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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第四章 家族の温もりを知る
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第六話 戦い方

 時刻は一時過ぎ――


 鋭太郎、夏織、秋葉、神奈、恋侍の五人は、ワイルドな男――輝幸ことユピテルに連れてかれ、アパートの一室に招かれた。

 ポセイドン、ゼピュロスは、お腹を空かせたネプチューンのために、その三人でファミレスで昼食を取った後、合流することになっている。


 アパートの部屋の中は、部屋と呼ぶには広すぎるもので、一般的な体育館と同じくらいの広さだった。その広さ故に、家具が多くインテリアショップに来たような感じだった。

 部屋の中心にある、大きなテーブルを囲むように、鋭太郎達は椅子に座る。


「さて、早速俺が集めた情報を――」

「おい、タナトスの野郎、まだ寝てるけどいいのか?」


 秋葉が言うように、恋侍だけは近くのベッドに横たわっていた。これは、ユピテルが連れていた女達から受けた罵倒にショックを受け、気絶しているだけである。


「問題ない。あとでポセイドン達と一緒に話をすればいいさ」






「話に入る前に1つ聞きたいんだが……文月市が壊滅したというのは本当か?」

「えぇ、そうよ。アネモイ四兄妹の襲来もあるけど、どちらかとあいつの方が街を壊しているわ」


 夏織が恋侍に視線を向けながら答えた。


「なるほど。通りで奴らも騒いでるわけか」

「奴らって?」


 神奈が首を傾けて訊ねた。


「アイテール側の神々だ。ユノに頼まれて、俺は神世界に潜入して情報を盗むこともしててな。今あいつらは、文月市の惨状を見て『タナトスが姿を現したのかも知れない』とかで、大騒ぎしている」


(敵が文月市を見て恋侍の名を出すってことは、やっぱり神々の中でもかなり強いのか。恋侍の存在によって、敵が警戒してしばらく刺客を送って来なくなればいいんだが……)


 そう思った鋭太郎であったが、現実はそう上手くいくものではなかった。


「そこで、奴らは新たに『四星神』をこの世界に送った。フューリズ四姉妹だ、かなり厄介だぞ」

「フューリズ……エリーニュスのことか?」


 鋭太郎が困惑していると、夏織が説明に入る。


「私たちの世界のエリーニュスは、フューリズ家の長女です。

 アレークトーは次女。

 ティーシポネーは三女。

 そして、メガイラが末女です」


 ――エリーニュス。

 ギリシャ神話に登場する復讐の三女神。

 複数形でエリーニュエス、フューリズとも称される。

 アレークトーは、「止まない者」の意。

 ティーシポネーは、「殺戮の復讐者」の意。

 そしてメガイラは、「嫉妬する者」の意である。


「で、フューリズの奴らは今どこに?」


 秋葉が聞くと、ユピテルは空かさず答える。


「ヘルメスの情報では、皐月市に潜伏しているらしい」

「潜伏? 捜索の間違いじゃないの?」


 神奈が聞くと――



「ポンコツだなぁ……カオスの捜索とは別に何か企んでるって察しなさいな」



 目を覚ました恋侍が、煽るように答えた。

 恋侍は目を擦りながら、鋭太郎の隣の空いてる椅子に座る。


「んな、ポンコツって言われても! こんなの察しろって方がおかしいだろ!」

「ユピテル、彼女はあれでもアイテール氏の側近なりかけだったんだぜ。おかしいよな? 神世界の主、ロリコン説ワンチャンあるぞ! 妻はあんなに母性あふれるバ――ゴホン、お姉さんだってのに!」

「まあまあ、あいつに限ってそんな事はないさ。それに、俺が唯一伴侶にしたいと思ったユノを、あいつは自分のものにしたんだ。浮気なんざ、俺が許さねえよ」



「えっ? ちょ、ちょっと待って!?」



 このように動揺して、立ち上がったのは鋭太郎だった。

 だがユピテルの発言に動揺を示しているのは鋭太郎だけであり、他の皆は逆に、鋭太郎の反応に困惑していた。


(なんで皆平然と――あっ…………)


 鋭太郎は何かを思い出し、腰に付けていた木刀を右手に取って眺める。


「ん? カオスの彼氏――確か、鋭太郎だよな? なぜ鋭太郎がそれを持っているんだ?」


 鋭太郎の木刀を見て、ユピテルの表情が険しくなる。


「あー…………これ、やっぱりアイテールの愛用武器なんですよね?」


 鋭太郎は以前ポセイドンに、なぜアイテールの武器を持っているのかと、問われていたことを思い出したのだ。


「えっ、そうなの!?」


 鋭太郎の問いに、神奈は驚く。


「そうよ。アイテール様が幼少期から愛用していた木刀よ。どうして鋭太郎さんが持ってるのかはわからないけど」


 夏織が冷静に神奈にそう教えた。


「カオスの言う通り、アイテールはそれ1本で神世界の頂点に立った男だ。あいつがそれを簡単に手放すとは思えん、それを何処で手に入れた?」


 ユピテルが真剣な表情で鋭太郎に聞く。


「これは、柚乃先生から貰ったものです。夫からの要望と言ってました。その夫が、アイテールだと思いませんでした…………」

「……なるほど」


 鋭太郎の話を聞いて、ユピテルは納得する。


「そうか、お前が――」




「ぶぇっくしょん!!!」




 突然、秋葉が大きなくしゃみをする。

 わざとらしく、耳障りな感じで。


「ちょ、アキレスうるさい!」

「わりぃわりぃ、花粉症か? いや、この時期花粉飛んでないか」


 秋葉が鼻を掻きながら、恋侍に視線を送る。

 恋侍はそれに気づき、秋葉が大きなくしゃみをした動機を察した。


 ユピテルは今、鋭太郎に対して柚乃とアイテールの間から産まれた息子であることを漏らす所だったのだ。

 鋭太郎はまだそれを知らないため、それを言ってしまえば混乱してしまうだろう。

 そして、柚乃にはまだ話さないように口封じされているため、下手すれば柚乃に殺される可能性もある。

 そのため、秋葉はユピテルの発言を阻止しようと、わざとくしゃみをしたのだ。


 そして、ユピテルがその話を続けないように恋侍は話を切り替える。


「あ、そうそう。ユピテル氏、ニュクスを見かけなかったか? 実は最近、誰にも何も告げずに一人で雲隠れしちゃってさぁ。柚乃の話だと、ここ水無月市に来たのをヘルメスが確認したとかだけど」

「ニュクスか…………あぁ、確かにそれらしき人物を、俺も見たな」


「ッ!? どこで!?」


 夏織が焦燥の顔を浮かべながら、思わず机を叩いた。


「そう焦るな。あいつはちゃんと生きてるさ。ただ、妙なことがあってな」

「妙なこと……?」

「あいつに何かが纏わり付いていた。『黒い煙』というか……荘夜が話しかけてたことから、何かしらの生命であることは確かだが」

「今は何処に!?」

「ヘルメスに調査を任せているから、俺にはわからない。今は、ヘルメスの連絡を待つしかないってことだ」




   ※




「ニュクスの個人レッスンも兼ねるが……久しぶりに暴れさせてもらうぜ!!」


 水無月市と皐月市の間にある森の中――


 荘夜の体を乗っ取った『黒い煙』は、不気味な笑顔を浮かべながら、ヘルメスの右手首を強く握っている。


「ぐっ!!」


 『荘夜』の握力は強く、ヘルメスは手を解けずにいた。

 『荘夜』はその状態のまま立ち上がる。

 彼の左足は、いつの間にか元の状態に治っていた。


「このまま殺してもいいんだが――」


 『荘夜』は、ヘルメスを前方へ蹴り飛ばした。

 ヘルメスは受け身を取り、後転した勢いで立つ。


「それじゃあ授業ができなくなるんでな……悪いが付き合ってくれねぇか?」


 そう言って、『荘夜』は地面に落ちたヘルメスの剣を蹴り飛ばし、彼の足下へ運んだ。


「はぁ?」


 ヘルメスは、『荘夜』の行動に困惑した。


「それが普通の反応だよな? 安心しろって、その代わり殺さねえから。相手を弄んだ後に殺すのは流石に後味が悪い。オレッちはタナトス程の外道にはなれねぇよ」

「…………」


 ヘルメスは、剣を拾いながら考える。


(ここは一旦引くか? あいつが簡単に逃がしてもらえるとは思えないけど、逃げながらでも連絡は――)


「取らせねぇよ」

「ッ!?」


 『荘夜』に思考を読まれ、思わず体がビクついた。

 それを見た『荘夜』はニタァっと薄気味悪い笑顔を浮かべた後――


「暗<アイソレイション・テアトル>」


 エフェクトを唱え、森全体が透明な半球の中に閉じ込められた。

 これにより、外部から二人の姿は認識されなくなり、外部との連絡も遮断されてしまった。

 ヘルメスは動揺していたため、<スキル・ネガティブ>を唱えられなかった。


「わりぃな、今回はタイマンでの戦い方を、こいつにご教授したいからな」


 『荘夜』が、自分に纏わり付く『黒い煙』に視線を送りながら言った。

 あの『黒い煙』に、今は荘夜の魂が乗り移っている。


「そんじゃ、まず一番ダメな攻撃箇所についてから教えるか。ひとまず……」


 『荘夜』は、地面に落ちている自分の刀を拾うと同時に、ヘルメスの首を貫こうと突進する。


「ッ!?」


 その速度は、荘夜本人よりも速く、地面を蹴った勢いだけで周囲の木々を大きく揺らした。

 かわせないと判断したヘルメスは、『荘夜』の攻撃を剣で防ぐ。

 ヘルメスの身に強い衝撃が走るものの、『荘夜』の攻撃が通る事はなかった。


「今、オレッちはニュクスより速く、力強く刀を突いた。だが、ご覧の通りヘルメスは防いでいる。また――」


 『荘夜』は、ヘルメスの首を力強く、何度も突き刺そうとする。

 だがヘルメスは、全ての攻撃を防いだ。


「同じ急所を何度攻撃しても、ヘルメスは全部防いじまう。これはまぁ、普通の事だな。じゃあ別の急所を狙えばいいかって?」


 『荘夜』は一度身を引いた後、再度ヘルメスに向かって突進。

 左胸を突き刺そうとする『荘夜』だったが、またもヘルメスが剣でそれを防ぐ。

 立て続けに、『荘夜』は刀を引いた勢いに任せて身を翻し、ヘルメスの頭を水平に斬ろうとする。ヘルメスは冷静にその攻撃も剣で防ぐ。

 『荘夜』は悪ふざけのつもりなのか、今度は股間を狙う。

 ヘルメスは攻撃を剣で受け止めつつ、横にかわし『荘夜』との距離を置く。


「くッ…………!」


 普段のヘルメスであれば、ふざけてるのかと文句を言うところである。

 だが、今それを言えば『荘夜』に弄ばれていると、自虐することになる。


「体の反射? 危険察知? うーん……オレッち馬鹿だからそこら辺よく分かんないや。まぁともかく、今のを見てわかったと思うが、急所を狙っても防がれるものは防がれる。ただ急所を狙うだけじゃあ意味ねぇんだ」

『急所以外を狙えと言うのか? それなら急所を狙い続けた方が効率良いのでは?」


 『黒い煙』に乗り移ってから初めて、荘夜が発言した。


「甘いなー……確率論じゃこの先戦えねぇぞ。それに、あえて確率論に沿うのなら、急所を狙わない方が当たるんだぜ。急所ってのは自分自身が一番よく知っている。一撃でも喰らったら致命傷になるんだから、目ン玉見開かせて意地でも防ごうとするに決まってる」

『だとしても、急所以外に攻撃したところで、相手に防御意識があれば意味がないだろ』

「んま、それに関してはごもっともだ。今から急所以外狙ったって――」


 『荘夜』はヘルメスに急接近し、彼の右腕に斬りかかる。

 ヘルメスはスッと左にかわした後、右足で『荘夜』を蹴り飛ばす。

 『荘夜』は動じることなく宙で一回転し、きれいに両足で着地する。


「当たるどころか逆に反撃を喰らっちまう。…………さて、ここからが本番だぜ、ニュクス。よーく見とけよ」


 『荘夜』身を屈める。

 これまでとは違う攻撃が来ると思い、剣を構えて集中する。


「いいか、相手は機械じゃない。感情を持った神だ。防御意識なんざ、気の揺らぎだけで簡単に崩れる――」


 『荘夜』が凄まじい勢いで駆ける。


「ッ!?」


 ヘルメスは思わず身を竦めてしまう。

 『荘夜』の速度は、先程よりも断然速かったが、対処できない程のものでもない。

 恋侍のように、姿が見えなくなるほどの速度でもない。

 


 ただ、『荘夜』の不気味な笑みに――

 悪魔のような笑い方に――

 恐ろしいものが急接近することに――



 ヘルメスは恐怖した。



 『荘夜』は連続でヘルメスの体に斬りかかる。

 ヘルメスは体を震わせながらも、攻撃を剣で受け止め続ける。

 恐怖心が、ヘルメスの体を無意識に引いていた。

 だが、それをお構いなしに『荘夜』は突進しながら、何度も刀を振る。

 

 右腕、左足、右肩、左肩、右足、左腕――


 『荘夜』は左右交互に刀を振っている。

 ヘルメスは後ろに下がりながらも攻撃を防ぎ続ける。


 『荘夜』は攻撃しつつ、後ろについてくる『黒い煙』の荘夜に説明する。


「いいか、相手の足が自分より遅いのに、やたらと攻撃を防いでくる相手の場合、まず体力を消費させるのがベスト。これに関しては、どんな相手だろうと言えることだが、攻撃を防ぐのが得意な奴ほど、体力温存が上手い。なぜだと思う?」

『……必要最低限の動きしかしないから』

「その通り! そして、攻撃を防ぐのに一番体力を使わない箇所は?」

『……首』

「そゆこと。ニュクスは今まで、相手に全く体力を使わせない戦いをしてきたってことだ。んじゃ、どうすれば相手の体力を効率よく削れるかって? それは簡単、相手を動かせる攻撃をすればいいだけの話。

 オレッちが今素早く、敢えて全体的に攻撃しているのも、相手の腕を多く動かして腕を疲労させるため。

 突進しながら刀を振り続けているのも、相手を無理矢理下がらせて、体力を消耗させると同時に体勢を崩すため――」


 ――パキィン

 『荘夜』が説明している内に、ヘルメスの剣が折れる。

 折れた刃の上半分が、回転しながら宙に舞い、そして切先を下にして地面に刺さる。


「――武器を消耗させることを教え忘れるところだったぜ。とはいえ、思ってたより折れるのが早かったな」

「はぁ……はぁ……」


 ヘルメスは息切れを起こし、体をふらつかせている。


「さて、ここまで来たら好きなだけいたぶってもOKだが……殺す訳にはいかないからなぁ~。と言っても、気絶させるやり方わかんないし……下手すると死んじゃうもんな」


 『荘夜』が迷っていると、ヘルメスが折れた剣を振ってくる。

 当然、ヘルメスは心体ともに疲れ切っているため振りが遅く、『荘夜』は前から来た人を避けるような感覚でかわした。


「おいおい、これ以上抵抗されると困るぜ。お前を殺さなきゃいけなくなっちまう」

「だったら……殺せばいいだろッ! どのみち、僕たちと敵対してるようじゃ、いずれ皆に殺されるよ。あんたも……ニュクスも!」

「…………はぁ」


 ヘルメスの発言に、なぜか『荘夜』は大きなため息を漏らす。

 それも普段よりも低く重い、真剣なものだった。


「んなッ! ため息を吐きたいのはこっちだ!! どうして僕を生かしておく!? それに、ニュクスもどうして! どうしてこいつと手を組む!?」

『………………』


 『黒い煙』の荘夜は、何も答えなかった。

 だが『荘夜』の方は答えた。


「お前を殺すと…………悲しむ奴がいるからな」

「それは誰なんだよ!!」

「正直残念だよ……ヘルメスなら、戦っている内にオレの正体がわかると思ってたんだが」

「こんな滅茶苦茶な戦いでわかるか!!」


 ヘルメスは最後の力を振り絞り、全力で剣を振る。

 先程よりも段違いに、今まで以上に素早く剣を振ったヘルメス。

 だが、『荘夜』はそれをあっさりと右に避けながら、ヘルメスのうなじに峰打ちを入れる。


「うっ…………」


 ヘルメスはゆっくりと、前に倒れていく。

 意識が消えていく中で、『荘夜』の言葉が耳に入ってくる。




「お前を殺すと……オレの親友の、嫁が悲しむからな」





 引っ越し作業などがあり、大変遅くなってしまいました。

 本当にすみません!!

 その作業がまだ続きますので、次回の更新は間を置いて4/16にします(その間に、第二章の修正を終わらせるかもしれません)


 今後とも、よろしくお願いします!

 

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