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混沌のディオス・ウォー  作者: 白沼 雄作
第四章 家族の温もりを知る
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第五話 黒い煙


「その辺で許してあげるんだ、お嬢さん」


 男の首を絞めている夏織を止めようと、声をかけた人物がいた。


「?」


 その声に反応した夏織は、無意識のうちに男を放し、声がした方を向いた。

 革のコートに、口には葉巻を咥え、顎と口元に立派な髭を生やした、ワイルドな男性がいた。

 両腕に若い女を二人抱いており、更に男を取り囲むように五、六人の女がいる。


(あんなに女連れて街を歩く奴なんているのか……現実にいるのか)


 鋭太郎は男に対して率直な感想を持った。

 だが、その男を羨ましいとも、妬ましいとも思わなかった。

 現に、鋭太郎が夏織という超絶美女と交際しているのもあるが、男の堂々たる雰囲気に悪い奴ではないと感じたからである。


 男は女達を連れたまま、夏織に近づき始める。



「愛する人を侮辱した輩を成敗する君の姿は、薔薇のように美しかった。だが、君のような美しい女性が、こんなゴミ屑を殺してはならない。醜い害虫を潰し、手を汚してしまう君の姿を見たくないんだ」


 男は口説くように褒め、同時に叱った。


「ご忠告どうも。でも、私は既に汚れているわ」


 夏織は、普段と変わらぬ態度で男と接した。


「そうか? 俺には、以前より清らかな『波動』が見えるけどな……」


(以前? 会ったことがあるのか? なら、この男は――!?)


「きっと、心の支えとなる、彼氏が出来たからだな」

「っ!?」


 男は、鋭太郎の方を向きながら言った。

 鋭太郎は思わず身を引く。


(この男、何が狙いなんだ!? いや、そもそも敵なのか味方なのか、それすら判断できない! どちらにしろ、こいつは強い!!)


「そう構えるな。俺はお前から彼女を奪ったりしない」


 男は鋭太郎を安心させるように言った後、鋭太郎をジッと見つめ始める。

 警戒を解かない鋭太郎を見て、夏織が優しく告げる。


「その男は……少なくとも敵ではありませんよ」

「!?」


 夏織の言葉に鋭太郎は驚き、目を見開く。

 詳しく訊ねようと思ったところ、男が優しい表情で語り始める。




「素晴らしく、懐かしい『波動』だ。昔を思い出す…………互いに愛する一人の女を手に入れようと、激戦を繰り広げたあいつの『波動』に、よく似ている」




「あいつ? それは――」


 誰だ――と聞こうとしたところ、後ろから聞き慣れた、場の雰囲気を壊す声がする。


「すげー!! メッチャ美人いるじゃん! 一人くらい貰っていいよね?」


 女に飢えている(?)恋侍が、突如男の後方より姿を現し、男を取り囲む女達に目を輝かせていた。

 その性欲丸出しの声を聞いた女達は、後ろを振り向くと同時に汚物を見るような目で恋侍を睨む。



「は?」「何見てんのよクソ虫が」「お前なんか輝幸てるゆき様の足下にも及ばねえから」「消えろ童貞」「あんたと一緒にいるくらいならゴキブリに犯される方がマシよ!」



 女達の容赦ない罵倒が、恋侍を襲った。


「ぐはッ!!」


 それがあまりにもショックだったのか、恋侍は血を吐いて、倒れる。

 少し遅れて、輝幸と呼ばれた男が後ろを向いた。


「おや、来てたのか。気づかなかったよ」

「別に、こいつは気にしなくていいだろ」


 そう答えたのは、恋侍の後ろにいた秋葉だった。その隣に、神奈もいた。




「探したぜ……ユピテル」




   ※



 水無月市と皐月さつき市の境界付近。

 森の片隅にて――


「この辺か?」

『そこら辺だ。やってくれ』


 鋭太郎達から姿を暗ましている荘夜がそこにいた。

 彼の全身をグルグルと回っている『黒い煙』が、もう一つの声の正体だ。


「暗夜<■■■・■■■■■■>」


 荘夜が地面に右手をかざし、エフェクトを唱えると、その先に魔法陣が紫色の光を出しながら現れた。

 数秒後、何事もなかったように、その魔法陣は消滅した。


「……………」


 その一部始終を、小さな神――ヘルメスが木に隠れて見ていた。


(あのエフェクトは、大掛かりなもの。ニュクスは何を考えているんだ? それにあの『黒い煙』。あれは何なんだ?)


「……次はどこだ?」

『えっとな……次は卯月市だぜ』


(ともかく、ユノに報告した方が――)


「わかった。だがその前に――」


 ヘルメスの存在に気づいた荘夜が振り返り、姿を隠してる木を見つめる。


「あのガキを始末しないとな……」

「ガキとは失礼だな!」


 ヘルメスは、逃げずに荘夜の前に姿を現した。

 それに合わせ、荘夜は体の正面をヘルメスに向ける。


「こう見えても、僕の方が年上だからね!」

「そうか……なら、遠慮する必要はないようだな」


 荘夜が右手を横に構えると、何もない空間から刀を取り出す。

 刃が紫色に塗られている、変わった日本刀だった。


『お前が戦うとこ見んのは初めてだな。とりま拝見させて貰うぜ。あと、オレッちの武器壊すなよ!』

「安心しろ、すぐに終わる」


 『黒い煙』にそう言い終えると、荘夜は地を蹴り、一直線にヘルメスの首に刀を突き刺そうとする。

 その瞬発力に、並大抵の者なら反応すら出来ないだろう。

 だがヘルメスは、動じることなく横にかわす。

 荘夜は勢いに身を任せ、そのまま直進してヘルメスと距離を置く。


「どうしても戦うの? 下手にやったらカオスに怒られそうなんだけど」


 ヘルメスが訊ねてきた。その口調から、勝つ気満々だった。


「これは、僕が『悪』を働かせたことによって引き起こった戦い。そんな僕に、姉さんが心配などしてくれるとは思えない。それと、お前は今勝てると思っているだろ? この場では、僕の方が有利だ」


 不意に姿を消した荘夜。それも束の間、ヘルメスの背後、木の影から荘夜が飛び出し彼の首を切断しようと刀を横に振る。


 ヘルメスは振り向きもしてない。今からでは時を止めない限り、かわせない。


 そう、確信していた荘夜。


「!?」


 だが、首を斬る寸前、ヘルメスの姿が目の前から消えていた。


「信じられん、この消え方は…………ッ!?」


 荘夜は、着地しながら驚く。

 真下に沈むような消え方――そのような技は、荘夜が一番よく分かっていた。


「ぐッ!!」


 呆気に取られていると、突然左足に激痛が走り、荘夜は右に横たわる。

 反射的に左足を手で抑えようとするが、何故か空回りする。

 荘夜が自分の目で確かめると、左足の膝より先がなかった。


「悪いけど、足を切断したよ。ユノに診てもらえばすぐ元に戻るからね」


 いつの間にか、ヘルメスは荘夜の背後に回っていた。


「っ!!」


 荘夜は、激痛に耐えながら体勢を整えようとする。

 左足の出血をものともせず、刀を地面に刺し、それを支えにして右足だけで立つ。


「まだやる気? いくら神だからって不死身じゃない事ぐらいわかってるよね?」


 ヘルメスは、あくまでも良心で荘夜に聞いた。

 荘夜は黙って刀を抜き、右足を軸に反転してヘルメスに正面を向ける。

 だが、痛みが伴いバランスを崩し、横に倒れる――と同時に、木の影の中に潜る。


「はぁ…………やっぱり僕の事、本気でガキだと思ってるんだね……」


 ヘルメスはため息を吐いた後、背後から現れた荘夜の攻撃を振り向きもせず、剣を肩に乗せるように防いだ。

 先程と同じように、荘夜はヘルメスの影から飛び出して首を貫こうとしたが、それをあっさりと、馬鹿にするようにヘルメスは止めたのだ。


「攻撃パターンが毎回同じ。はっきり言って、基礎がなってないよ」

「クソッ!!」


 荘夜はやけくそに刀を引いては、宙に浮いたまま身を翻し、その勢いのままヘルメスの体を横に斬ろうとする。だが、ヘルメスは再び目の前から沈むように消え、空振りとなった。

 ヘルメスは、またも荘夜の背後に回っており、今度は右足を切断しようとする。


「夜<オンブル・ブークリエ>!」


 回りこまれたのを気配で察した荘夜は、素早くエフェクトを唱える。

 すると、荘夜の影から黒い盾が具現化され、ヘルメスの攻撃を防いだ。

 荘夜は地に右足を着け、その勢いで前回りをしてヘルメスと距離を置く。


「ま、流石に僕も同じ手は通じないか」


 ヘルメスはそう言うが、余裕があった。

 荘夜は身を屈めたまま、ヘルメスの方を向いた。


『へぇ~、中々面白い奴だな! 相手の【ケイパビリティー】を真似できるのか!』


 荘夜が窮地に陥っている中、『黒い煙』はヘルメスの能力に感心していた。


「その通り!」


 ヘルメスの【ケイパビリティー】は、『個性模倣』

 相手の【ケイパビリティー】をそのままコピーして使う事が出来る能力。

 だが、コピー出来るのは一度に一つ、それも一回までしか使えず、相手が【ケイパビリティー】を使用したのを目視で確認しないとコピーできない。また、時間制限があり、三十秒以内に使用しないと効果が消えてしまう。

 そのため、その場その場で相手の【ケイパビリティー】を瞬時に把握し、それを我が物のように応用して戦わなければならない。


「……というか、ずっと気になってたけど、あんた誰?」


 ヘルメスは、『黒い煙』に訊ねた。

 『黒い煙』の正体が、少なくとも神ではあると推測していたからだ。


『ん、オレっち? 声でわからない? オレだよオレ!』

「……ごめん、わからない。でも、そう言ってくるって事は、少なくとも一度は会ってるみたいだね」

『うん。二、三回くらいは会ってると思うんだけどぉ……まあいいや、それよりニュクス――』


 『黒い煙』は、ヘルメスの話を流しては荘夜にこう言った。


『あいつの言う通り、お前の戦いは基礎がなってない。職業病で動きが暗殺型になっちまってる。油断している相手を、不意打ちで、一撃で仕留めるには完璧な動きだ。だが、それは面と向かった殺し合いでは、通用しないぜ』


 『黒い煙』は、ヘルメスの存在を無視して、荘夜の悪いところを指摘する。

 不意打ちを仕掛けたいヘルメスであったが、荘夜の視線がこちらを向いたままであるため、その機会を掴めずにいた。


『まあ、とりあえず手本を見せてやるから、体を貸しな』

「!?」


 『黒い煙』の発言を聞いたヘルメスが突進する。


(あの『黒い煙』が何者かわからない以上、容赦はできない! 乗り移るのを防ぐのは今からじゃ間に合わない! カオスには申し訳ないが、ニュクスの四肢全てを切断するしかない!)


 ヘルメスは、先に右腕の切断を試みるが――


「!?」


 それより先に、荘夜が右手でヘルメスの右手首を強く掴んできた。


「いてッ!!」


 荘夜の握力の強さに、ヘルメスは思わず剣を手放した。


「……思ってたより馴染むな。属性が近いからか? ま、いいか」


 荘夜が、普段のクールな嘘のように、まるで恋侍のような愉快な口調に変わっていた。

 すでに、『黒い煙』が荘夜の体を乗っ取っていたのだ。




「ニュクスの個人レッスンも兼ねるが……久しぶりに暴れさせてもらうぜ!!」






更新が遅くなってすみませんでした。

来週は、この続きではなく、第二章の第八・五(8.5)話を投稿します。

第三章で投稿したエフェクトとケイパビリティーの解説を、鋭太郎の特訓の一環として移し替えます(本来であればこれが正規の解説編となったものです)

それに伴い、第三章の解説編の内容も変えます。大掛かりな修正となってすみません。


今後とも、よろしくお願いします!

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