍はその訳をわからぬまま、街をぶらつき始める――



   ※



「……………………」


 教室――

 荘夜は夏織と鋭太郎の帰りを待っていた。昼食を摂ることなく。しかし――



「君って夏織ちゃんの弟くんだよね?」「ギリシャ留学から戻ってきたって本当?」「やっぱギリシャ語ペラペラなの?」「夏織ちゃんのことどう思う?」



 教室にいる先輩たちに質問攻めを受けていた。


「…………………」


 荘夜は嫌そうに口を開かずにいた。荘夜の頭の中の半分は早く帰りたい、残りは夕食のメニューについてだった。

 夏織と二人暮らししている荘夜は、料理が作れない夏織のために常に朝食から弁当、夕食も一人で作っている。最近では、料理は女子のステータス――ということで夏織に料理を教えているが、全く上達する見込みがなく、生物兵器だけが次々と作られてしまう状態となっている。


『一年A組の薊荘夜さん、一年A組の薊荘夜さん、至急職員室の方まで来てください』


 突然の放送――今度は荘夜が呼ばれた。


「…………………」


 荘夜は無言で立ち上がり、先輩たちを避けながら職員室へ向かった。



「失礼します」


 荘夜は職員室の扉をノックし、開ける。


「?」


 不思議なことに中には誰もいなかった。

 荒らされた形跡はないが、淹れたてのコーヒーに点けっぱなしのパソコン、どの椅子も引いた状態である等々、異様な光景だった。


「やっぱり君も来たんだ」

「っ!?」


 荘夜は背後から強い殺気を感じ、素早く振り向く。一人の少女が荘夜を剣で斬り倒そうとした。荘夜は動じることなく後退し、何もない空間から日本刀を取り出し鞘を抜いた。


「だよねー。お姉ちゃんのことが心配だもんねー」


 赤髪の少女――女神ガイアが剣を構えながら言った。


「先生方はどこにやった? 僕たちの戦いに無関係者を巻き込みたくはない」

「大丈夫大丈夫。殺してないし傷つけてもない。校庭を見ればすぐ納得できるよ」


 荘夜は窓から校庭を見る。


「!?」


 荘夜は驚く。

 校庭になんと、天然の木をそのまま使った作られた巨大な檻があった。

 その中には先生たちだけでなく、生徒たちも。なにより驚きなのは、さっきまで荘夜に質問攻めしていた先輩たちもその中にいることだ。


「いつの間に――ぐっ!!」


 荘夜が校庭に目を奪われている隙を見たガイアが不意打ちを仕掛けた。荘夜はなんとか日本刀で剣の攻撃を防いだが、その衝撃で体が吹き飛び、窓ガラスを割りながら外に投げ出された。


「よそ見厳禁だよ!」

「ふっ、やらせたまでだ」


 荘夜とガイアの剣同士がぶつかり合いをし始める。どちらも五分五分の動きだが、力強さは男である荘夜の方が勝っていた。

 空中での乱闘――集中しすぎていた荘夜の背が地面に強くぶつかる。しかし荘夜は苦しい顔を見せることはなく、ガイアを一旦蹴り飛ばした後、後ろ回りをし素早く立ち上がる。

 ガイアは後ろに飛んでいったが、空中で回転し慣性を促しながら地面に立った。


「さすがカオスの弟ってところだね。でも僕が陸に立ったからにはここまでだ」


 ガイアは剣を地面に刺した。


「大地<ナチュラル・ワールド>」


 ガイアは刺した剣を持ったままエフェクトを唱えると、砂一面だけだった校庭が、瞬時に草原へと姿を変えた。


「そういや、貴様は地母神だったな」

「そう。まあ実際砂のままでも問題はないんだけど、こっちの方がやりやすい!」


 ガイアは剣を抜き、左手を前にかざした。すると左手が緑色の色を発する。

 それに応じて、地面から触手のような木が、全身をニョキニョキと揺らしながら数本生えてきた。数本の木は素早く槍で突くように荘夜に襲いかかる。

 荘夜は冷静にかわし、木が地面に刺さったところを図って根元辺りを日本刀で弧を描くよう体を横に回転させ、全ての木を切断した。それから素早く前に跳躍し、ガイアに斬りかかる。

ガイアは左手の平を荘夜にむけ、手のひらから無数のクルミを銃弾のように発射した。荘夜は日本刀で素早くクルミを斬り割りながら、そのままガイアに刀を突き刺した。


「ぐはっ!!」


 ガイアの腹に刺さり、体勢が崩れる。


「やったか!?」

「――なんてね」

「!?」


 ガイアの体が人の形をした木に突然変異した。その木はに枝を伸ばし、荘夜の体に絡み締め付ける。


「くっ!」


 木に刺さった日本刀はゆっくりと飲み込まれ、武器がなくなった荘夜は抵抗出来なかった。

 別の場所から木が生えたかと思えば、その木がガイアの姿に変化した。


「大地<ツリー・エスケープ>。やったか!? ――なんて古くさい死亡フラグはよしてくれ――ってあれ?」


 ガイアが勝ち誇ったように話していると、枝に縛られていたはずの荘夜の姿がどこにもなかった。


「どこに逃げたんだ?」


 ガイアが辺りを見渡していると、背後に出来ている影から荘夜が飛び出てガイアに殴りかかる。


「うわぁあ!!」


 気づいたガイアは変な声を上げながらも間一髪かわし、体勢を整えようとする。荘夜はさせまいと続けざまに殴りかかるが、ガイアはその攻撃もかわし荘夜に蹴りを入れる。

 荘夜の体が後ろに押され、荘夜が体勢を崩したところでやっとガイアは落ち着きを戻す。


「相変わらずチートだねー。君の【ケイパビリティー】は」

「何を。今の時間帯ならあんたの方が有利だろ。それに植物なら大体の場所で使えるしな」

「ま、お互い様だね」


 ガイアは突然変異で木になった場所に落ちている自分の剣を、その木の枝を使って自分の方に投げさせた。ガイアは手に取り、余裕ぶるように縦に回した。

 この後の行動を考えていると、すぐそばにあった木の檻に目が移った。



「なあ、どうなってるんだよ!」「俺たち関係ないよな?」「どういうわけか説明してくれよ!」「早くここから出せ!」



 いままで戦いに集中して聞こえなかった無関係の生徒、職員の声が荘夜の耳に入ってくる。


「これは人質だな? なぜ使わない」


 荘夜は檻を親指で指し、ガイアに聞いた。


「そりゃあ今使ったらもったいないからさ。うるさいけど、カオスが来るまで我慢してるよ」

「ほう…………つまり、僕には使うまでもなく殺せると?」




「いいえ、あなたを殺すつもりはありませんよ」




「!?」


 荘夜の背後から、謎の男の声が聞こえてきた。荘夜は素早く後ろを向くが、誰もいなかった。


「今のは――っ!?」


 荘夜の視界が突然真横に傾いたかと思いきや、なぜか荘夜の体は横になっていた。そして手足は鎖で縛られていた。


「何がどうなってる!!」


 荘夜は力ずくでもはずそうとするが、ぎっちり縛られているため外そうとも出来なかった。


「無駄ですよ。その鎖は人間世界製ではなく、神世界製ですから」

「!?」


 荘夜の目の前に瞬間移動してきたように突然、緑髪の男が姿を現した。


「その鎖には特殊な魔力が秘められていましてね。縛られている者はエフェクトも【ケイパビリティー】も使えませんよ」

「この現象・・・・・・まさかお前、クロノスか!」


 荘夜が言うと、クロノスは微笑みを浮かべる。


「ご名答。ですが、正解ボーナスは何もありませんよ」


 クロノスは荘夜をまたいで、ガイアの元に近づいた。


「神奈、あなたは相変わらず仕事の効率が悪いですね。僕は気絶させろと命じたはずですが」

「うっさい! あいつがゴキブリみたいにしぶとかったからさ! あとその名前で呼ぶな!」

「はいはいわかりましたよ」


 クロノスは左腕にある腕時計を確認した。


「そろそろ秋葉が仕事を終えてこっちに来るはずです。神の力を得たとはいえ元はただの一般人。抵抗されてもこちらほど時間はくわされませんでしょう」

「でもアキレスもアキレスでしくじりそうじゃない?」

「あなたが言えることではありませんが……まあ、彼は人間に近い存在ですし、多少は了承するつもりです」


 二人の会話を聞いた荘夜は焦り始める。



(お義兄さんのところにアキレスが!? マズい! 下手したら殺される!)



 だが抵抗すら出来ない荘夜は、ただ鋭太郎の無事を祈るしか出来なかった。



※12/6追記

 物語全体の手直し中に、第二章以降での矛盾点が見つかりましたので、それをなくすための大きな修正と新たな場面を追加いたしました。(夏織と恋侍のやりとりの場面の修正、その後の電話シーンを追加)

 処女作とはいえ、とても重要な伏線に矛盾を生み出してしまい、すみませんでした。

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